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3-15.押し込み強盗

 シンはホテル裏の獣舎にいた。

 眼前には、場違いな野郎どもが十名ほど。むさ苦しい男たちは、騎竜に踏みつけられるか、倒れ伏している。


 あたりに散乱しているのは、布袋や木箱など。

 袋のなかは金貨や銀貨だ。硬貨が地面に散らばってキラキラと光っていた。

 箱の多くは破損していて中身が見えているのだけれど、それらは高価な代物(しろもの)ばかり。


 すべて彼の所有物である。

 金銭は、【邪神領域】で採取した素材を売却して得た。物品は、売上金を元手に買い集めたもの。これら全部は、旅荘に預けて管理してもらっていた。建物裏の獣舎にあるはずのない品々だ。


 こいつらは強盗の集団である。

 逃走しようとしたところを、二脚竜たちに迎撃されたのだ。


 シンは、ウコン(騎竜)たちの頭をなでてやる。


「やあ、ごくろうさま。よく捕まえてくれたね」


 ウコンとサコンは自慢げに鳴いた。

 他の騎獣たちも“不埒者は逃がさないぞ”とばかりに、捕えている男に爪をたてる。なんとも優秀で頼もしい。


『ミドリもありがとう。君のおかげで盗難を阻止できた』


『どういたしまして、マスター』


 相手(ミドリ)は魔造結晶体で、本体は【岩窟宮殿】にいる。

 彼女は、念話ネットワークを利用して後方支援を担っていた。

 盗人どもが、主(シン)の所有物を持ち出すのを防ぐべく、彼女は指揮下の二脚竜に指示をしたのだ。


 シンは怪我で呻(うめ)いている連中に声をかける。


「おやおや、これはまた奇遇なことで。盗人のなかに見知った人間が二人もいるとは驚きだ。

 にしても、非常時になにをやっている? いま、白霧のなかを出歩けば、バケモノに襲われて命がないぞ」


 見覚えのある人物の一人目は、元・鑑定人であった。

 冒険者組合から派遣されてきた男で、能力は高かったものの、非常に手癖が悪い。鑑定中の物品をくすねようとしたので、すぐに解雇にした。


 見知った顔の二人目。それは商人だ。

 コイツは【邪神領域】の希少素材を仕入れようとする。

 ただし、売買契約は不成立。理由は、法外なほどの安値で買い叩(たた)こうとしたため。しかも、値段が合わないと売却を断ったら、こちらを脅迫してくる始末。

 商売人というよりも強請(ゆすり)屋だ。


 シンは、ルナとグレゴワール翁に声をかけた。


「頼みたいことがある。ホテルのなかを見てきてほしい。なかの人々がどうなっているか気がかりだ。私は、こいつらを逃がさないように拘束しておくから」


「ええ、たしかに心配よね」


「フンム、任しておけ。なかの者たちを助けてやろうかいの」


 盗人どもを縛りあげてゆく。

 怪我人ばかりだけれど、手当は最低限。

 重傷者には布で止血するくらい。他の低~中程度の負傷者は放置する。クズどもが痛みを訴えても、聞く耳なんぞ持っていない。

 他人さまの金品を盗むような輩(やから)だし、もっと苦しめと思うくらいだ。


「さて、元・鑑定人サンよ。こんな再会の仕方は本当に残念だな。どうして、こんな所にいる?」


「ご、誤解だ。俺はたまたまホテルに用事があっただけなんだよ。なのに、いきなり獣に襲われてしまって……」


 口から出てくるのは白々しい嘘。

 言葉は薄っぺらで、その場かぎりの言い訳ばかり。懸命に愛想笑いをうかべているが、とても卑しい表情だ。信じるどころか、疑わしさ倍増である。


 シンは、相手の頬をペチペチと叩きながら、


「実際は違うだろうが。ついでに教えておくが、私が貴重品を輸送する途中で野盗に待ち伏せされたことがある。もちろん、返り討ちにしてやった。

 で、捕まえた者どもを尋問したんだ。輸送計画の情報を漏らしたのが、お前だと白状したぞ」


「ち、ちがう。俺はアンタのことを売ったりしない。なあ、信用してくれよ」


「無理だな。キサマは、息を吐くように嘘を吐く。罪の意識なんて全くない。平気で虚偽をなす心根は、クズそのものだ。

 それにしても、冒険者組合もいい加減すぎる。手癖の悪い者を寄こしてくるとはね」


 ギルドに対する信用はガタ落ちだ。

 彼は、依頼(クエスト)として鑑定知識のある人員を派遣要請した。

 やって来たのは、この下劣な男。盗みをはたらき、野盗に情報を漏洩した。最後には押し込み強盗までしでかす愚か者である。

 根性悪な犯罪者をよこすなんて、審査が甘すぎだ。まったくもって使えない。今後、利用するのは控えるべきだ。


 シンは、二人目の人物にも尋問を開始した。


「なあ、商人殿。先日の交渉結果は、互いの条件が合致せず、売買不成立ということで決着している。双方ともに納得したはず。それなのに、こうして私の元にやってくるとは、どういう了見だ? 」


 彼のセリフは穏やかだけれど、実際の商談は散々なもの。

 コイツ、“俺さまが買ってやるのだから感謝しろ”と非常に高飛車な態度であった。おまけに、買取価格はとんでもない安値を提示。輸送費どころか原価を下回る金額だ。

 とてもではないが無理だと拒否したら、脅しをかけてくるのだから、呆れるばかり。


「なにが不成立だ。お前が悪いんだ。あんな値段ではワシの利益が確保できないだろうが」


「おいおい、本気で言っているのか? 取引交渉なんて、価格が折り合わないなんて幾らでもある。ましてや、物品を盗んでまで入手しようとするとは、言語道断だ。そんな行為は商道に反するのでは? 」


「うるさい。若造が商売の何(なん)たるかを語るなんて、百年早いわ。商(あきな)いは、生き馬の目をくり抜くような強(したた)かさが必要なんだ。

 儲けのためなら、手段は選ばん。詐欺や強奪ですら、立派な商取引なんだよ。それが理解できんヤツは上に登れないぞ」


「なるほど。それが商人殿の基本方針か。まあ、同意はしないが、互いに価値観が違うことだけは理解できたよ」


 シンは、“商売は信用第一”だと思っていた。

 これは前世世界の、正確には現代日本の常識だ。

 しかし、世界共通では“ない”。

 二十一世紀であっても、地域によっては騙されるほうが悪いとされる。相手を謀(たばか)るくらいに、自分は賢くて偉いと評価する文化は存在した。


 信用第一の商売規範は、けっこう歴史が浅い。

 中世ヨーロッパでは、戯曲『ベニスの商人』に登場する金貸しシャイロックのような商売人は多かった。

 で、なにが言いたいかというと、この異世界では悪徳商人のほうが多数派ということ。シンの感覚は珍しい部類なのだ。


 グレゴワール翁とルナが獣舎にもどってきた。

 ホテル内の様子を確認してきたのだが、ふたりの表情は険(けわ)しい。


「酷いものじゃ。こいつらに抵抗した守衛や従業員たちが殺されておったわい。生きている者もおるが、怪我人が多数じゃのぅ」


「ちょっと許せないわね。乱暴されていた女性が大勢いたわ」


 ルナはずいぶんと憤慨している。

 彼女によると、多くの婦女子が強姦されたらしい。

 酷いケースは、母娘そろっての被害だ。

 母親は、娘を守るために我が身を差し出す。しかし、ヤツらは約束を破って、子供も犯した。クズどもの行いは悪逆非道そのもの。


「コイツらは本当に性悪の下衆(げす)だわ。全部まとめて処刑するべきよ」


「賛成だ。ただ、我々が優先すべきは宝珠を探すこと。連中の始末は、ホテルの生き残りに任せよう」


 この異世界では、私刑(リンチ)は一般的だ。

 刑法や司法は未発達だし、行政府による治安維持は不充分。

 そもそも領都には警察組織がない。

 衛士はいるけれど、役目は領主と封土を守ること。たまに犯罪者を逮捕することもあるが、本業ではない。

 

 結局、第三身分(市民)ができることは自己防衛のみ。

 強盗に襲われないように自警団を組織。無法者を捉えれば、自分たちで刑罰をあたえた。だから、今回の被害者に罰を決めさせる行為は、ごく普通のことだったりする。


 ルナも同意した。


「じゃあ、支配人たちに下衆(げす)どもの扱いを任せましょう」


「あ~、ちょっと待ってくれ。考えがある。元・鑑定人と商人は、こちらに貰いたい」


 彼らは、盗人たちを縛ったのち、宿泊先に戻った。

 襲われて怪我を負った人たちに治療をおこなう。

 だが、負傷者の数は多く、薬は少ない。重傷者にだけ魔法治療薬(ポーション)を与えて、延命するのが精いっぱいだ。軽傷者は止血をし、骨折した手足に添え木をするなど、応急処置を施(ほど)しただけ。

 

 本来、外部から助けを呼ぶべきだろう。

 でも、白霧のせいで救援要請は不可能。いま以上の処置は無理だ。しばらくの間、我慢してもらうしかない。


 並行して、強盗たちの扱いを任せた。

 ホテル支配人は強い復讐心を抱いている。部下や宿泊客を殺害され、自身も怪我を負わされたのだ。間違いなく、盗人どもに厳しい私刑をくわえる。

 当然の行為だと思うし、悪党はそれ相応の報いを受けるべきだ。


 シンたちは雑用を済ませたのち、獣舎へと移動。

 地面に転がっている元・鑑定人と商人に声をかけた。


「さて、お前たちは我々と一緒にきてもらう」


「ま、待ってくれ。いったい、なにをするつもりだ」


「フン、そう心配するな。証言してもらいたいことがある。これから起こることを、シッカリと見聞きしておぼえておけ」


 彼らは街の港湾へとむかった。

 全員、無言のまま二脚竜に騎乗して、白霧のなかを進む。相変わらず視界は悪くて、前方十メートルほどしかみえない。


 ときおり、濃霧の奥からバケモノが姿を現(あらわ)した。

 槍イカやホオジロザメは、ゆったりと過ぎ去ってゆく。

 小魚の大群が悠々(ゆうゆう)と泳いでいた。

 その様(さま)をみていると、海の底を歩いているのではと錯覚するくらい。


 宙を遊泳(・・)する海洋性魔物は穏やかだ。

 攻撃する素振(そぶ)りをまったくみせない。先刻まで、シンたちと遭遇した途端、襲ってきたのがウソのよう。

 上位階梯者である【大亀仙霊】から命令されているからだ。


 彼の目的地は港湾労働者組合の建物。

 港で働く運送業者や船大工、荷運人、倉庫業者などがいるはずだ。


 あそこなら、領都港を利用した船舶の情報を収集できる。

 念のため、彼は【探知魔法】で建屋に人間がいるのを確かめた。建物自体は大きいけれど、思いのほか、たくさんの労働者が立てこもっている。

 白霧が迫ってくると同時に避難したのだろう。


 グレゴワール翁が問いかけてくる。


「さて、どうするつもりじゃ? 建物に逃げこんだ連中は、入館を拒否するじゃろうのう」


「まあ、そうだよな。余裕があれば、呼びかけて平和的に交渉するんだが。だが、いまは時間が惜しい。少々強引だが、こじ開けるしかあるまい」


 正面玄関の頑丈そうな扉は締まっている。

 壁面にある多数の窓枠には鎧戸がガッチリとはまっていた。

 どれもがピタリと閉じていて、外部からの侵入者を許さない。

 建造物は静かだけれど、内部にはたくさんの人がいる気配がする。なんだか、息をひそめて外の様子を窺(うかが)っている感じだ。


 シンは騎竜から降りて建屋をグルリと一周した。

 一階の窓すべてに【術符】をペタペタと貼りつけてゆく。

 最後に建物正面へと戻ってきて、鉄扉にもくっつけた。


 【術符】は魔法発動用の小道具だ。

 錬金加工した専用紙に魔法陣を描き、指定した魔法を発動させるもの。あらかじめ設定した術しか起動しないし、威力も低め。使い捨てなので経済性は悪いと、欠点は多い。


 しかし、コレを使用するのには理由がある。

 効力範囲を限定できるのだ。彼の攻撃魔導は破壊力が強すぎるせいで、使用場所を選んでしまう。

 実際、ルナから苦言を呈(てい)されたばかりだ。

 周囲の人間を傷つける危険があるので、迂闊な使用は控えるべきだと。


「準備完了。では、術式展開」


 小さな爆発が幾つも発生する。

 建物全体がビリビリと揺れた。金属製の扉は吹き飛ぶ。窓の鎧戸はすべて地面に落ちてしまった。

 ただ、建物自体にはひび割れひとつない。破壊範囲が充分に制御されたものであったからだ。


 シンは、モウモウと舞いあがる煙のなかを抜けて、建屋内部へとはいる。


「やあ、皆さん。はじめまして」






 ■現在のシンの基本状態


 HP:198/198

 MP:185/210

 LP:73/120


活動限界まで、あと七十三日


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よければ、読んでみてくださいね。
【わたしを覚えていて、天国にいちばん近い場所で】
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