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33 下準備って大切ですよね?

ちょっと腹割ってユシルと話そうと決めたのはいいが、問題は時と場所をどうするのかということ。

二人きりで話せばまたユシルが自分に都合の良い様に話を捻じ曲げてしまっても証人がいなくなる。かといって衆人環視の中で話すなら浅いところしか話せない。

少なくとも最初はクラスで話すのがベストかな?

今、私がユシルに話しかければ必ず注目は集まる。何もしてなくてもチラチラと視線が向けられてますからね。

朝は遅刻スレスレに教室に来て、休み時間は毎回どこか(攻略キャラの元だと思われる)に逃走。放課後も直ぐに寮へと戻っていく…という登校スタイルのユシルを捕まえるには授業後すぐに話しかけるしかない。

午前中に約束を取り付けて、お昼を食堂サロンで一緒に取るようにして衆人という名の証人を確保しよう。

もしも今日は断られたとしても、最短の昼休みを空けて欲しいとお願いすればいい。

ユシルも私と話したいというのなら好都合だ。

自分の中で予定を組み立てて、一時間目の授業後すぐにユシルの席へと行く。使った教材は机に広げたまま特攻したので片付けがまだ終わっていないユシルが逃げる前に接触に成功する。

「コレンス嬢、少しお話があるのでお昼休みを空けてもらえませんか?」

咄嗟に逃げようとしたのか周囲を見渡したユシルに構わず声をかける。名前ではなく家名で呼んだのは“謝罪”の意志が私にはないという表れ。

しっかりと伝わったらしいユシルは引きつり笑顔で応じてくれる。

「…申し訳ないけれど昼休みは先約があるので」

「では明日でも構いません」

想定内の返答なので間髪入れずに妥協案を出す。

「それも…」

「時間がない様でしたら今でも構いませんが、どうされます?」

声に被せて私にとって都合の良い時間帯に誘導する。

「…放課後なら」

「申し訳ございません、放課後は私の方が用事がありましてご一緒できません」

あちこちへと視線を彷徨わせながらされた提案には頷かない。

選択権を与えている様で与えてはいない。選べるのは時間だけだが、それだって私が承知しなければ予定は埋まらない。

別に放課後でもギャラリーがいるのなら問題ないけど、寮の部屋で話をしましょうとかなったら私にとって不利だ。

どこでしようとうちの使用人が見張っているのに代わりはないが、それだと後々で証言が出来ない。ただでさえうちの使用人(みうち)という立場では信憑性が薄くなる。

せめて誰でも出入り自由の場所でする必要がある。

ユシルは困った様にチラチラと周囲を見ているので、助けを求めている様にも見える。

面白そうに見ている気配は感じるが関わりたくないのか、声をかけてくる者はいない。

ユシルも逃げられないみたいだし、ここで始めてもいいのだけど…休憩時間は十分と短いので足りない。

う~ん…話そうと決めたからには無駄に時間は掛けたくない。

あ、そうだ。

「では明日の放課後は如何ですか?」

「それなら…」

目に見えてホッとするユシルに安心するのはまだ早いと教えたいが、それを言うと計画(というほどでもない)が台無しになる。ちゃんと確認をしなかったユシルが悪いという事で一つ。

「では予定を空けておいてくださいませ」

タイミングよくチャイムも鳴ったので自席へと戻る事にした。


約束を取り付けた日の昼休み、いつもであれば真っすぐ食堂サロンに向かうのだが今日は別のところへ行く予定だ。

幾つかの視線が追いかけてくるのを感じたが、尾行してくる猛者はいない。いても構わないけどね。

さて、ユシルは誰の元へと向かったのか…。

別にかち合っても問題はないが…こちらの行動を知られるのは不利かな?

私が向かっているのは王弟のいる研究棟だ。ユシルとの話し合いの時に同席して欲しいとお願いをする為だ。他にも騎士と侯爵に同席をお願いしようと思っている。

後からユシルに自分の都合の良い様に報告されるくらいなら自分の目で現場を見てもらいましょうという単純な理由です。

ユシルと三人を同時に相手するとかアウェイ感が強いが、こっちもメルーセに同席してもらう事で差し引きとする。もちろんメルーセにはただの証人として同席してもらうので私の弁護はしなくてよい。後は騎士辺りが暴走した時の護衛役という事で。

研究棟は教師と一部の生徒が文字通り“研究”の為に使っている校舎だ。自分の部屋ラボを持っている生徒は稀だが教師は大体持っている。王弟もそれは同じ。

研究棟は生徒が普段使っている校舎と離れたところに建てられているので昼休みと放課後以外に訪ねるのは時間的に厳しい。

ゲーム上だと選択肢を選ぶだけで訪れる事が出来たが、今の私は研究棟は初めてのため王弟の研究室がどの辺りにあるのか分からない。こういう時は忍者の出番です。

「サスケ」

辺りに人がいないのを確かめてからサスケを呼び出す。

「お呼びっすか?」

「ベキースタ先生の研究室までの行き方教えてくれる?」

案内させてもいいのだが、サスケは人を避けているので途中で消えるかもしれない。

「ベキースタ先生に用なんすか?」

「明日ユシルと“お話”する事になったからね、どうせなら三人にも同席してもらおうと思って」

「ああ…確かにその方がマシっすかね?でも一人だと危ないっすよ」

同感ではあるが三人に対する信用が低い。本来なら信頼できる人選のはずなのに。

「メルーセにも同席してもらおうと思ってる」

「それなら安心っすね」

うんうんと頷くサスケは自分が同席するとは言わない。近くで見張っててくれるとは思う。

「で、今からそのお願いをしに行くところ」

「なるほど、ベキースタ先生の研究室はまず…」

思ったよりも丁寧な説明で覚えやすい。

「表札があるので直ぐにわかると思うっす」

「わかった、ありがとねサスケ」

説明を締めくくったサスケにお礼を言ってから改めて王弟の研究室へと向かった。


王弟の研究室は直ぐに見つける事が出来た。プレートを見て部屋を間違えていない事を確認してノックをすればややあって「はい…」と返事があった。

「セルリア・フォル・オルレンスです。ベキースタ先生、入室してもよろしいでしょうか?」

「…え?」

入室の許可が下りないので大人しくドアの外で待っていればガチャリとドアが開けられる。

「どうかされましたか?」

ドアを開けてはくれたが、自身の体で中が見えない様にされており、何か隠しているのでは?と思わず勘ぐってしまう。

「実は相談がありまして…コレンス嬢の件で」

もったいぶっても仕方ないので最初から用件を告げる。

正直なところ王弟の部屋がゲームと同じなのかとか気になるが…今は我慢だ。今後もし機会があれば確かめよう。

「コレンス嬢の事で…ですか?」

今までは頑なに話をするのを避けてきたからか懐疑的な視線を返されてしまう。

「はい、実は明日の放課後にコレンス嬢と話し合いをする事になりましたのでベキースタ先生にも同席してもらいたいと思います」

要請おねがいではなく決定事項の様に伝える。

「つきましてはルオイ・テラ・トレスト卿とターレ・エオ・イエウール卿にも同席してもらいたいのですが、ベキースタ先生の方からお話して頂けないでしょうか?あと場所も用意してもらいたいのですが」

厚かましくも王弟に全て丸投げする。

最初に話したがったのはそっちの方だし、それくらいしても罰は当たらないと思います。

「私の方からは私と、私の付き添いとして我がオルレンス子爵家の使用人に一人同席してもらおうと思っています」

王弟があっけに取られて二の句が告げないでいるうちに、どんどんまくし立てる。

「そういう事ですので、予定を空けておいてくださいませ」

「ちょ、ちょっと待ってくれ…」

言いたい事だけを言ってこの場を去ってしまおうとしたが呼び止められる。

勢いで煙に巻こうとしたのだが甘かったか。

「なんでしょうか?」

「一つ一つ整理させてくれ、まず君とコレンス嬢が話し合いをするのは個人の自由であるし、それを咎める権利は誰にもない」

「そうですね」

「しかし、どうしてその場に私や…トレスト卿とイエウール卿も同席しなければならないのだろうか?」

「ベキースタ先生も含めたその三人が私とコレンス嬢の件で声を掛けてきたからです」

もちろん王弟には覚えがあるだろう、私がユシルを大々的に拒絶したその日に話しかけてきたのだから。

「あの時にベキースタ先生は“私がコレンス嬢との課題ペアを放棄した件”についてわざわざ声を掛けてきましたよね?何故ですか?」

王弟が声を掛けてきた時には一応話は終わっていた。シルノイ先生がどういう風に王弟に話したかは知らないが、少なくとも決着がついている話に自分の生徒でもない限りは関わりは持とうとしないはずだ。私が泣きついたとかならともかく。それともあの時点でユシルに泣きつかれでもしたのか…。

「同じ様にイエウール卿はあの日の昼に私の肩を掴むという乱暴まで働いて“お話”をしようとされましたし、トレスト卿に至ってはこちらの言い分を一切聞く事なくコレンス嬢に謝罪しろと糾弾してきました」

事実は都合の良い様に強調して使う。どっちも詳しく話はしなかったけれど。

「少なくとも私は二人に乱暴されなければならない諍いをコレンス嬢との間に起こしてはいないと思っております」

むしろこっちが被害者ですよ。

「しかしこのまま“コレンス嬢との話し合い”をした場合お二方にどの様に話が捻じ曲がって伝わるかわからず、また先にされた事を考えると私からお二方に提案しに行く事も憚られます」

また乱暴されるかもしれないから怖いじゃん?とか弱さアピール。

「そこで、お二方と同じ様に今回の件に興味をお持ちのベキースタ先生に頼らせて頂いたというわけです」

さすがにお前も取り巻きの一人なんだから参加しろよとは言えないのでオブラートに包みます。

「また私の身の安全の為にも使用人の同席は絶対に外せません」

前科がある奴を信用なんて出来ないし、王弟の事もストッパーとしては力不足という考えだと伝える。

つまりは私は王弟を頼って要請おねがいしているわけではなく、後からユシルの言い分だけで問題が起きると面倒だから関係者全員に参加してもらいたいという事だ。

「ご理解頂けましたでしょうか?」

断られたら明日の話し合いは食堂サロンで行う事にしよう。そこなら野次馬ギャラリーが皆無になる事はない。教室を出る時にわざと情報をもらせば覗きに来るものは出るはずだ。

「……わかった、トレスト卿とイエウール卿には私から話をしよう」

「ありがとう存じます」

王弟から望んだ答えを引き出せた事に満足し、自然と笑みが浮かんだ。




評価、ブクマありがとうございます!

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