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ムーサイの泉 BC486 4月

ムーサイの泉の地図はアレクサンダー大王訪問時の物ですので若干時代が下がるのですがわかりやすいので採用です。

デマラトスはサムニウム族と対決です。本人にしてみれば急な方向転換でしょうが、サビーネ族やウンブリア族もローマの西で状況を眺めています。戦況によってはラテン同盟が再度結ばれるのが100年早まるかもしれません。そのあたりを直観的に判断していると思います。

それに比べてアーシアののんびりしていること・・・大丈夫か主人公?

=BC486 4月8日 ローマ トラキアーノ地区 デマラトス=


凱旋式の翌日、俺は依頼していたものの試作状況を確認に陶器工房へ向かった。

陶器工房に頼んだのは尖った3cmほどの円錐で後ろに差し込み用の穴が開いた陶器である。

素焼きと釉をかけたもの2種類が出来上がっていた。

工房主が言うには一日1000個単位で焼けるそうである。

とりあえず10000個ほどオーダーした。

この円錐は投槍の穂先である。

この時代の投槍の必要要素は「安いこと」「適度な重さとバランス」「先端が折れやすいこと」

この3点が求められる。先端が折れやすいのは外れた槍を拾った相手が投げ返してこないようにするためだ。

従来だと削った後に、黒く焼いて固くするぐらいだったのだが、その部分に陶器を用いてみることにした。

硬度はけた違いだし、外れれば地面に突き刺さって抜ける・・・人体に刺さって槍を抜いても体の中に穂先が残ることになるが・・・素焼きの穂先は液体をしみこませやすい。使い方次第では面白い方法がいろいろと浮かぶ。


次に向かったのはワイン醸造所であった。

ワインそのものはローマでも豊富に消費されているが、どうしても腐るワインがある。

従来は肥料に回したりしていたのだが、蒸留して酒精を集めることにした。

とりあえず簡単にできる70%オーバー品を大量に作って陶器の壺に閉じ込めている。


この二つはセットで一つだ。

もし敵が同様の穂先を作り出したときに、こちらはアルコール消毒しながらの切開で取り出す。

敵はそれができない。その差は大きい。


陶器工房と酒造という場所で軍事物資を作ることになるとは思わなかったが、まあ結果オーライで

トラキアーノ地区で賄えたので良しとしよう。


連れてきた奴隷の多くはここの市場や工房での働き手として使っている。

軍団員に配給した残りでも1000人以上の奴隷が手に残った。

今、奴隷の技能に合わせて職業につけている最中だ。


軍団員の募集も今日から始まった。

トラキアーノ市場の運営益で養える軍団員の数は現状2000人程度、今後奴隷がなじんでいけばより多くの益をあげ、人も増やせるだろう。

兵の募集は何の問題もない。軍団員への奴隷の配給が効いたようで志望者が殺到している。

少なくとも4個歩兵隊は作りたいと思っていたが、今日だけで1000人、10個歩兵隊が出来上がるほどだ。


絶対指揮権インぺリウムを元老院が認めたせいでプロコンスルと同じ権限を持てたのは大きい。

ローマの総兵力が約2万人、その1割近くを指揮できるのは幸運としか言いようがない。


兵員の訓練を進めている中で兵を選抜し8個歩兵団を作り出した。

順番に13から20番を割り振る。

部隊配置を若干変更して

ハスターリは第13、14、15、16、17、18、19、20歩兵部隊

プリンチペは第8,9,10、11、12歩兵部隊

トリアーリは第1,4、5、6、7歩兵部隊

となった。


訓練に約半月、5月の声が聞えそうになるころ、南の巡回をしていたローマ軍が山賊に襲われ壊滅するという事態が起きた。

山賊とはサムニウム族のことである。

北のエトルリア人と匹敵する武力で南イタリアの山岳地方に覇を誇る、彼らは史実でもさんざんにローマを悩ます存在であり、一度は敗北に近い講和すら結んでいる。

彼らの戦法は山岳ゲリラ戦で平地の大規模戦に向いたローマ軍では対応できなかったというのが事実で、この戦い、まともに戦えば長引き、ローマが疲弊することを俺は直観的に悟った。

そこで、元老院に意見を上げ、トラキアーノ軍団を南方戦線に向かわせてもらうことになった。

その意見は即日承認され、鳥占いの結果、翌4月28日に出陣式を行い、南に向かった。


=BC486 4月15日 ヘリコン山 アーシア=


ヘリコン山はコリントスからコリンティアコス湾を挟んで北側に存在するので船で2日で到着した。

ムーサイにまつわる泉はアガニッペとヒッポクレーネの二つがあるが、アガニッペは詩がヒッポクレーネは音楽と歌に霊感を授けるといわれている。

ヒッポクレーネは海から北に10km程の何もない平地にポツンとあるので見落とさないようにするのが大変らしい。アガニッペはムーサの谷とよばれる川の源流近くにあると聞いている。

このあたりの情報はコリントスのアフロディーテ神殿にもらった。

あそこの神殿に集まる情報は下手な諜報組織を楽に凌駕する。

1000人の神聖娼婦に集まる船乗り、旅人、吟遊詩人、商人が寝物語に話す内容をまとめてから、アリキポス商会へ神聖娼婦の筆頭のウェヌスが連絡をくれるのだ。

おかげで、情報入手がものすごく速い。

下手をするとアレティアネットワークよりも早く伝わるほどだ。


今回は久しぶりに3人での行動である。

レイチェルがどんな状態かゆっくり調べたいとパンドラにいわれたのでコリントスにおいてきた。タルゲリアは護衛兼緊急時の連絡要員ということでレイチェルの傍にいる。

イシスとホルスも最近はレイチェルにべったりで離れようとしなかったためコリントスで留守番である。


「この3人で動くのってアテナイに向かった時以来じゃないか?」

ふとデルフォイからアテナイに向かった旅を思いだした。

「そうですね。あの時はアーシア様が盗賊に攫われて・・・大変でした。」

「本当にあれだけ焦ったのって、あれ以降覚えがないくらい大変だったね。ピュロス。」

ピュロスのぼやきにコリーダが賛同する。

でも仕方ないじゃないか。あの時は来たばっかりで弱かったんだし・・・

「今回は気を付けてくださいよご主人様。」

コリーダが茶化して話をまとめてくれた。


ボクらは今騎乗して川に沿って進んでいる。

この川の源流はムーサの谷とよばれている渓谷でそのすぐ横にアガニッペがあるらしい。

アガニッペそのものは直径10m程の泉ですぐ見つかるといわれた。

その泉の水を飲むと詩精が舞い降りてきて、詩がうまくなるらしい。

川沿いに騎乗で進んでいくが時々は馬を降りて、手綱で誘導しなくてはならないような険しい部分もある。


挿絵(By みてみん)


とはいえ行軍に比べれば気も楽で30km程の行程も三日かけて進めば、よい計画にしていたので野生のライオンや熊に注意しながらの気楽な旅になった。

そして3日目の昼に河原の向こうに真っ青な水をたたえたアガニッペを見つけることができた。


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