第4話:お姉さんと記憶の澱
「炭焼き小屋なんてあるんですね。」
食堂を出たところで、アスカはサクラへと問いかけた。
「ここの冬はとぉ~っても寒いですから~。雪が降ると、外に出られなくなっちゃうくらい積もりますし~。だから凍えないように、暖炉で火を焚くんですよ~。」
館の東口から出て、外を歩く。
「暖炉があるんですか?」
「談話室にありますよ~。後で見に行きましょ~。」
そんな話をしていると、建物が一つ見えて来た。
平屋建ての小屋の横に土が山のように大きく盛られており、その頂点には煙突が突き刺さっている。
小屋の方にも煙突があり、そこからは煙が上がっていた。
サクラに付いて小屋の中へと入り奥の方へ進んでいくと、赤い作業着姿の小さな背中が二つ見えてくる。
「ルリちゃ~ん。アヤちゃ~ん。」
サクラの声に気づいたらしい二人が振り返った。
「んぁ?サクラちゃん?……と、そっちは?」
先に声を上げたのは、肩まで伸びた髪に二つのお団子ヘアな少女。その顔立ちからアスカよりも年上のように見える。
「アヤちゃん、この子はアスカちゃんと言って~。今日ここに来た子なんですよ~。」
「あぁ~、新入りちゃん?あたしアヤ、よろしくね?」
「アスカです。よろしくお願いします。」
自己紹介をしたところでもう一人の少女もやってくる。
ショートカットの黒髪の少女はじっとアスカを見つめていたが、やがて何がおかしいのかクスリと笑い—。
「初めまして、ルリです。よろしくね?」
そう自己紹介して右手を差し出してきた。
「……アスカです。お二人はここで何を?」
アスカは握手に応じつつ問いかける。
「燻製を作ってるんだよ。これから来る寒い寒~い冬に向けて、色々準備してるってわけさ。」
その質問にアヤが答えた。視線の先には大きな縦長の木の箱が置いてあり、そこから煙突らしき管が一本外へと伸びている。
「子どもだけで火を扱うのは危険じゃないですか?」
「ふっふっふ~。」
当然ともいえる質問に、アヤはわざとらしく笑った。
「ここにおわすルリちゃんは、先生方に信頼されているからね~。火の扱いを認めてもらっているのだ~。……まぁ、取り扱いの際は二人以上でって言われてるんだけどね。」
「なるほど。……じゃあ難しそうですね。」
「んぇ?何が?」
先程のやり取りを二人に説明すると、アヤは困ったように腕を組んだ。
「……なるほどね。あの二人、しょっちゅう喧嘩してるからね~。何かあったときにサクラちゃんに仲裁させるのはちぃっと酷だよね~。」
確かに、ここ数時間の交流でもサクラが喧嘩を仲裁できるとは思えない。当のサクラは会話には参加せず、悩める二人をニコニコと眺めているだけだ。
「そんなに仲が悪いんですか?」
「ん~。同じ部屋だし、仲が悪いってほどじゃないと思うんだけどね?仲が良いんだか悪いんだか……。」
「あの……。」
どうしたものかと考えていると、小さな声が聞こえた。振り返るとルリが手を挙げている。
「もう少ししたらこっちの作業がひと段落付くから、そのあとでもいいなら……。」
ルリの声は小さかったが、不思議とすっと耳に入ってきた。
——違和感を覚える。ルリの声が、表情が、記憶の中の何かと重なる。
どこか懐かしい感覚。しかし、その理由はどうにも思い出せない。
「……わかりました。」
アスカは初めての感覚に戸惑い、ただ返事をすることしかできなかった。




