2.第8章 双子の王子1
神に仕える、特殊な種族のシバルバ族では、双子の出生は忌み嫌われていた。
暗黒神と明白神の二神の生まれ変わりと、捉えられていたからだ。
暗黒神と明白神は、同時に現れる事は無かった。
青空のもと、白い雲が実体化して明白神が現れていると、暗黒神が現れる事は無かった。
またその逆に、黒雲に覆われ暗黒神が実体化している時は、明白神の姿は無かった。
二神を同時に見る事は、無かったのだ。
その二神が、同時に現れた状態をしていると云う事で、何かの前兆ではないのかと恐れ、嫌った。
他の種族では、そのような事は無かった。
サーベルタイガーのキチェ族では、一度に1~5体生んだし、マント族も1~2体を出産した。
二神に仕える、シバルバ族特有の慣習であった。
一般的に、双子が生まれると籐で編んだ大きなかごに入れて、川に流してしまう事が多かった。
そのままでは死んでしまうが、運が強ければ、誰かが拾って育ててくれる事を期待し、川に流したのだ。
しかし今回は、王族の血を引き継いでいる。
シバルバ族の慣習通りに、川に双子の王子を流してしまって良いのだろうか?。
出産したヴェールは、川に流す事に反対し、そのまま育てたいと主張した。
王族たちの大討論が、始まった。
この問題に終止符を打ったのは、オールド・イサムナの子、イサムナだった。
イサムナは、子供の頃から神童と呼ばれ、その卜占の見立ては、外れた事がなかった。
卜占科の人々から一目置かれた存在で、父亡き後、卜占科の長官の職に、若くして就いていた。
良く「当たるも八卦、当たらぬも八卦」と云う「ことわざ」があるが、イサムナに言わせれば、「当たるは八卦、当たらぬは八卦観」だと云う。
つまり、八卦は常に真実を現しているが、それを見立てる術者の力量が足りないと、外れてしまう事があると。
卜占は、常に正しい答えを導いてくれる。
ただ、それを読み取れるかが問題だと。
イサムナの見立ては、双子の王子を、川に流せと出た。
それが、二神の意志であると。
若きヤコック王とイサムナは、ヴェールに悟られないように、ある夜、生まれたばかりの双子の王子を、籐のかごに入れ、川に流してしまった。
この事を知ったヴェールは、半狂乱になって、イサムナに食って掛かった。
その時の形相たるや、まさに殺人鬼のようであった。
イサムナは、このヴェールが、自分の父を毒殺した事など知る由もなかった。
ヴェールをなだめて、気遣いながらも優しく説得した。
もし、父の死について、イサムナが卜占をすれば、その答えが分かった事だろうが、イサムナもまた、善良なシバルバ族の一員だったのだ。
父の死について、疑問を持ち、卜占をする事は無かった。
失意に打ちひしがれたヴェールであったが、いつしか年が過ぎ、待望の出産を迎えた。
次期王子の誕生。
コアトルが、生まれた。




