3-07.商談多数(トラブル付)
研究者たちを招いて報告会の開催が決まった。
発端は、シンが大見得をきったこと。
彼は、領都シュバリデンのお偉いさんの前で主張したのだ。
「【バケモノ病】なんてものは、存在しない!」
砦街で発生した生物災害。
混乱の原因は、寄生型魔物と感染症をひと括りにして、区別しなかったこと。両者は別物なのだと証明しようではないかと、断言する。
「私の研究結果を公表しよう。内容は【侵蝕するモノ】の生態についてだ。また、コレラ菌が引き起こす病気に関しても説明しよう」
これを受けて、幾つかの団体が反応した。
「その話は本当なのか?」
「事実なら、新発見じゃぞ」
「まずは詳細説明を聞こうではないか」
主なものは、錬金術師組合、薬師組合、科学アカデミー。
各組織は、彼の研究成果に強い関心を示した。
さらに、発表の場を与えることも決定する。
各団体が積極的に動いた理由。
シンが、【バケモノ病】への対抗策があると示唆したこと。
ここ半年ばかり、都市部では謎の感染症が広がることを懸念していた。そんな状況で、病原の正体を明らかにするという。
しかも、対抗できるのだと主張するのだから、興味をもって当然であろう。
関連する物品を関係者に提供することにした。
「よろしい。では、先行して概要報告書を送付しよう。ついでに、防腐溶液に漬けた寄生型魔物の標本も追加しようではないか」
現物の標本体は、研究者たちの好奇心を刺激する。
話を聞いてみようかという気にさせるには、もってこいのサンプル品であった。
発表会の開催日時は、ずいぶんと先になる。
というのも、聴講者たちの移動に、時間を要するためだ。学者たちは、領都だけでなく王都や他都市で拠点を構えており、遠方からわざわざやって来るという。
研究調査のためとはいえ、ご苦労なことだ。
「発表する日まで手持ち無沙汰だぞ。あまり、時間を無駄にしたくないし、どうしようか。う~ん、いっそのこと計画を前倒しして、各種物品を買い集めることにしょう」
対象は、書籍や巻物といった知識関連など。
他にも、珍しい物や【邪神領域】では入手不可能な素材などを購入したい。幸い、軍資金は潤沢にある。
彼は考えた。
自分から出歩くのは効率が悪いなぁと。
しばらくして、商人たちに購入条件を示して、以下のように伝えたのだ。
「エエもん持ってこいや! 気に入ったらバンバン買取ったるでぇ~」
素早く反応したのが“小太り代表”。
この大手商会会長は、以前からバーター取引を提案していた。条件に合う物品も準備中であったらしく、その動きは驚くほど早い。
すぐに、双方でやり取りを開始。
丁々発止の交渉の末、商談が成立して、お互いにこやかに握手を交わす。
シンは各種物品を購入。
商会代表は希少な宝石類を手にいれた。
同時に、他の商人たちも参加してくる。
領都で目端の利く者たちが、さまざまな物資を抱えてやってきたのだ。宿泊先の高級ホテルは、臨時の展示会場と化してしまう。
ここで困ったことが発覚した。
「持ち込まれた品々には偽物が混ざっているじゃないか。
おまけに、私には真贋を判別することができない。たとえ本物でも、安物だって含まれているはずだ。このままだと、無駄金をつかうことになるぞ」
「じゃあ、鑑定専門家を雇ったらどうかしら」
ルナが、アドバイスしてくれた。
商工会や錬金術師組合では、各専門家を派遣するサービスがあるとのこと。さっそく、商品鑑定の人員を手配する。
彼女の助言に従って、報酬はニコニコ現金払いだ。
しかも、出来高払い制、割増しボーナス付の大判振る舞い。おかけで、みんなバリバリ働いてくれた。それはもう徹夜するくらいに活躍したのだ。
結果、七割はガラクタか偽物だと判明。
価値あると判断したものは、持ち込まれた物品の三割ほど。
商人どもの性根の悪さにあきれてしまう。
「いや、商いって信用第一だろうに。私の常識は間違っているのか?」
「あら、なにを驚いているのかしら。商売人なんて、そんなものよ。騙されるほうが馬鹿呼ばわりされる。謀った側は、上手くやったと自慢するくらいだしね」
「むむ、よくわかった。この国には阿漕な連中が多数派なのだな。では、性悪セールスマンは出入り禁止にするぞ。文句は言わせない」
購入品は、知識関連のものが多かった。
本来の目的である、『寿命を延ばす』のに役立ちそうな錬金術や魔導、薬学関連の書籍や巻物などだ。
目的外の品々も、けっこう買っている。
ツクモ族たちの要望が凄かったから。
毎晩、シンは念話ネットワークで【岩窟宮殿】と情報交換をしている。
ある日、補助人格ミドリが教えてくれた。
ちょっと報告しづらいというか、表現に困っている口調だ。
『一部で、欲求不満が溜まっています。特に女性の方々ですね』
『えっ、どういうこと?』
『外部社会への関心が強いようです。具体的には、服装などのファッションやアクセサリー、化粧品など。他にお菓子やスイーツ系の情報を渇望しています』
『あ~、了解した』
彼は、希望された物品の購買を即決。
どれも、さほど高額なものではない。
たっぷりと買取ったとしても、必要経費だと割りきれる。
いや、追加で大量購入すべきだと思ったくらいだ。
理由は、反乱を懸念していたから。
今のところ、ツクモ族との関係は良好だけれどが、けっして油断をしてはいけない。
彼ら眷属たちは、非常に能力が高いのだ。
身体的能力は高性能で、力自慢の硬殻兵士と一対一で対等に戦える。魔法も使えるのだから、歩く戦術兵器と表現しても良いくらい。
そんな相手を怒らせたら、どうなることやら……。
みんな忠誠を誓ってくれている。
でも、それを信じて漫然と過ごすのは危険だ。
指導者は、部下の忠義に応え続けねばならない。
上記の背景もあって、【岩窟宮殿】で待機している連中向けにお土産を多数購入することにする。
臨時雇いの鑑定人で、手癖の悪い奴がいた。
高級ホテルには高価な品々を並べていたのだけれど、これを盗もうとしたのだ。当然、盗人をきつく叱責して、すぐに解雇する。
ルナが、処分が軽すぎると諫言してきた。
彼女は助言役としての忠告だと前置きして、
「叱っただけで済ますのはダメ。依頼主の対応が甘いと、請負人に舐められてしまう。もっとキツイ処罰を与えないと後々面倒がおきるわよ」
この異世界は“力こそ正義”がルール。
法律なんか、あってないようなもの。
国家だけでなく一般市民でも同じだ。第三身分である平民同士の諍いは、当事者の間で解決しなければならない。
犯罪行為に対して刑罰の相場観というものがあった。
一般基準からすると、単なる解雇処分はあまい。
しかし、シンはあいまいな表情で、
「まあ、いいんじゃない。ヤツとて反省しているだろうし」
日本人らしい、いい加減さで判断してしまった。
その価値観は現代日本のもので、あまり過激な懲罰を好まない。
だが、ルナのアドバイスのとおり『郷に入れば郷に従え』を実践すべきであった。この決定が、後で新たなトラブルを引き寄せることになるが、彼には知る由もない。
買い集めた物品は結構な量だ。
これらを本拠地の【岩窟宮殿】へと後送することにした。
ツクモ族たちに受け取りに来てもらうように手配。合流するのは、砦街キャツアフォート手前にある壊れた橋のあたりとする。
翌日。
騎竜たちに荷物を載せて領都を離れる。
ふたりは二脚竜に騎乗して、のんびりと移動してゆく。
いまの街道は、人々の往来がほとんど“ない”。【バケモノ病】騒動のせいで、街が放棄されたためだ。
にもかかわらず、道路中央に十数人の集団がいた。
あからさまに怪しい。
クズで醜悪な顔つきな野郎どもだ。
しかも、笑ってしまうくらいに典型的な台詞を吐きちらす。
「ヘヘッ、積荷をすべて置いていきな」
「お前が、お宝を運んでいるのは先刻承知だぜぇ」
「そこのきれいな姉ちゃんは残れ。たっぷりかわいがってやる」
シンは思わず苦笑い。
相手の発言が三文芝居そのもの。
“マジで本物なのか”と疑ってしまうくらい。
ついでに言うと、ずっと手前で野盗の存在を把握している。上空にはツクモ族の鷲タイプが偵察活動をしていて、事前に注意を促してきたからだ。
同行していたルナは余裕たっぷり。
彼女は強盗どもを怖がっていない。
イザとなれば、賊徒ぐらいは軽く排除できるからだ。
「きゃ~怖い(棒)。待ち伏せされちゃったわね。
貴方はどうするつもりかしら? わたしの契約内容は助言役であって、護衛役じゃないのよね。もし、戦えってお願いするなら、別料金が発生するわよ~」
「そこはサービスしてほしいなぁ。結構な金額を支払っているのだしさ。そもそも、貴女も襲われるのだから、ちゃんと対応しようよ」
シンは、ぶつくさ言いながら試作魔法銃を構える。
騎乗したままだが、あらかじめ弾は装填しておいた。
銃声が響く。
「ギャ!」
盗人のリーダーがぶっ倒れた。
胸部に十センチほどの大穴が空いている。
この穴は、弾頭の魔法陣が起動した結果によるものだ。
銃弾の物理的貫通力によるものではない。発動した魔法は火属性系で、賊徒の体内で小爆発が発生。プスプスと燻る煙と肉が焼け焦げる匂いが、周辺一帯に漂った。
直後、野盗どもが吹き飛ぶ。
「うわ~!」
「なんだ、コイツは?」
「に、にげろ」
騎竜たちが突進して、体当たりをぶちかましたのだ。
これには連中もビックリ。
荷運び用の二脚竜と勘違いして無警戒であったところに、いきなり重騎兵並みの勢いで衝突されたのだから堪らない。
ほんの一瞬で、強盗団の半分が死傷した。
もともと性根の腐った輩だ。
襲う相手の力量が、どれほどのものかを推し量れていない。自分たちの方が多勢だからと、安易に考えているのが命取りだ。
弱いやつには嵩にかかって高飛車にでる。
逆に、敵が強者だと判ると卑屈になってしまう根性なしだ。ヒエェと情けない声を発して逃げ出した。
シンは騎竜から降りて試作銃を操作する。
デザインは、ドイツ帝国のモーゼルM一八七一を参考にした。構造を単純にするため単発式にしている。連射ができないのが、ちょっと残念だ。
「チッ、詰まったか」
試作品のせいか、つくりが少々あまい。
レバーが途中で止まってしまった。
使用済み薬莢を排出し、別の銃弾を装填しようとするが、何か引っかかっている。どうにも内部機構の精度が良くない。
ガチャガチャと何度か前後させて、ようやく次弾装填が完了。
片膝射撃の体勢をとる。
銃本体の重量バランスが悪くて取り回しがしっくりこないけれど、強引にホールドした。試作小銃は発射時の反動が大きい。
しっかり固定していないと、弾丸はあさっての方向にとんで行ってしまう。
トリガーをひいたが弾がでない。
「また不発だ」
すぐさまレバー操作して新しい銃弾を詰めた。
照準を合わせて発射、賊徒の背中に命中する。
連続で排出、装填、射撃と同じ動作を繰り返して、逃げる野党たちを始末した。
「う~ん、試作小銃銃は問題アリだな。全体的に本体のつくりが粗い。修正するには、工作機械の精度向上から始める必要があるぞ」
錬金弾の改良も考えないと。
反動が大きいのは弾薬のせいだ。
銃本体側が原因ではない。実用に耐えうるモノに仕上げようとしたら、けっこう手間がかかってしまう。
ルナは、彼の様子を興味深そうに眺めていた。
表情は楽しそうで、野盗に襲われたことはまったく気にしていない。
「ねえ、その小銃ってチョットばかし変わっているわね。弾丸の込め方も今までのものとは違うし。それに威力が桁違いだけれど、ソレっていったいなにかしら?」
彼女が興味を示すのも当然であろう。
試作した魔導銃は、元込め式で前世知識を参考にした。いっぽう、この異世界では、先込め式のマスケット銃が一般的である。
十八世紀の時代に、十九世紀の武器が現れたのと同じだ。
関心を持たれてもしかたがない。
「コイツは、私が作った作品だ。だたし、詳しいことは語れない。それよりも、盗人の生き残りを尋問しよう」
クズ三人が呻いている。
騎竜たちに背中を踏まれて、息も絶え絶えといった様子。連中のセリフだと、事前に情報を得ていた。
シンは、むさ苦しい野郎どもの腹を蹴りつける。
小銃を頭に突きつけて、素直に白状しないと脳みそが飛び散るぞと脅した。
問い詰めて判明したこと。
情報漏洩の元は、彼が追放した鑑定人であった。
「はぁ~、温情が仇になったのかぁ」
「わたしが、お給金分の働きをしているのを認めてくれるかしら? 感謝しているなら、具体的な形で示してくれると嬉しいわ」
ルナはちゃっかりと要求した。
でも、嫌みな雰囲気はまったくない。
彼女は騒動を楽しんでいるだけで、お金が欲しいワケではないようだ。なんとも豪胆な性格である。
その後、ふたりは無事に中継点に到着した。
待機していたツクモ族たちに荷物を引き渡す。
ただし、帰りには荷運び用の騎竜が増えているに、ちょっとプレッシャーを感じてしまった。【岩窟宮殿】の留守番組は、お土産の追加を熱望しているらしい。
―――なんや、要望リストまで、あるんかいな。
ええっと、アクセサリー、ドレス、バッグに化粧品など。女性モンばっかりやで。
えっ? 男どもの要望は無視しろってか。
なんか、双方の力関係が判ってしまうなぁ……。
うん、わかった。わかったさかい。たくさん買って戻るから、もうちょい、待っててくれへんかな。
■現在のシンの基本状態
HP:198/198
MP:210/210
LP:91/120
活動限界まで、あと九十一日。




