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5-12.怨み出でしモノ(前編)


 シンは新しい前線基地で報告をうけていた。

 相手は三賢人のひとり、シキミ・リキニウス。

 その第一印象はインテリ・ヤクザ。顔全体の造りは優男ふうなのに目つきが鋭すぎて残念すぎる。幼い子供がみたら、絶対に泣いてしまうような怖さがあった。

 蛇足だけれど、彼が世界で最も尊いとおもっているのは“微乳”だったりする。


「工事の七割がたが完成しました。土木工事用多脚ゴーレムの追加が明後日に到着するので、予定よりも三週間は早く終わるでしょう。

 なお、現在でも最低限の基地機能は稼働していますので、現地部隊への後方支援は充分ですね。警備体制についても万全の対策をおこなっており、先般の【岩柱砦】と同じ失敗は繰り返しません。

 並行して周辺地域を縄張りとする魔物も駆逐中であり…… 」


 シキミは、ツクモ族のなかでも屈指の魔導研究者である。

 というか、古代魔導帝国およそ一千年の歴史においてもトップクラスの優秀な人物だ。


「今回、作戦対象地であるバーミリオン・ヒルについて説明いたします。

 通称は【城郭都市】。所属する国はゲルマーナ連邦国。地方領主や土着豪族などが連合しており、対外的にはひとつの国家として宣言しておりますが、実際は内紛が絶えません。都市名の由来ですが、幾つかの丘陵を防壁で繋げており、その形を城郭に見立てて…… 」


 シンが建設中の拠点に来訪した目的。

 それは、作戦支援のため。工作班が冒険者組合の施設に潜入して、魔造結晶体【清浄なる娘(ドーター)】にハッキング用の侵入経路(バックドア)を設定する計画だ。

 作戦要員には専門知識を有する錬金術師も同行するのだが、彼やシキミが念話ネットワーク経由で助言することになっている。


「なるほど、状況は理解した。概要説明をありがとう。では、現地視察のために城郭都市へと向かうことにしよう。

 先遣隊に連絡しておいてほしい。街の手前で合流するようにと伝えておいてくれ」


 シンは騎竜ウコンで移動。

 同行者はルナや護衛役などのメンバーで、シキミは基地建設の監督を続ける。

 【邪紳領域】を抜ける途中で、何度か魔物の群れと遭遇するが、これらを難なく撃退した。

 

 弱い魔獣ばかりだし、数も少ない。

 報告にあったように、周辺の魔物駆除を順調に進めたせいだ。ただ、あまり間引きすぎては、付近の人間が侵入しやすくなる。

 新たに建設した前線基地が発見されるのはイヤなので、バケモノどもは適当に残すように注意しておこう。


 半日後。

 【邪神領域】を出た先に、切り立った丘がみえた。


「あれがバーミリオン・ヒルか。なるほど、名前のとおりだな」


 丘の地肌が赤い。鉄分を多く含んだ土壌なのだろう。

 土地名の由来のとおり、まさに【朱色の丘(バーミリオン・ヒル)】だ。


 二脚竜サコンに乗ったルナが寄ってくる。


「あの都市の歴史は古くてね、数百年前からあるのよ。もともとは魔導帝国時代の小さな植民都市だったわ。拡張を重ね続けて大きくなったの。

 街には、帝国時代の錬金研究所が残っていて、そこに設置されていたのが【清浄なる娘(ドーター)】。百年ほど前に、都市代表が冒険者組合に管理を任せたの。

 まあ、古代遺物を扱える専門家もいなかったし、厄介払いした感じかしらね」


「やけに詳しいな。なぜ、そんなことまで知っているんだい? 」


「わたし、現場にいたのよね。当時の経緯を知る貴重な証言者というわけ」


 なんと彼女は、歴史的な生き証人であった。

 さすが不死体質の人物だ。数百年も生きているだけあって、語る内容は真実そのもので、嘘偽りがない。


 ルナいわく、昔の冒険者ギルドは誠実だった。

 組合総長や組織役員はみんな真面目だし、中堅クラスの仕事ぶりも健全。職員が違法行為をすれば、かならず監査がはいって摘発した。被害者には補償もしていたとのこと。

 いまのように阿漕(あこぎ)なことが、まかり通る組織ではなかった。

 時間が過ぎるにつれて、腐敗していったのだろう。


 人の業(ごう)を感じてしまう。

 世界や時代が違えども、人間には欲深い性(さが)は共通している。なんともやるせないことだ。

 そうこうするうちに迎えにきた先遣隊と合流し、城郭都市へとはいった。


 彼らが泊まるのは小ぶりながらも上品な高級宿。

 部屋の調度は落ち着いたものだし、提供される料理も美味いとのこと。

 既に宿泊していた隊員たちは、ずいぶんとリラックスした様子。

 作戦期間はそこそこ長いし、ずっと緊張しっぱなしは精神的にもよくない。ほどほどに力(りき)みが抜けているのが良い加減だろう。


 シンは積極的に部下たちと雑談を試みる。

 現地作業者との会話は、ものすごく大切だ。特に組織トップにあがってくる情報は間接的だし、報告は概略化されている。

 だから、直接に現場の雰囲気を把握するのは重要だ。


 この宿にいる者たちの役目は拠点確保であった。

 工作活動用に一軒家や倉庫などを買い上げるか賃貸契約する予定だ。それも一ケ所ではなくセーフハウス(避難場所)を含めて複数を用意せねばならない。

 思い通りにならないことも多いようで、時おり愚痴も混じったりする。


 そんな会話のなかで奇妙な話がでた。

 売り出し中の物件があるのだけれど、買手がつかない倉庫があるという。理由は、怪異が現(あらわ)れるので、誰も購入したがらないとのこと。


 先遣の女性隊員が喜々と語ってくれる。怪談が好きらしい。


「物件主は妖精の怨みをかったとの噂なんですよ。夜になると怪しい炎が漂い、恐ろしい声で脅すのだとか」


 畏(おそ)れをなした主はご近所に相談する。

 それを聞きつけた若者たちが退治してやると名乗りでてきた。

 定職にもつかず、親の金で遊び暮らすチンピラみたいな連中である。小遣い稼ぎができると思ったのだろう。


 若者五名は件(くだん)の建屋でひと晩を明かすことにした。

 食べ物や酒を持ち寄っており、徹夜で宴をするつもり。誰も怪異の話なんて本気にしておらず、ただ集まって騒げればそれで良かった。


 翌朝。全員が素っ裸で床に倒れていた。

 口から泡が噴き出し、眼は白目をむいたまま。しかも、全身いたる所に切傷があって、身体中が血で真っ赤に染まっている。

 幸い、命はとりとめた。外傷は皮膚の表面を薄く切り裂いただけで、内臓に致命的な傷はなかったためだ。


 しかし、彼らは極端な怖がりになってしまう。

 ちょっとした物音ひとつで飛びあがり、肩を触れられただけで泣きだす始末。何があったのかと尋ねても、ブルブルと身体を震わせるばかりで誰もが口をつぐんでいた。よほど酷い目にあったようである。


 困った主は冒険者組合に依頼をだす。

 倉庫に出没する迷惑な妖精を退治してほしいと。

 何組かの冒険者チームがやってきたが、いずれも仕事を失敗した。


 たとえば女性三人組の場合。

 先日の若者と同様、ひと晩を建物内ですごす。

 朝になって発見されたのだが、眠りこける彼女たちの腹はパンパンに膨れあがっていた。


 女たちの話によると、精霊に歓待されたとのこと。

 たくさんの料理がでてきて、楽しい宴が催されたのだ。どれも美味かった。特に酒は口当たりも良くて、ついつい幾杯も飲んでしまう。

 妖精たちは、次から次へとワインを注ぎ、女冒険者は勧められるままにグラスを傾けた。すっかり上機嫌になって歌い踊り、最後にはベロベロになって寝てしまう。


 だが、彼女たちは誑(たぶら)かされていたのだ。

 朝になって、料理を確認したのだけれど、お皿に盛ってあったのは土団子や雑草、昆虫やミミズを刻んだもの。カップや木樽を満たしていたのは泥水だ。

 とてもではないが人間が食せるものではなかった。


 倉庫主は、最期の手段として司祭に相談する。

 なぜ、一番後回しにしたかというと、お金の問題であった。

 建前上、教会は無料奉仕を謳っているが、実際には高額なお布施を強要する。ましてや、悪魔祓いや精霊を追い払うなどの儀式は割高で、一般庶民には金銭的負担が大きい。

 とはいえ、背に腹は代えられず、主は頼むことにした。


 やってきた聖職者は三十歳台の壮年男性。

 聖法術も使えたし、実績も充分な人物であった。これならば期待できると依頼主は喜んだけれども、結果は無残なもの。


 司祭は毛を刈り取られていた。

 頭髪はもちろん脇や局部にいたるまで全てがツルツルな状態。しかも全裸で路上に放置されていたのだ。さすがに外聞も悪くて、彼は救出された日のうちに都市を逃げ出てしまう。


 オカルト好きの女性隊員が面白おかしく現状を語った。


「そんな経緯があって、物件主は倉庫を売りにだしました。でも、“いわく付き”の物件を購入するモノ好きはおらず、いまだに売れ残っているそうです」


「なんとも面妖なことだね。ルナはどう思う? 」


「う~ん、話を聞くだけなら妖精の類(たぐい)の悪戯よねぇ。怪我人が出たけれど、死んだひとがいるワケでもないし、可愛いものじゃない。放っておいても問題なしかなぁ」


 彼女は、この件に関わりたくない様子。

 シンも同じ気持ちだったりする。

 できることならば、精霊だとか神々とは無縁で過ごしたい。

 超常的存在は、こちらの都合を無視して厄介事を押しつける。一方的に【神告】で『あれをしろ、これを為(な)せ』と強要するので迷惑このうえない。

 正直にいって、“敬して遠ざける”程度の関係が良いのだ。


 だが、女性隊員は納得しない。


「え~、ルナさま。そんなツレないこと言わないでくださいよ。

あの倉庫、手ごろなので欲しいんです。冒険者組合の建物から程(ほど)よく近く、それでいて裏通りにあって目立たない。住居部も併設しているから快適にすごせます。なにより、相場よりも売値が安いのでお買い得なんです」


「ねえ、あなた。それは遠回しに悪戯精霊を退散させろって言ってるのかしら? でも、タダ働きはイヤよ。なにかご褒美がでるなら、やる気がでるかもね」


「わかりました。街一番と評判のケーキ屋さんがあります。わたしが奢(おご)りましょう」


 ルナと女性隊員たちは、“お茶も追加しろ”とか条件交渉を始めた。

 いつの間にやら、話題は妖精からスイーツに移っている。

 女性たちの話題転換の早さに、男性陣はついてゆけず首をふるばかりであった。

 

 結局、話の決着がついたのは一時間後。

 ルナが話題の建物へゆくのは当然だけれど、なぜかシンも同行することになっていた。

 彼は同意した覚えもないし褒美すらなし。それどころか、女性全員にケーキセットを奢(おご)る約束までさせられる。とても理不尽だ。


 翌日。


 問題の物件へむかった。

 建屋の中にはいるのは彼らふたりだけで、警護役たちは屋外で待機。大人数だと件(くだん)の妖精がでてこない恐れがあるためだ。


 殺風景な倉庫であった。

 大きな棚が並んでいるけれど、価値ある物品はすべて運びだされている。残っているのはガラクタだけで、床にはゴミが散乱したままだ。


 彼らは軽食をもちこんでいた。

 サンドウィッチや香茶をテーブルにおいて、軽めの夕食をとる。

 怪異が出現するまで暇なので、ふたりでカードゲームを楽しむことにした。ここ最近、バタバタと忙しかったので、いい息抜きだ。


 夜半ごろ。


 薄暗い室内に光が浮かびあがる。

 どうやら現(あらわ)れたようだ。







 ■現在のシンの基本状態


 HP:82/82

 MP:98/98

 LP:47/64


 活動限界まで、あと四十七日。


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よければ、読んでみてくださいね。
【わたしを覚えていて、天国にいちばん近い場所で】
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