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9話 思い出の場所

「それで、お兄さん。ここちーは今、何を望んでいますか?」

「そうだな……。どうだ? 心音」

「私は取り敢えずみんなが楽しそうな姿が見たいなぁ」

「みんなの楽しんでいる姿だってさ」

「成る程……今は特に未練に触れる事も無いという事ですか」

「そんな感じだね! 具体的には思い付かないし!」

「具体的には思い付かないからそんな感じだってさ」

「フムフム……こう言ったザックリ感、まさしくここちーって感じだね」

「と言うか……そろそろこの距離感やめないか? 10:0で俺が悪いのは理解して反省もしてるからさ……」


 行動を開始した俺達は、5mくらいの距離が開いた状態で心音の考えについて話していた。

 分かっている。悪いのは確実俺。それはもう揺るぎ無い事実だが、やはり態度で示されるとかなり痛い。精神的に。


「ふふ、もう何も思っていませんよ。お兄さん♪」


「つまり無関心って事だよな……愛の反対は無関心ってテレサさん家のマザーさんが言ってたし……まあ、今の問題は愛程大きな事じゃないけど」


「マザー・テレサは名前じゃありませんよ。アグネス・ゴンジャ・ボヤジュという、ちゃんとしたフルネームも実在します」


「へえ……そうだったのか」


 結奈さんが俺については何も思っていないと告げるが、

 そして俺の間違いを喜美子さんが指摘する。博識だな。いや、もしかして一般常識か? それは置いておこう。

 何にせよ、残念ながら俺は距離を置かれたままらしい。


「大丈夫。大事な時はちゃんとお兄ちゃんに話すからさ」


「そうか。けど、実際に具体例は浮かんでいないしな。それで、結局どこに行くかとか決めたのか? 俺は今時の女子高生がどこに行くかとか知らないし、みんなに任せるよ」


 現役女子高生がどこで遊び歩いているのかは知る由も無い。なのでその辺は結奈さん達に任せる事にした。

 実際何も分からないからな。中学……は金銭とか移動手段も限られているな。ある程度稼げるようになった高校時代にデートとかの経験があるならビシッと決められたかもしれないけど、俺にそんな経験は無いんでテキトーに決めて貰う。


「お兄さんとはあまり歳も離れてませんし、想像通りの事で良いですよ。カラオケとかショッピングとか、大体の事は同じです。ショッピングの定義はザックリし過ぎていますけどね」


「成る程な。それなら遊園地とか水族館とか、定番スポットもありか」


「その定番はどちらかと言えばデートとかですけど……アリかナシかで言えばアリですね。割と友達同士で行く機会もあります」


 カラオケ、ショッピング、遊園地や水族館。他にも動物園とか登山は……アリかもしれないけど、思い出の地とかにはならなそうだし保留で良いか。そもそもその辺りは家族サービスでの定番で、友達同士は少ないかもしれないしな。

 いや、流石に小さいお子様の居る家庭で登山は難しいか。する人は居るにせよ。


「それで、結局どこにするんだ?」

「夏だから海とかが良いけど、お兄ちゃんに狙われちゃうしねぇ」

「彼氏や家族とは違うお兄さんに水着を見せるのもねぇ」

「オイオイ……だからそれは違うって……」


 一転し、順に笑って揶揄からかうような声音で話す紗枝さんと結奈さん。

 さっきのドン引きから打って変わっての冗談混じりな物言い。距離も少し近付いてくれたし、ある程度は収まったみたいだな。


「心音ちゃんはどこか行きたい場所とか無いの?」


 そこで、喜美子さんが俺。もとい、心音へ提案するように訊ねた。

 本題は心音の未練を晴らす事。心音の行きたい場所が一番だな。


「だってさ。どうだ? 心音」

「うーん……みんなと一緒ならどこでも良いんだけど……今回は思い出の場所が大事だよねぇ……」


 いつもはテキトーだが、今回は真剣な面持ちで考える。

 さっきは楽しそうな姿が見れれば良いと言っていたが、ちゃんと思うところもあるらしい。


「こういう場合は思い出巡りが妥当な考えだよねぇ……私達が高校で出会って初めて行った場所……かな?」


「心音達が初めて行った場所……?」


「……! あそこかも……!」

「うん……!」

「良さそうだね」


 心音の言葉を復唱し、結奈さん達は思い当たる節があるとばかりに反応を示した。

 それなら行ってみる価値はある。いや、そこに行くしかないな。


「じゃ、案内してくれ。心音。結奈さん、紗枝さん、喜美子さん」


「任せて!」

「良いですよ」

「もちOK!」

「構いませんよ」


 俺には皆目検討が付かない。なので四人に案内を任せ、俺も行く。

 高校生の移動範囲だからそこまで遠くはないだろうけど、これが切っ掛けになると良いな。



*****



「着いた!」

「うわー、何か久し振りかも」

「思い出の場所だけど、娯楽施設とかじゃないからあまり行かなかったもんね」


「相変わらず良い眺め~」

「へえ、ここがか……初めて来たよ」


 俺達が来た場所は、何の変哲も無い高台。しかしそこからの見晴らしは確かに良かった。

 街を一望する事が出来、人通りも少ないので静か。そして木々があるので空気も綺麗。

 てっきり思い出のお店とかその辺りかと思っていたけど、まさかこんな風な場所なんてな。良い場所だけど、現役女子高生にしては少し意外だ。


「けど、やっぱりお兄さんには心音ちゃんが付いているんですね。初めての場所なのに私達よりも先に進んでいましたし」


「ハハ、心音に腕を引かれたからな。触れてはいないんだけど、催促された的な意味合いで」


 俺は実際、この場所を知らなかったが心音の案内もあって他のみんなより少し早く進めた。

 結奈さん達三人は更に上へと登り、今度は俺がその後を追うように進む。

 それにしても良い場所だ。何か既視感もあるような……初めてだよな? 俺。


「初めて……もう、お兄ちゃんってば……」

「え? なんだ。心音?」

「何でもない!」


 少しムッとし、心音がそっぽを向く。

 何か気に障る事をしてしまったのかもしれない。それについて訊ねるが、答えてくれる様子は無かった。

 何だろうか。この様子、しつこく聞くとより機嫌が悪くなりそうだよな。問題を先延ばしにするのはよくない事だけど、結奈さん達の事もあるし今はまだ一旦置いておくか。


「ここって、ここちーが最初に教えてくれたんだよね」


「うん。最初は何も無くて退屈じゃんって思ったけど、今の時代にこんなに落ち着ける場所があるんだってウチのお気に入りの一つになったよ」


「心音ちゃん、どうやって見つけたんだろうね。この場所」


 後を追うと、そよ風に髪を揺らしながら話す三人の姿があった。

 その瞳は遠くを見つめており、落ち着いた面持ちで話す。

 こうして見ると、まるで絵画みたいな美しさがあるな。なんて、そんな詩人みたいな表現俺には似合わないか。


「お兄ちゃん、なにユナっち達に見惚れてるの~?」


 そんな俺に、ジト目で心音が訊ねた。

 ちょっと見過ぎていたか。


「ハハ、綺麗だなって思ってな」

「それ、ユナっち達にも言ってみない? きっと好評だよ」

「流石にそれは言えないよ」


「あ、お兄さんもどうですかー?」


 俺と心音が話していると、結奈さんが手を振って誘ってくれた。

 もうさっきの水着イベントの件は完全に収まったみたいだな。それは何よりだ。

 俺は歩を進め、結奈さん達の元に寄る。


「へえ。本当に良い眺めだな」

「ですよね。この景色を見ていたらさっきの気持ち悪いお兄さんの事も忘れられそうです」

「ハハハ……」


 覚えていた。

 完全に収まった訳じゃ無かったようだ。そう言った事って中々消えないもんな……仕方ないよな。

 けど、距離は置かれていないし割とマシにはなっているのかもしれない。と言うかなっていてくれ。


「私は風とかを感じる事が出来ないけど、気持ちいいねぇ。何だかまた少し心が軽くなった気分……」


「また少し心が軽く……“また”……か……」


 心音の言葉に少し違和感を覚える。

 それは別に悪い意味じゃない。むしろ逆の違和感。


「そう言えば……結奈さん達に心音の事が伝わった時も気持ちが軽くなったって言ってたよな……心音が霊体って考えると、気持ちとか心とかその辺りが中枢みたいな部分でもおかしくないな……」


 気持ちや心。それらは脳が生み出すモノで厳密に言えば存在しない器官だが、もし心音にそれがあるとして、その上での“軽くなった”という言葉。それが指し示すのは……。

 そんな俺に結奈さんが疑問符を浮かべながら訊ねた。


「お兄さん? もしかして……ここちーの事ですか?」


「……! ああ、もしかしたら手懸かりになるかもしれないから結奈さん達にも話すよ。喜美子さん辺りなら俺と同じような違和感を覚えるかもしれないし」


「「「…………?」」」


 その違和感を結奈さん達にも話す。

 もしも心音のその発言が心音の成仏に関係しているなら。俺の憶測も含め、詳しく説明した。


「……って事なんだ。無関係には思えなくてな」


「気持ち……ですか。一つの問題が進展する度にここちーの気持ちが軽くなる……」


「半ば信じらんないけど……ここちーは多分本当に居るもんね……ファンタジー的な解決法でもおかしくないかも」


「心音ちゃん自身はあまり気にしていなくても、心が軽くなるのはそうとしか思えませんね……。それならその心を軽くしていくのが解決策になりうるかもしれません」


「確かに。私の事だけど盲点だったね!」


 心音の心が軽くなる。それは比喩などではなく、心音にとっては本当の意味でそうなのかもしれない。

 幽霊自体がファンタジーに足を突っ込んでいるしな。紗枝さんや喜美子さんの言うように、ファンタジー的なやり方で解決出来る可能性はある。


「そうなると思い出巡りか? この場所が切っ掛けとして、他にも見て回るのが最適解かもな」


「私達と心音ちゃんの思い出……色々遊びに行っているから、片っ端から見て行くのは良いかも……!」


 話にまとまりが見えてきた。

 心音と結奈さん達の思い出の場所。俺は全く分からないから結奈さん達と心音に任せるとして、足代わりにはなるかな。


「そうと決まれば行った方が良いとして、車出す必要あるか?」


「うーん……少し遠い場所も電車で数十分とかですからね。けど、移動が多くなると考えれば車の方が総合的な時間が短くなるかもしれません」


 なので車を出すかどうかを訊ね、喜美子さんが答えた。

 電車での移動の方が早いが、駅の待ち時間とかもあるからな。確かに応用が利くのは車だ。


「となると車を持ってくる必要があるか。幸いここから俺の家にも近いし、結奈さん達は待っててくれ」


「それって私達も行った方が早くないですか?」

「ここちーの家も見てみたいしねー!」

「私も別に構いませんよ?」


「え? いや、そうだけど……流石に男性の家に上がり込むのはどうだ? 俺の家、両親は共働きだから今誰も居ないし……心音は居るけど……それでも結奈さん達には見えてないし」


「ふふ、本当に奥手ですね。むしろお兄さんの年齢にしては珍しくないですか? そんな感じなのは。大学生ってイメージ的にはかなりはっちゃけてる感じですけど」


「同年代はそんな感じだよ。けど、俺は硬派に生きるって決めたんだ。今な!」


「はぁ……成る程?」


 車を取りに行こうとしたが、結奈さん達も付いて行くと言う。

 それについて色々と問題があるんじゃないかと思ったが、本人達は本当に気にしていないようだ。しかししかししかし、流石にちょっと気になるぞ……。


「じゃ、硬派なお兄ちゃんなら問題無いね! レッツゴー!」


「え!? いや、紗枝さん!?」


「じゃ、行きましょうか」

「数分後にお邪魔します」


「結奈さんと喜美子さんまで……」


 墓穴を掘ってしまった。

 確かに硬派ならそう簡単に女性には手を出さない。そもそもが友人の兄なので、他の知人異性よりは警戒心も無いだろう。

 だが、果たして本当に良いのだろうか。


「オーイ……」

「アハハ! お兄ちゃん、ユナっち達に手玉に取られているね!」

「はあ……彼女達はもう少し警戒心を高めて欲しいよ……感覚で言えば妹に近いし、身の安全を理解して欲しい」

「何か“お兄ちゃん”って言うよりお父さんやお母さんみたいな視点~」

「似たようなもんだよ。家族で年上なんだから。結奈さん達とは友人の兄ってだけの関係だけど」

「やれやれだなぁ」


 心音も笑い、フワフワと浮かびながら結奈さん達の後を追う。それに続き、俺も後を追った。

 一先ず、やるべき事は心音の思い出巡りの旅に決まる。

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