第16話
翌日。再びオスカーと相見えたヴィオラは昨日の非礼も含めて誠心誠意の謝罪をし、オスカーもそれを受け入れた。ヴィオラの周囲に危険な影は無いことをベルカントが調べた上げたようなので、ヴィオラとこれからも一緒に学校生活を送れるようになった。……………思ったんだけど、ベルって何者?なんでそんなに色々調べられるの?一度ベルにそう聞いてみたのだけど、「…神はいつでも皆を見ているからね」と笑顔で曖昧に返されて終わった。……怖。
それから、あたしたちは主に6人で移動するようになった。国王、国軍統帥、教皇、高名な学者、騎士の名門、大工房経営者それぞれの子息が集まっている様子は側から見れば恐ろしいものらしく、ぞろぞろと廊下を闊歩すれば生徒たちを萎縮させたりもしていた。…いくら廊下が広いからといっても六人で歩けば少し窮屈。結局男女で少し分かれて、あたしはヴィエラとよく話している。時折オスカーの視線を感じたりもするけれど。
そんなふうに時間は流れ、数週間。何事もなく…時々怒ってしまいそうなこともあったけれど、みんなのおかげで穏やかに過ごせた気がする。放課後、いつものカフェテリアの丸テーブルをみんなで囲んで紅茶を楽しむ。窓から見える木々は青々と繁り、色鮮やかな鳥たちが舞っている。学校付きの庭師が剪定した花壇は芸術作品と思われるほど美しく整えられている。日差しが強い。…季節はもう、夏ね。
「明日から長期休暇だが」
オスカーはティーカップを組んだ膝に乗せながら口を開く。どこかの開けた窓から吹く風が芳しい緑の香りを運び、オスカーのきらきらと輝く髪を撫でていく。
「オスカー様はどこか行くご予定でもあるんですか?俺はお供しますよ!」
元気に声を張り上げたのは、ええと、フェ…フィ、…………ああそうだ。フィデリオ。フィデリオ・ライデンシャフト。いつもオスカーの後ろについている声の大きい男子だが、アトリにとっての印象は薄かった。うるさい人ってあまり好きじゃないのよね。口調もなってないし。
「地方の視察も行きたいところだが…俺には今一番大きな懸念がある」
「何ですか?…ヴィエラのこととか?」
いきなり矢面に立たされたヴィエラは気にも留めずにアトリの隣で上品に紅茶をすする。
「違う。…お前のことだ。フィデリオ」
オスカーがフィデリオをまっすぐ見て言った。
「…え?…俺ですか?」
「そうだ」
……………………がーん。
顔を真っ青にしたフィデリオから、そんな落胆の音がするのがあたしにも聞こえた。
「ど、………どういった点でしょうか」
何とか声を絞り出したようなフィデリオに、オスカーは手を振って答える。
「休暇明けに試験がある。お前は前回の試験、何位だった?」
「198位でした!!」
もちろん学年の人数は200人である。
「俺の護衛となるには教養が不可欠。お前にはそれが大きく欠けている。ついでに礼節も!これまでの言葉遣い、動作、全て王の側近としては見苦しいものだった。…というわけで、」
口をぽかんと開いたフィデリオを横目に、オスカーは立ち上がりガッツポーズを作った。
「この夏は、勉強会を開催する!」
……おお。いつになくオスカーが燃えているわ。いいアイデアじゃないかしら。あたしもフィデリオの学の無さはちょっと気になってたし。
「……となれば場所だが」
フィデリオを置き去りにし、再び席についたオスカーは話題を続ける。
「あ、それなら、僕の所、来てもいいですよ」
トーマスが小さく手を上げて答えた。
「でも、大図書館ってむやみに物音立てられないよね?」
「離れなら、大丈夫だと思います。会議とかに使われる部屋があって」
ベルカントの疑問に澱みなく答える。オスカーは腕を組み、深く頷いた。
「なら決定だな。…では場所が確保され次第開催する。各自、準備しておくように!」
そうして全員を見回して言った。…あれ?
「ちょっと待ってくださいまし。…わたくしたちも行くのですか」
あたしの代わりに尋ねてくれたのはヴィエラ。
「勿論だ」
オスカーは得意そうに首肯した。
………………………………………………………………え?




