2.第10章 春分の神事1
雪の季節が終わり、植物の芽が伸び始める季節となった。
明白神が、温かい陽光を大地に降り注ぎ、生き物たちが活発に活動を始める。
卜占科の人々は、春分の神事の為の準備を始めていた。
ピラミッドの祭壇の影が、正しく春分の日の位置に来るか、日々の計測を怠らなかった。
シバルバ国のいたる所で、観測のための日時計が設置された。
卜占科以外の、シバルバ族の人々にとっては、春分の神事は、祖先のお墓に、お参りをする日であった。
自分達の祖先を敬い、今は明白神と共にいる祖先に、祈りを捧げる日だ。
家族と親戚一同が集まって、祖先のお墓をお参りし、特別な料理で、昼から夜まで会食をした。
ただ、今回の春分の神事には、国を挙げての大きな競技が追加された。
それはヤコック王の提案で、ウサギ狩りの競技が、催される事になったのだ。
拳闘場に放たれたウサギを、馬上で馬を操りながら、弓で射止める競技だ。
射止めたウサギの数で、勝敗が決まるルール。
王族、一般民の区別なく、腕に自信のある者が参加できる。
これは、ゴ族の軍備拡張の知らせを聞いたヤコック王が、シバルバ族の馬上の技術や、弓の技術を向上させるために、思いついた競技であった。
優勝者には、シバルバ石を磨いて創り上げたドクロが、贈られる事になっていた。
皆、貴重なシバルバ石のドクロを獲得しようと、競技の練習に励んだ。
ヤコック王の思惑は、成功した。
コアトルも、もちろんこの競技に参加する為に、毎日練習をしていた。
「エカリー。午前中の御先祖様への、お墓参りが終わったら、拳闘場に来て、僕を応援してね。」
「もちろんよ、コアトル!!!。」
「いつも夜まで練習していたんだもの。絶対優勝してね!!。」
「ありがとう、エカリー。絶対優勝するよ!!!。」
そう言うとコアトルは、エカリーの手を、両手で握りしめようとした。
だが、エカリーは自分の手を引っ込めて、コアトルに握らせなかった。
「えっ。何?。どうしたのエカリー?。」
「何でもない。何でもないから。コアトル。」
そう言いながら、エカリーは、自分の両手を見せまいと、後ろに回した。
サッと、コアトルが、エカリーの手をつかまえると、その手は、あかぎれで血がにじんでいた。
「どうしたの?。こんなに痛々しい手になって…。」




