夫の姉
紅葉が色づき始めた頃、私は雪子さんとホテルのランチバイキングに訪れていた。
久しぶりに会う雪子さんは、以前と変わりなく元気いっぱいで、真夏の太陽のようにギラギラと生気に満ち足りていた。
『咲ちゃん、最近はどう?』
唐揚げの甘酢あんかけを頬張りながら、雪子さんは私に尋ねてきた。
『……変わりはないですよ。』
『そう……。咲ちゃん、悪い事言わないわ。もう、崇生とはーー』
きっと雪子さんは、もう別れた方がいいと言いたいのだろう。
でも、別れる事だけが解決の方法とは、私にはどうしても思えない。
それは崇生と過ごして来た日々に対しての情なのか、はたまた愛情なのかは分からなかった。
『雪子さん、私、もう少し様子を見てみようと思うんです。もしかしたら崇生も浮気なんか止めて、また私だけを見てくれる日が来るんじゃないかって……』
『それでいいの? もし、浮気相手に子供が出来た、だからお前とは別れたい。そう言われたらどうする?私は、弟の崇生なんかより咲ちゃんの方が大事よ。だから、咲ちゃんの幸せを優先していいのよ?』
『でも……』
雪子さんの言いたい事は、痛いくらいによく分かる。
でも……
私の中の奥底で、まだ崇生を信じたいと思う気持ちもあるの。
神聖なる教会で、皆に祝福をされた日の事を忘れられないの。
愚かなのは夫の崇生なのか……
それとも、そんな夫に固執している私なのか……
ホテルのバイキングは思っていたよりも質も良く、雑誌などにも取り上げられているせいか、OLや子連れのママ達が多かった。
そんな中、女二人して重たい話をずっとしているのも気が引けてしまう。
『あっ、そういえば雪子さん。この前話していたネイルのお店、今日この後にでも行ってみませんか?』
『いいわね!! 行ってみましょう!!』
(このまま崇生の話をし続けるのはチョット……。今は正直辛い)
それから私と雪子さんはバイキング料理を堪能した後、会計を済ませ、足取り軽くホテルを後にした。
ホテルの前で直ぐにハイヤーを捕まえ、ネイルサロンの住所と名前を告げて、渋滞の中をゆっくりと揺られながら向かった。
ネイルサロンに着いた私と雪子さんは、すぐに施術席へと案内され、店員さんにお願いして隣同士の席にしてもらった。
『咲ちゃん、どんなデザインにしてもらう?私は、シンプルにフレンチネイルにしてもらおうかと思ってるんだけど、ストーンも付けようか悩んでる〜』
『私はジェルネイルにしようかと思ってます。たまには指先を綺麗にしてみようかと……』
『いいわねー!!じゃあ、お互いに出来上がりが楽しみね!!』
ふふっと笑った後、雪子さんはストーンを付ける事にしたようだった。
店員の美人すぎるお姉さんに注文をしていた。
以前、テレビで夫の浮気に走りたくなる時!!と言う特集番組を見ていた時、
夫達は美人と誘惑と、ふらりやチラリズムに弱いとやっていた。
バーで、美人な女性が一人で、際どい服などを着ているとフラリと声を掛け、OKならそのまま……
そんな簡単に女性が男性からの誘いに乗るの!?と思っていたが、世の中には何万人ともいう人が生きているんだ。
その中の何割の女性達がその誘いに乗ったところで、なんらおかしくはない。
もし崇生もそんな風に美人な女性と一夜を過ごせると言うなら、私の事など一時忘れて、欲に濡れてしまうだろう。
きっと私が男なら、妻と、一夜限り、又は愛人、浮気相手は別ーーと言うだろう。