遠征
虚無の核を砕いた三日後。
空に、小さな黒い点が残っていた。
消えない。
閉じない。
アークはそれを見上げる。
「……入口だ」
ゼルが腕を組む。
「向こうが本体ってわけか」
都市中央塔に市民が集まる。
恐怖よりも先に理解があった。
終わらせなければ、また来る。
アークは告げる。
「遠征する。
戻れる保証はない」
沈黙。
そして――
「行ってこい!!」
誰かが叫ぶ。
拍手が広がる。
ゼルが笑う。
「背中押されすぎだろ」
兄弟は門をくぐる。
感覚が消える。
音も重力もない。
そこは“空間の前段階”。
無限の黒い海に、
白い点が浮かんでいる。
それが――虚無の本体。
惑星より巨大な“思考構造”。
「観測体、侵入確認」
声ではない。
存在の揺れ。
ゼルが低く言う。
「……あれが親玉か」
ゼルが断界を放つ。
届かない。
アークの創造も弾かれる。
虚無はここでは絶対存在。
「世界は誤り。
無へ回帰せよ」
黒い波が広がる。
兄弟の身体がほどけ始める。
存在が希薄になる。
アークが息を吐く。
「ここは……俺たちのルールじゃない」
ゼルが笑う。
「だったら持ち込めばいい」
アークは目を閉じる。
都市を思い出す。
笑い声。
市場。
橋のきしみ。
「クリエイト――《遠隔同期》」
白い線が門を越える。
都市リベルタと兄弟が繋がる。
ゼルの力が戻る。
虚無が揺れる。
「外部定義……侵入」
ゼルが吠える。
「ここは俺たちの世界だ!!」
断界が通る。
虚無の外殻が裂ける。
内部は記憶のない空間。
ただ“否定”だけがある。
虚無の意思が形を取る。
巨大な影。
「なぜ存在を選ぶ」
アークが答える。
「誰かが笑うからだ」
ゼルが続く。
「壊す価値があるからな」
虚無が暴走する。
兄弟を飲み込む。
アークの光が消えかける。
ゼルが手を掴む。
「離すなよ」
「最初からそのつもりだ」
二人の力が重なる。
創造が“存在の理由”を与え、
断界が“否定”を切り離す。
アークが叫ぶ。
「存在は誤りじゃない!」
ゼルが叩き込む。
「選択だ!!」
光が爆発する。
虚無の核心に触れる。
そこには――
何もない。
ただ“恐れ”だけがあった。
消えることへの恐れ。
アークが静かに言う。
「お前も……存在したかったんだな」
白光が包む。
虚無が震える。
「理解……」
黒がほどける。
消滅ではない。
変換。
虚無は白い粒子となり、
世界へ還る。
兄弟は門の前に立っていた。
都市が見える。
空は青い。
ゼルが息を吐く。
「終わったな」
アークが頷く。
「今度こそ」
二人が帰ると、
市民が迎える。
歓声。
涙。
誰かが叫ぶ。
「おかえり!!」
ゼルが笑う。
「ただいま」
アークも笑う。
世界は続く。
壊れながら、
直しながら。
それでいい。




