再臨
その朝、都市が静かだった。
静かすぎた。
鐘が鳴らない。
鳥が飛ばない。
アークが窓を開けて固まる。
街に人がいない。
家具はある。
食べかけの皿もある。
だが――人だけが消えている。
ノアが震える。
「……えらばれた」
空が裂ける。
白い観測空間が重なる。
イリスが現れる。
「非効率な未来を排除した」
ゼルが怒鳴る。
「人ごと消すな!」
イリスは淡々と言う。
「死亡ではない。
一時的隔離」
ノアの拳が震える。
「かえす」
イリスが手を広げる。
都市全体が観測空間へ移行。
無数の未来が空に浮かぶ。
消滅する世界。
統制された平和。
選択のない幸福。
「最適化された未来」
ノアの瞳が燃える。
「ちがう」
彼女も未来を展開する。
失敗。
涙。
笑顔。
“生きた未来”。
空間が軋む。
二つの観測領域が重なる。
イリスが未来を固定する。
都市が無人の理想状態になる。
ノアが叫ぶ。
「それは……いきてない!」
彼女は観測を上書きする。
街に声が戻る。
しかし不安定。
世界が点滅する。
ゼルが踏み込む。
「支えろ、兄上!」
アークが都市と同期。
現実を補強する。
観測 vs 観測
現実 vs 理想
空間が割れる。
イリスの瞳が深く光る。
「ならば、排除」
彼女がノアの“観測能力”を削る。
未来が見えなくなる。
ノアが息を呑む。
恐怖。
初めての“無観測”。
イリスが近づく。
「これで苦しみは終わる」
その瞬間。
ノアが呟く。
「……みえなくても、えらぶ」
彼女は未来ではなく――
今を見る。
心臓の鼓動。
ゼルの足音。
アークの声。
現実の確かさ。
観測が再点火する。
爆発的な光。
ノアがイリスの手を掴む。
未来の嵐が静まる。
ノアは見せる。
苦しみの先の希望。
選び続ける人々。
イリスの視線が揺れる。
「……矛盾している」
「うん。でも、いきてる」
沈黙。
長い観測の後。
イリスが手を下ろす。
「最適化、保留」
消えた人々が戻る。
都市が息を吹き返す。
イリスは後退する。
「観測継続。
次は結論を出す」
彼女は消える。
ノアが膝をつく。
ゼルが支える。
「勝った……のか?」
アークが空を見る。
「いや。保留だ」
ノアは静かに言う。
「それでいい」
未来はまだ決まっていない。
だから――進める。
都市が再び動き出す。




