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71 頑張った結果

昼休み、昨日よりサイズアップした手紙を読む。

そこには時折空白があれど昨日よりも詳細なリストになっていた。

攻略キャラが相変わらず名前だけだが、理由の欄に書ききれないと添えられている。確かに彼らにした事を全て書いたなら手紙というサイズに収まらない。

彼らはとりあえず後回しにする事には賛成だ。最も大きく被害を受けていたのは確かだが、同時に自ら進んで受けていた部分もあるのだから。

来年度はまた別のヒロインの相手をする羽目になるのだし、良い予習になったとでも思っておけばいい。

騙されたと思っていた方が警戒心を持つだろう。

それよりも…。

昨日も話題になっていた人物の名前を見つけ、その理由の欄を読む。

クレス・ギル・トフォー卿

彼の理由の欄は話しかけられた時に真剣に話さなかった。とあり。

次にアリシア・リニ・レレック嬢。

彼女への理由は忠告を聞き流した。となっていた。

クレス卿は人見知りをするらしくクラス内で発言とかはあまりしないが、仲の良い人から意見を求められたら自分の考えを伝える事は出来る芯はしっかりした人だと思う。

目立つ人には近寄りたくない様で、ユシルを遠巻きに見ている事はあっても積極的に話しかけるタイプには見えない。話しかけるだけで勇気を必要としそうな人柄なのに…。

でも謝罪をすれば実際にどう思っていても許すと言っちゃいそう。つまり押しに弱い。

アリシア嬢は言ってみれば風紀委員と言ったタイプの人だ。見た目のおっとり感とは違ってビシビシと注意していく気の強いタイプ。…私も何度かお世話になっております。良い意味でも悪い意味でも。

自身の正義を貫く高潔さは好感を持つ者と反感を抱く者の二極化がしやすい。私は好感の方が強いです。彼女は“同室”という理由でユシルの制御を私に求めた事がない。私にその責任がない事を重々承知している。

だからこそアリシア嬢は最後までユシル本人に注意をしていた人物でもある。

その彼女の事が印象に残っているのは頷ける。

最初は優しく、段々と厳しく。

段階を踏んで注意の質を変えるところとか好感が持てます。お友達になりたいです。

最初のハードルとすれば高いかもしれないが、誠心誠意謝ればその意思をちゃんと組んでくれる人。ユシルがちゃんと反省していると判断すればさり気なくフォローもしてくれる人だと思っている。

ザっと確認したところ、最初にアクションを取るのはクレス卿かアリシア嬢がいいと思うんだよね。

クレス卿は自信をくれると思うし、先にアリシア嬢というハードルを飛び越えてしまえば他の令嬢たちに謝るのは心理的に簡単になると思う。

まぁ無理ならやり易いところから始めればいいんじゃない?

来年度になればクラス替えが行われる。ユシルは成績だけを見れば成績優秀者クラスに編成されると思うから、クラスの殆どと離れる事になる。因みに私は微妙、入るか入らないかギリギリのラインを彷徨っている。

来年度を考えたら今年中にある程度の関係改善した方がいいと思うのだ。

年が明けてからだとユシルの方がより気まずさが大きくなるし、他の人たちは今更感が出てくる。

相手から色々指摘されればまた反省点や改善点が見えてくるのも大きい。

空欄の部分は徐々に埋めていってもらうとして、次のステップは実戦にいってもらおう。


ユシルにリストの書かれた人に順番に謝りに行く様にと告げれば、文句も言わずに頷く。

「セルリア、最初の一人だけでもいいから側に付いていてくれないかしら?」

ただ弱々しくそう訊ねてくる。

緊張するのはわかるし、怖いのもわかる。

付いていって見守りたい気持ちもある。

最初だけと言っているし、それくらいしてもいいのでは?と甘やかす気持ちも湧く。

けれど。

最初が肝心なのだ。ここで付いていけば許されても許されなくても私に甘えてしまう。

場合によっては次も来て。と言われるかもしれない。

それでは結果的にユシルの為にはならない。

ユシルには一人で行動をしてもらわないといけない。

「ユシルは自分が嫌な事をされた時に友達に付き添われて謝られたとしたら、どういう風に思う?」

わかりやすく一つの例を出す。この場合の例えは親でもいい。

子供がした悪戯に親が本人とその保護者に詫びにいくのも当然の事といえる。なぜなら親は子供の保護者なのだから。

でも私は別にユシルの保護者ではないのでその義務は発生しない。

「え…と、そうね…」

質問に想像は働かせるが、結論を出す前にわざと答えを被せる

「友達に言われて仕方なく謝りにきたとか思わない?」

「………そんなこと…」

思考の誘導をしてしまえば、他の考えが浮かびにくくなる。

ゆっくりと考える時間があれば別だが、それを許さず更に重ねる。

「特になかなか言い出せずに、その友達に促されてやっと言い出したとしたら?」

実際は反省してるがゆえに気まずくて言い出せなかったとしても、嫌々謝りに来ている様に見えるだろう。

「誠意が感じられない謝罪に、他の人から『反省しているから許してあげて』なんて言われたら反発しない?」

すぐそばに相手の味方がいる状態で許さないなんて言えば心が狭いと取られるし、どんな噂を流されるかと怯えもする。勝手に悪者にされた噂が流れると想像すれば言葉だけ許すと言って終わりにしたいと考える。それでは確執はなくならない。

「ユシルはちゃんと反省しているのに、そんな事になったらもったいないわ」

「……そうね、頑張ってみるわ」

まだ迷いは見せているがユシルはそう言って頷いた。


そこからのユシルは頑張ったと思う。

一人一人に忠告をしてくれた事のお礼をいい、そして今までの事を反省してこれから行動を改めると伝える。

中には直ぐに信用しない者もいたし、話を聞かないといった者もいた。辛辣な意見を言われた事もある。

許すと口では言っても本当に許したかどうか分からない者も。

それでもユシルは一週間ほどでクラスメイト全員に一応の謝罪を終えた。一応と付くのは全員に許してもらえたわけではないからだ。

ただユシルが本当に反省している様に見える事と、許してもらえなかった人には再度謝罪をしにいく…という事を繰り返した結果、クラスの殆どの人にはちゃんとした意味で許してもらえたようだ。

なお、私はその経過報告を手紙でもらっている。

毎朝律義に昨日謝罪した人の名前と許してもらえたかどうかの報告をしてくれるのだ。

その報告に偽りがない事はユシルを見張っている者からの報告でわかっている。

むしろ私でも出来るか怪しい事をユシルはやっている。

クラスのみなと話をする様になったからか、私がいない時は明るい表情も見せているらしい。

しかしクラス内でのユシルの評価がプラスになるのに比例して、私に向かうクラスの視線がどんどんと冷たいものへ変化している様に感じるのだ。

今日もユシルは私に手紙を渡してくるのでお礼を言って受け取る。

そのまま数秒見つめ合うという奇妙な行動を取る羽目になったが、先にユシルが目を反らし自分の席まで戻っていった。

なんとなしに見送っていると何人かのご令嬢がユシルを取り囲む。そのまま様子を見ていると文句を言っているとかではなくユシルを慰めている様に見え…あ、これって。とやっと理由に気付く。

「オルレンス嬢、少しお話よろしいでしょうか?」

少し硬い声で名を呼ばれ、そちらを向けばアリシア嬢がいて怒っている様に…いや、これは私の心境からの憶測だ。実際には緩く笑みを浮かべているだけ。

その視線がちらりとユシルの方を見て、ユシルの周りにいた令嬢へと頷いて見せた。

「ええ、もちろんですわレレック嬢」

私は内心の動揺を隠して応じる。

今の仕草で自分の想像が正しかったと確定したようなものだ。


どうやら私は自分でも知らぬ間に悪役令嬢にジョブチェンジしていたらしい。


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