2.第5章 冬至の神事4-4
何十万のシバルバ族が、冬至の神事を観ようと、それぞれの村々から神殿に集まっていた。
神殿のピラミッドの回りには、それぞれの村々から貢物が集められ、それはそれは壮大な光景であった。
一年の無事を感謝して、農作物や家畜、工芸品を持って来ていたのだ。
そのピラミッドの最上階、黒い石板に、マヤウェルは縛り付けられていた。
朝から延々と続いていた冬至の神事も、最後の儀式を迎える時間になっていた。
最後の儀式。それは処女の心臓をえぐり出し暗黒神に奉げる儀式だ。
すでに空は黒い雲に覆われ、暗黒神がうごめいている。
青く光る鋭い切っ先の短剣を持ったヤコック王が、マヤウェルに近づいて行った。
「シバルバ族の守りの石を取るぞ。」
ヤコック王はそう言うと、マヤウェルの首にかかったシバルバ石のネックレスを引きちぎった。
「このシバルバ石があっては、暗黒神が近寄れないからな。」
マヤウェルは観念したように、うつろな瞳をヤコック王に向けた。
ヤコック王の手のひらの中で、シバルバ石は、いつになく輝きを増していた。
観衆達の大合唱が始まった。
シーバルバ! シーバルバ! シーバルバ!
「マヤウェルよ。おまえは死ぬ訳ではない。神々のもとへ、行くだけなのだ。明白神に守られて、未来永劫の平和な日々が待っている。明白神に抱かれて、我々を天空から守ってくれ。」
シーバルバ! シーバルバ! シーバルバ!
「お前は、神が指名した高貴な生命の持ち主なのだ。」
シーバルバ! マヤウェル! シーバルバ! マヤウェル! シーバルバ!
観衆達の大合唱とは別に、マヤウェルの名を呼ぶ大合唱が加わった。
コアトルやエカリー、ポポル達らの同じクラスの同級生が、マヤウェルの名前を大きく叫んでいた。
その声を聴いたマヤウェルは、今までこらえていた感情があふれ出した。
その瞳から、とめどなく大粒の涙がこぼれ落ちた。
ヤコック王の短剣がマヤウェルの心臓を切り裂き、鮮血で王の礼服は真っ赤に染まった。
ヤコック王がその心臓を高々と天に向けると、吹き抜ける風のように暗黒神が、その心臓を奪ってしまった。
王の手のひらには、鮮やかな赤だけが残った。
エカリーやクラスの同級生達は、その場に崩れ、ただ抱合って泣き続けていた。
暗黒神が連れてきた黒雲と激しい雨の中で、最後まで抱合っていた。
人々が帰った後も、雨の中で、ずっと。
今まで気に留めていなかった「いけにえ」が、自分達の知合いから出てしまうとは……。
暗黒神の気まぐれなのか、それとも、これが崩壊の芽生えなのか……。
はたしてこれからシバルバ族は、どうなって行くのか?。
コアトルとエカリーは、シバルバ族の未来を創り上げて行く事が出来るのか?。
興味は尽きませんが、今はここまでで。




