72 悪役令嬢にジョブチェンジしていたようです
ユシルが最初に謝ったのはアリシア嬢だった。
私がそうした方がいいとアドバイスしたからだ。彼女を味方に付ける事に成功すればクラス内の雰囲気もそちらの方に転がりやすいと読んだからだ。
最初は何を考えているのかと怪しまれ、「お気持ちは受け取りますわ」とどちらにでもとれる返答をされ明言はされなかった。なお意味合いとしては許しませんになるのは誰にでもわかること。
それからアリシア嬢はユシルを観察していた。
謝罪の言葉が本心からのものかどうかを。
そして他の者にも謝罪をしていく様子を見て、本心であるとわかったのだろう。ユシルを見る瞳からは険が消えていき他の者にあしらわれたユシルを慰める素振りも見せた。
彼女が認めたからか、他の者も徐々にユシルの本気を認め態度を軟化させ始めた。とはいえ元々嫌がらせなどをしていたわけではない、ただ遠巻きに見ていただけだ。
話しかけたとしても応答はするが素っ気なく、次の言葉を繋げるのにまた勇気とかを必要とされるといった状態だった。
けれど今はどうだ?
私に冷たくあしらわれたユシルを慰めに行くご令嬢も出てくるほどにユシルの評価は見直されている。
元々人間は美しいものが好きなのだと思う。醜いものより奇麗なものに肩入れしてしまうのは当然の心理だ。
美しいがゆえの嫉妬も生まれるが、今回の場合はユシルの美しさは正しくユシルに味方した。
美少女が虐げられている。
それは同情を生むだろう、助けたいと庇護欲も生むだろう。
前までならそんな扱いをされても仕方ないという理由もあったが今は違う。今は反省してやり直そうとしていると言葉でも態度でも見せている。
…そんな美少女をいつまでも許さず冷たくあしらう私。
思いっきり悪役だね!
納得した。だからクラスメイトの視線が日に日に冷たくなっていったのか。それはユシルの味方が増えたという事でもある。
自分が立たされた位置を把握したところで対策を練らないといけない。
このままでは私のボッチ化待ったなしだ。既にボッチだろというツッコミはいらない。
ボッチには変わりなくても、空気の様に扱われているのと敵意を向けられているのとでは意味合いが違う。どっちも辛いが後者の方がより辛い。
団結した集団というのは厄介なのだ。
「でも今これからというのは授業もありますし…」
チラリと時計を見て、今から立ち入った話をする時間はないと示す。
「もしもお時間がかかる様でしたら昼休みでも私は大丈夫ですわ。早い方が良ければ次の休み時間はいかがでしょうか?」
妥当な提案をしつつ時間を稼ぐ。
この場で話を始められてしまうと困るのは私だが、アリシア嬢なら無駄に敵意を私へと集める真似もしないはず。まだ私の言い分を聞いていないからだ。
彼女は公正な人だと信用している。どちらか一方の証言で断罪をしたりはしない。
引きつりそうになる顔をどうにか笑顔の形で固定する。
「そうですわね…。では昼休みに昼食を付き合っていただけるかしら」
「レレック嬢が宜しいのであれば喜んで」
昼休みか~、猶予は長いが同時に話が長引きそうな予感もする。
さて…どの様に話を持って行くのが正解か。誰かに相談したいところだがそんな時間もない。
本当の事を言えばいいのだが…そうもいかない理由がこちらもある。
恐らくだが、ユシルが毎日私へと渡している手紙はユシルから私への謝罪文だと思っているのだろう。
口頭で謝っても聞き入れてもらえないから手紙にして渡しているのだと解釈していると思われる。
それだけの誠意を見せられているのに、まだ信じられないのか。その気持ちもわかるがもう少しユシルの気持ちも汲み、せめて普通に接する様にと説得してくるのだろう。
その時に私の許せないという気持ちの原因を突き止め、それがアリシア嬢も納得できるものなら引いてくれるかもしれない。ユシルを慰めつつ諦めるなと励まして。…うう、アリシア嬢良い子過ぎる。
想像のアリシア嬢の良い人っぷりに思わず貰い泣きしてしまう。
しかし問題は私がユシルを許すとか許さないとかではない。
あの手紙はただの報告書に過ぎず、私への謝罪など一言たりとも書かれていないのだから。
むしろ可哀想なの私の方じゃない?
濡れ衣を着せられた気分なんですけど!
そして未だユシルに友達認定されていないという事実!まあ私もしてないけどね!
もはや娘の成長を厳しく見守るお母さんポジションだよ。どうしてこうなった!
対策を立てないといけないのだが…ちょっと精神的に無理だ。
無理だと思っていてもしないわけにはいかない。
休み時間にユシルの元へ行き、何やら話しているアリシア嬢。
内容としては私に任せておいて。とかだろうか?
そしてユシルはセルリアは悪くない、私が悪いの。とか言っていそう。
合っているが合っていない。
その言い方をしているとすればユシルが私を庇っている様にしか見えない。
私とユシルの現在の関係を説明するのは難しく、また誤解を招く説明しかできそうにないのでユシルには黙っている様にと言ってある。
しかし黙っている事で進む誤解もある。
説明できないのは疚しい事があるに違いないと、自身の想像力を膨らませる。
現在のアリシア嬢の中で私はどれほどの悪人として認識されているのだろうか、話せば通じる程度ならいいのだけど…。
そして迎えた昼休み。
人がいない場所の方がよろしいでしょう?と気遣いを見せたアリシア嬢は自習室へと私を誘った。予約は一時間目と二時間目の休み時間の間に取ったらしい。
自習室の予約は一応のチェックが教員から入るが予約が埋まっていなければ簡単に取れる。
アリシア嬢は教師受けもいい優等生なので直ぐに許可は下りただろう。
なお汚さない事を条件に特に飲食は制限されていないので、昼はそこでサンドイッチを包んでもらい食べる事になった。
自習室に入り、テーブルに持ってきたサンドイッチの籠を置く。
先手必勝というわけで席に着く前に話を始める。
「それでレレック嬢、お話とはなんでしょうか?」
「もうわかっているのではなくて?」
二人きりになった事によって、不快感を隠しきれなくなったのか敵意が声に篭っている。
「…コレンス嬢のことかしら?」
ここで惚けるのは怒りしか生まないだろうと名前を出せばそうよ。と頷かれる。
「確かに最初の…いえ、ごく最近まであの子のした行動は褒められたものではありませんわ。でもそれを反省して自らの行いを恥じ、取り返そうとしている姿は評価するべきものですわ」
ああ、やっぱりアリシア嬢は正しい評価の出来る人だ。
ユシルが反省している事を認め、その誠意を汲んでいる。…でも。
「毎日毎日オルレンス嬢、あなたに手紙を渡している誠意をそろそろ認めてもいい頃だと傍から見ている私でも思いますのに、当事者であるオルレンス嬢は何も思いませんの?」
正しいゆえに傲慢でもある。
当事者にしかわからない事は当然ある。
どれだけユシルが反省していたとしても、世の中には取り返しのつかない事があり感情というものは理屈通りに働かないものだ。
例えば私が攻略キャラの誰かを好きだったとして、もてあそんだ挙句にポイ捨てする様な人を簡単に許せるだろうか?
もっと単純に、好きな人の思い人だったとしたら?
自分が相手にされていないとしても、いいやだからこそ嫉妬して辛く当たってしまう事だってある。それは悪い事だろうが止められない気持ちであるのも確か。
ただ理性で実行に移さないものが殆どだというだけ。
「レレック嬢。今日私とお話したいと言ったのはコレンス嬢に頼まれてかしら?」
「いいえ違いますわ、私の意思です。あの子は何も言いませんでしたわ、それどころか私を止めてきましたわ」
答えの分かっている問いを掛ければアリシア嬢は予想通りの答えを返してくる。
「それではレレック嬢はコレンス嬢に同情したのかしら?それとも心配して?」
「決まっているではありませんか、心配したからですわ」
アリシア嬢は強い意志を込めた瞳を私から目を離さずに告げる。
「だって、ユシルさんは私の友達ですもの」
宣言に。
不覚にも涙が零れてしまった。
ブクマ、評価、感想ありがとうございます!




