完全回復魔法
そんな現場を離れ、猫を助けてしまったカトーは、町の市場へと足を向け、自分の力を試してみることにした。もしかしたら、大賢者並みの回復魔法を使える能力が自分にあるのではないかと思ったのだ。
「さあ、生きのいい魚だよ。買った買った!」
魚屋が軒を連ねる市場。氷に覆われ鮮度が保たれた店先に魚が山となって売られている。中には水槽で生きたまま売られているもいる。
「おじさん、その生きた魚1匹頂戴」
カトーはそう注文した。魚屋のおっさんはカトーの注文に勢いのよい返事をして、網ですくう。魚がピチピチと跳ねる。
「あらよっと」
まな板に乗せられた魚のえらに包丁を入れる。致命傷を与えて殺すと同時に血抜きをするのだ。だが、最初の一撃でカトーが止めた。
「おじさん、待って。そこまででいい」
「はあん、お客さん、血抜きをしないとまずくなりますぜ。魚の鮮度が保たれない」
「いいんですよ。その状態で」
「しかし……変なことを言うお人だ」
魚屋のおっさんはカトーの要求通り、一撃でぴくぴくしている魚を紙に包んだ。それをカトーへ渡す。
「ありがとう」
カトーはお金を渡すと急いで人気のないところへ移動する。そこで包みを開ける。もう魚は息絶え絶えで死ぬ寸前だ。
「ごめんな、苦しかっただろう。でも、俺の魔法が効けば……」
カトーは回復魔法の呪文を唱える。ほぼ死にかかった魚に対する回復魔法だ。
「神の御手……おっ!」
少しだけ呪文を唱えようとしただけで、カトーの手のひらから光があふれる。それは瀕死の魚を包み込む。魚屋のおっさんが手際よく加えた包丁の傷がみるみるうちにふさがり、そして魚に活力がみなぎる。
ビチビチビチ……。
勢いよく跳ねまわる魚。カトーはそれを抱えて港へ。海へ投げ入れると驚いたことに魚は元気に泳ぎだした。
「や、やべえ……俺って天才じゃないかよ。無詠唱で完全回復魔法を唱えられるぜ」
カトーは自分の力に驚いた。これはこの国で最高の力を誇る10大大司教以上の力である。
「おい、どうしたんだ」
魚屋の主人は急にへなへなと座り込んだ。隣の野菜売りの主人が心配そうに声をかける。
「い、いや……何でもねえ。昨日、ちょっとばかり飲み過ぎただけだ……だが、頭が急にくらくらしたのは初めてだ」
「お前さんらしくもないねえ」
野菜売りの主人はそう言ったが、魚屋の主人の体調は二日酔いどころではなさそうだ。何しろ、顔色がひどく悪く、まるで生気が感じられないのだ。
「ここは俺に任せて病院へ行けよ。おい、誰か、手を貸してくれ」
野菜売りの主人は近所の店主に声をかけて、近所の診療所へ魚屋の主人を運ばせたのであった。




