アンデッドに狙われた村
ライオスのパーティが次に引き受けたクエストは、ミッションレベルがAと認定されるものであった。その依頼は村を襲うアンデッドの群れの撃退である。
その村がアンデッドに襲われるようになったのは、100年前に起きたある事件が原因だと言われていた。他国との国境から少し離れた森林地帯にある村ゾモラは、戦争で敗れて逃げてきた落ち武者によって作られたと言われる。過去の歴史を振り返ると、国境付近では幾度となく戦争が行われ、その結果、滅ぼされたり、追い出されたりする領主が後を絶たなかった。
そんなゾモラの村に逃げてきた貴族の領主がいた。一族と領民で300名を引き連れ、命からがら逃げてきたのだ。
かくまってくれと頼む領主の願いを聞き入れ、ゾモラ村は村の外にある洞窟に領民と領主をかくまったのであった。
だが、それは偽りであった。敗れた貴族には懸賞金がかけられており、ゾモラ村は逃げてきた落ち武者を捕えたり、殺したりすることで利益を得てきた歴史があったのだ。
一時的に洞窟にかくまい、安心させ、1か月ほど経って警戒が解けた頃にそれは実行された。洞窟に毒ガスを流し込み、一網打尽にしたのであった。
領民や家族を殺された貴族は、生き残った騎士たちと洞窟から飛び出し、待ち構えていたゾモラ村の村人たちに襲い掛かった。しかし、洞窟を取り囲んでいた村人は完全武装していた。弓矢による攻撃に槍衾。奮戦した貴族と騎士たちも次々と撃たれた。
体中に矢を受けてハリネズミのようななった領主は、その時、恨みを込めてこう言い残したという。
「100年後、100年後に我らの恨みは執行される……」
*
「なんか、それって自業自得って気がするけど。ねえ、セバスチャン、そう思わない?」
レイラに言われてカトーも頷いたが、だからと言って依頼のあった村人たちを見捨てるというわけにはいかない。だまし討ちの罪は100年前の先祖が負うべきであって、現在の村人たちには罪はない。
それに今は、農業や牧畜で平和に暮らしているのだ。恨みをもった死霊たちの復活で対抗すべき力もなかった。
「うむ……地形的に守備するのは難しくないが、相手はアンデッドだ。人間のように正面から襲ってこないかもしれない」
ライオスは村長の家で村の見取り図と周辺の地形図を眺めて思案している。戦力は十分とは言えない。村の財力がベテラン冒険者を多数雇うことは許容できなかったのだ。
辛うじてライオスたち8人がベテラン。あとは中堅チームが1隊と駆け出しチームが2つ。合計21人という陣容である。
この戦力に村の男たちが30人ほど加わっているが、村全体を守るとなると明らかに数が足りなかった。
「アンデットは洞窟周辺にいるものだけで、およそ100体」
そう偵察に出ていたジゼルが報告する。
「その中身は?」
「大半はゾンビ、グール……スケルトンもいた」
「その程度なら楽勝じゃないか」
そう僧侶の男がコメントしたが、残念ながらという表情さえしなく、淡々とジゼルは追加のモンスター名を告げる。
「ワイトにゴースト……そして彼らを操るのは恐らく100年の怨念が込められた死霊の王」
「死霊の王?」
ライオスはそうジゼルに尋ねた。100年後の復活して復讐すると言い残した貴族は、悪霊と化して死した一族や兵士や領民をアンデッド化して操っているのだと。
「となると、そのボスを倒さないと数で押し切られるな……。村を守りつつ、洞窟を攻略するしかない」
ライオスは悩んでいる。村に雇われた冒険者たちでは数が足りない。しかも、ゾンビやグール程度なら通常の武器で倒せるが、ワイトやゴーストとなると神に祝福された武器や魔法によって強化された武器、魔法攻撃でないと歯が立たない。
(俺たちのチームが洞窟を強襲してボスを倒すことが可能だが、残りの冒険者たちでは荷が重い……どうする)
この作戦会議の場にいるパーティのリーダーたちもライオスと同じ思考を共有していた。思った以上にこのクエストは難度が高い。
その時だ。建物の外が騒がしくなった。大勢の人間の声。この村の村長の声も聞こえる。そして、この作戦会議をしている部屋へ数人が近づいてくる気配もある。
バン……。
ドアが乱暴に開けられた。そこにいたのは白銀の鎧に身を包んだ騎士。兜を取って左腕に抱えている真紅のマントを来た男中心。その男を守るように両サイドに槍をもった騎士がいる。こちらは兜を取っていないので表情が読めない。
「冒険者たちよ、この場はこの僕が仕切ろうじゃないか」
そう騎士は言葉を発した。少し甲高い声。ウェーブがかかった金髪の長い髪。整った顔立ちはいかにも育ちが良さそう。良家のおぼっちゃま風の男である。
「こ、こちらは西方方面軍の将校さんで……」
そう一緒にやって来た村長が紹介をしようとするが、青年将校はそれを遮った。
「結構。自分で名乗るよ。僕は西部方面軍第19中隊所属第1小隊長のエドガーだ。この村の危機を知って兵を率いてきた」
「はあ……左様で……」
軍隊と聞いてライオスはかしこまった。通常、冒険者と軍は一緒に行動しないが、稀に共同で事に当たることはある。この場合、作戦は全面的に軍が行う。冒険者はその指揮下に入るのであるが、あくまでもお手伝い。命令に従う義務はない。
ただ、目的が同じであるのなら力を合わせることは冒険者にとっても損な話ではない。冒険者は目的を果たすことで報酬を得ることができるからだ。
「状況はおおよそこちらも掴んでいる。冒険者の戦力もな」
エドガーと名乗った青年将校。年は20代前半らしき若造であるが、エリート教育を受けてきただけに、その言動には迷いがない。
「僕の小隊が村の守備をする。君たち、冒険者は洞窟を急襲して元凶を絶ちたまえ」
エドガーが連れてきた小隊は50人ほど。守備する人数で言えば村人と合わせてもギリギリ耐えられそうである。
「……しかし、隊長さん。この戦いは消耗戦。アンデッドの大群と長期戦となれば、さすがに騎士様たちだけでは……」
ライオスはそう進言した。ギリギリ耐えられるというのは賭けなのだ。自分たちが首尾よく敵ボスを倒すまでに村が全滅する危険もある。
「心配することはない。お前のパーティに回復士がいるであろう。そいつは村に置いていけ」
そうエドガーは言った。どうやら、カトーのことを知っているらしい。ライオスはその意見に頷いた。確かにカトーが回復役に努めれば、こちらも無限の戦力を維持できる。
カトーは回復魔法以外はそれほどの戦力にはならないので、村に置いておいた方が効果が高いと思われた。
「分かりました。カトーは置いていきます」
「セバスチャンが残るなら、私も残ります」
そう述べたのはレイア。聖騎士の見習いのこの少女は、村人を守る方が気合が入る。まだ経験の浅いレイラをボス退治に連れて行くリスクを考えて、ライオスはカトーと共に村に残留させることを決めた。
「……私も村に残る……」
意外なことを言ったのはレンジャーのジゼル。無表情の顔からは彼女の意図が分からない。
「ジゼル、洞窟の探索となるとレンジャーがいないと……」
「大丈夫。洞窟は一つの道しかない。しかも地図は村にある。他のパーティのレンジャーもいる。私が行く必要はない……」
ライオスは少し考えた。確かに自分たちは急襲部隊である。戦力に特化した部隊で一気にボスを狩った方がいい。ジゼルの弓術はすごいが、狭い洞窟ではその力も発揮できないだろう。
「分かった。では、カトーとレイア、そしてジゼルはこの村に。後の冒険者チームは洞窟を攻撃する」
「うむ。それでいい。では、健闘を祈る、冒険者諸君」
そうエドガーーは命令した。




