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29 続々登場する攻略キャラ

攻略キャラがまた出てきます。

ターレ・エオ・イエウールを衆人環視の中で謝罪させるという屈辱を味わわせた後に、話があるのならこの場でならお聞きします。と宣言すれば尻尾を巻いて帰っていった。この状況でユシルと仲直りしろとかは言えなかったようだ。まぁ言われたとしても私は悪くないと返せますけどね。

脳筋相手なら私でも口で勝てるらしいとわかったのは収穫と言えば収穫だ。人前で暴力は振るえないだろうしね。

負け犬の遠吠えをしなかっただけまだ気概は残っていたらしい。

どこからか鳴り出した拍手に、気分は少し良くなったがご飯はすごく食べ辛くなった。食べたけど。

せっかくの美味しいご飯を台無しにされた恨みは忘れない。

直接手を出してきた騎士への報復はとりあえずしたので、後は原因にも対処しなければならない。

昼休みが終わる十分前に教室に戻れば先に戻っていたユシルはどこか期待している目で私の事を見た。予想通りユシルが騎士をけしかけたらしい。

騎士の説得により私が謝るとでも思ったのか、冷たい一瞥をくれる私に動揺した素振りをユシルは見せた。

自分の尻拭いを男にさせてんじゃねぇよ、という怒りと自分で謝る事も出来ないのに私が許すとでも思っているのか?など様々な怒りが湧いた結果が午後一番目の授業での騒ぎだ。

別室にて教師に今までの課題もほぼ私が一人で行っていた事を暴露する。

他にもユシルによって受けていた被害は多々あるが、証拠や証言を用意するのが面倒なので黙っていた。

「彼女と一緒に課題をするよりも一人で課題に取り組んだ方が精神的に負担が少なくてすみます」

最後にそう締めくくると教師は難しい顔で確認をしてくる。

「オルレンス嬢、今の申し立てに嘘はないですね」

「ええ、ありません。全てが真実です。最も課題の内容としては多少の記憶違いはあるかと思われますが」

「確かにコレンス嬢が質問に来た事はありませんね」

歴史を担当するこの教師は過去にも二度テーマを決めてレポートの提出を課題にしていた。なんでも自分で調べて纏めた方が記憶に残るからという理念で、教科書や授業で習った事以上の+αを書かないと点数をくれないのだ。

質問をしにいけば参考図書のヒントくらいは教えてくれるがそれだけ、後日自分で調べて確認を取った場合は合っているのか間違っているのかは教えてくれる。

テーマも拡大解釈が可能な大きい分類なので、学生の個性によって無難なものになったり奇抜ともいえるものが出来上がる。その幅が面白いのだとほぼ丸投げしてくるのだ、この教師は。

因みに今回のテーマは戦争だ。その悲惨さをレポートに纏めてもいいし、収益について纏めてもいい。

今回、評価なしになるのならぜひ“魔法”が存在するとしてそれがどう戦争に影響を及ぼすのかを考察したレポートを書きたいと思っている。完全に趣味に走っているのは認める。

「おやおや、それは面白そうですね」

どんなレポートにするかを聞かれたので正直に答えたら教師の目が輝きだした。

なおこの世界に“魔法”は存在しないが“魔法”という概念はある。それはおとぎ話に出てくるなんでも出来る“魔法”であってゲームで出てくる様な攻撃魔法とかとは違うものだ。

真実を突き止めるのも好きだがIFを語るのも好きなのがオタクの特徴であると思っている。

私のただの空想遊びでしかないレポートは教師の好奇心を煽る事に成功した。こんな荒唐無稽なテーマでレポートを書く者など過去にいたとは思えないので仕方ない。

「よろしい、セルリア・フォル・オルレンス嬢。今回の課題を一人で取り組む事を許可いたしましょう」

「ありがとう存じます」

深々と頭を下げて感謝の意を示す。まさか許可が下りるとは思いませんでした。ふざけたテーマだとも思っているのでそれも含めて。

「取り組むのなら半端は許しません、私を呻らせるものを書き上げなさい」

「努力いたします」

ハードルが上げられまくった感はあるが、いつもよりも楽しんで書けそうなので良し。

お姉様の勉強から逃げる口実にもなる。

「問題はユシル・ミラ・コレンス嬢ですね。彼女には一人で取り組むか、どこかのペアに入り課題を提出してもらいましょう」

微かに笑みそう締めくくった教師から退出を許される。教室にユシルが戻っている様ならば呼んできて欲しいと頼まれたがまだ戻ってはいなかった。

本日最後の授業の中盤辺りに教室に戻った事により注目を浴びたが無視をする。教師には詫びをいれるが話は聞いていた様で特に注意をされる事もなく席に着く事が許された。

授業が終了してもユシルが戻ってくる事はなく、拗れたままでゲームの最終日である卒業パーティーを迎えた場合、影響はどの程度のものになるのだろうか?と考えはするが他人事感は強かった。


遠巻きに見ているクラスメイトがいつ話しかけてくるかと思えば早めに退散をしておくべきだ。

鞄の中がぐちゃぐちゃになるのも構わず教科書やらノートやらを放り込んで席を立つ。

許可も貰えたし、さっそく課題のレポートに手をつけてもいい。どの時代の戦争をメインに考察しようかと考えながら寮へと帰ろうとしていた時だ。

「セルリア・フォル・オルレンス嬢」

フルネームで名を呼ばれたのは。

そして昼と同じ様にその声には聞き覚えがあった。

「ベキースタ先生…」

今度は王弟のお出ましの様だ。

騎士ことターレ・エオ・イエウールとの“話し合い”は拒否できても教師でもある王弟の呼び出しに応じないわけにはいかない。

ユシルの人選は間違っていないかもしれないが私の好感度はますます下がる。もはやマイナスすら突き破っている。

王弟ことリオルド・ジャッロ・ベキースタが担当している教科は“植物学兼薬物学”で、必須科目ではなく選択科目な為、私は選択していない。攻略キャラに近づくと碌な事にならないと思ったからだ。

攻略キャラに限っていうならビジュアルは好みの部類ではあったが、声がどうにも好きになれなかった。低めの声より高めの声の方が好きという事もあるが、彼の声は加えて体に響く感じがするのだ。それが好きという者もいるだろうが私は好きではない。声が好みであれば授業を選択した。

週に一時間、好みの声で授業を聞けるとかご褒美以外の何物でもない。ある意味で安全な距離を保つ事ができるベストな配置だとも思う。

線の細い美丈夫といったタイプの王弟は酷く繊細な性格をしており、王族として生きていくよりも一研究者として生きていく方が楽だと思っているし実行している。

王族である事を捨てたので家名は実母のものを使っていて、若い世代の中には彼が王弟だと知らないものもいる。

母親の身分が低かったため、王位継承権はあれど扱いは悪かった。王弟として公務に当たる事も少なく、知名度も高くはなかった為だ。

今は王宮に赴く事も少ないようだし…とゲーム情報を思い出しながらうっかりと余計な事を言わない様に気を付ける。

「なんでしょうか?」

「今少し時間を貰えないかな?聞きたい事があるんだが…」

「……私はベキースタ先生の授業を選択していませんが、どんなご用件でしょうか?」

にっこりと笑みを浮かべて牽制する。

用件なんてわかってますけどね、お気に入り(ユシル)に泣きつかれたのでしょう?

どうして私があんな暴挙にでたのか本当にわからないのか。

王弟がユシルの取り巻きの一人だという認識は残念ながら生徒、教師陣揃っての共通認識でもある。その彼が自分の生徒でもない生徒にこのタイミングで呼び出しを掛ける事がどういう意味を持つのか…察せないものは稀だ。

案の定注目が集まるが王弟は気にしない。…注目される事に慣れているせいだと思う。

知名度は低かったが、それ故に公式の場に出た時はあれが次代の王の弟かと蔑まれる事が多かったそうだ。

王弟が自分の立場をヒロインに示唆したのは確か五番目のイベントだ。それ以前に王太子と何かあるのを匂わせたりもして六番目と七番目のイベントで一気に解決まで持っていくという急ぎ足の内容だった。

「その、シルノイ教諭に聞いたのだが…」

シルノイ教諭とは先ほどまで話していた歴史担当の先生だ。

時間的に可能ではあるが、担当の教師が許可を出したので一応解決している問題でもある。よその先生が口出しすべき事ではない。

「はい、なんでしょう?」

下手にこちらから突かない方がいいなと思い、不審げな表情を作りつつ促す。

「ペアでする課題を一人で行いたいと申し出たと聞いた」

「その件でしたら今回に限り特例だと許可が下りました、それはシルノイ先生からお聞きにならなかったんですか?」

集まった人たちに聞こえる様に少し声のボリュームをあげる。

「いや、それは聞いたが…」

「では何が問題なんです?担当していない生徒にワザワザ声を掛けるんですから何かよっぽど重要な用件がおありなんですよね?それは既に許可を受けている課題の事についてなんですか?」

不自然な問いかけをしていると周りに知らせる為に口を開く、昼休みに騎士相手にしたのと同じ様に。

自分は何も悪い事はしていないと開き直る。

「ペアを組んでいた生徒と話し合いはしたのか?」

「私は今日の時点でどなたともペアを組んではいませんでした」

本当である。

互いになんとなく今回もペアを組むのだろうと確認を取らなかった。…どうせ私がほぼ仕上げる事になるのだし、テーマの確認もする気にはなれなかった。ただもう少し無難なものにするつもりではあったけど。

「いや、しかし…」

「今回ペアを組めず余った生徒は一人で課題をするか、別のペアに交ぜてもらうか選べるそうですよ?」

誰かに声を掛ける事は出来ないだろうし、出来たとしても受け入れられるかはわからないので一人でする可能性の方が高いけどね。

「お話がそれだけなら失礼しますね、課題に早く取り組みたいものですから」

一方的に話を終わらせて、勉強するから邪魔すんなと釘を刺す。

元々強く出るのが苦手な人なので、ああ…とかその…とか口の中で呟くしかできない。

失礼しますと最後通告(挨拶)をして今度こそ帰る。


この調子だと全員出てきそうだなと、憂鬱のため息が零れた。






評価、ブクマありがとうございます!

誤字報告してくださった方、助かりました。ありがとうございます!

昨日はブクマ数が一気に増えてドキドキしてます。

皆さま本当にありがとうございます!

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