隠し扉
ジゼルはタカギの言葉に沈黙し、黙って背を向けた。
パーティの先頭はレンジャーのジゼルが受け持つのだ。ダンジョンに設置された罠や通路のマッピングも彼女の仕事なのだ。
2番手はリーダーのベルドモット。3番手は僧侶のホーキンス。4番手が魔法使いのシエラ。しんがりはタカギである。
やがてパーティはこれまでの仕事場であった地下6階を後にして、7階へと歩みを進めた。7階からは上級者のエリアと言われている。
7階の通路を進むタカギたちパーティは、道を確かめながら進むこと1時間。最初の敵に出くわせた。それは牛の頭をした巨大な人間。筋肉は盛り上がり、巨大なバトルアックスを引きずっていた。その斧にはこれまでの犠牲者の乾いた血糊がべっとりと付着している。
「ミ、ミノタウルス」
ベルドモットは剣を抜く。通路は大人が5人横で並べるほどの広さがある。目の前のモンスターは、これまで遭遇したことのない巨大なものであったが、これまでの経験から勝てない相手ではないと判断したのだ。
戦士の直接攻撃と魔法使いの魔法攻撃、弓のよる長距離攻撃を組み合わせれば、総合力で押せると判断した。
(うん、その判断は正解だね)
タカギも剣を抜いて前に出ながら、リーダーのベルドモットの判断を肯定した。タカギは目の前のミノタウルスのステータスを把握する。
ミノタウルス 攻撃力256 防御力189 巨人の斧+2(攻撃力120)
生命力360
人間と牛とが合体した合成モンスター。馬鹿力でごり押ししてくるファイター。但し、知能は低い。
(攻撃力はある。単独だと俺以外では太刀打ちできないだろう。でも、全員でかかれば攻撃力で上回る。何しろ、俺が単独でも倒せるレベル。楽勝、楽勝っと……)
タカギは自分一人で倒してもよかったが、それだとパーティのメンバーもやりがいはないだろうし、自分も疲れる。よって、メンバーにもそこそこ働かせて満足感を与え、美味しいところは自分が持っていく作戦を選択した。
「うおおおおおっ……」
ベルドモットが大振りのミノタウルスの攻撃をかわし、戦斧の一撃を胴に叩き込んだ。鋼鉄のようなミノタウルスの腹筋から血しぶきが出るが、簡易な革鎧を装着していたので致命傷まではいかない。
「ぐおおおおっ!」
痛みでめちゃくちゃ振り回した左手の拳を頭に受けたベルドモット。頭には鉄の帽子をかぶっていたので、それがへこんでダメージは免れたが、少し脳震盪を起こす。
「敵を撃て、マジックミサイル!」
シエラが魔法の矢を3本召喚してそれをぶつける。両腕と左ひざにそれはヒットする。さらに遠くからジゼルが弓で射る。正確な攻撃はミノタウルスの右目を射抜き、さらに分厚い胸板に突き刺さる。
「よし!」
タカギは前に出る。ベルドモットが離脱して僧侶のホーキンスによる治療を受けているから、前線は自分の出番だ。
「ぐおおおおおっ!」
めちゃくちゃ振り回す巨大な戦斧を軽くかわす。
(動き、めちゃ遅い!)
タカギの方が総合力が上だからであろう。今はステータスをいじって肉弾戦用にしてあるから、近接戦闘ではタカギの攻撃力はミノタウルスの倍に達している。よってミノタウルスの攻撃は全て見切っている。
「ほい!」
「ほい!」
右からの袈裟斬り、左からの水平一閃。目に留まらないタカギの攻撃。
「決めちゃおう!」
タカギはジャンプする。ダンジョンと言っても、天井の高さは10m以上ある。5mは跳んだタカギは剣を振りかざしてミノタウルスを兜割する。
「ぐあああああああっつ……」
真っ二つになって粉々になるミノタウルス。モンスターは生命力が0になると粉々に砕け散るのだ。
「タカギ、剣の技もすげえぜ」
ホーキンスの初歩回復魔法によって脳震盪から回復したベルドモット。虚ろな目でタカギの圧倒的な戦闘を見ていたが、回復とともにその記憶は鮮明になってきたのだ。
「あんな巨大なモンスター、簡単に倒せるってすごいわ」
魔法使いのシエラがそう褒めた。その表情がいかにも自分を信頼しているといった感じでタカギはいい気持になった。
「いやあ……まぐれですよ。何だかピンチになると体が超人的な動きになるんです。今もベルドモットさんが戦線から離脱したので、やばいと思ったら無我夢中で攻撃してました」
タカギはそうやって謙遜した。実のところ、本気を出せばこれくらいどうってことないのであるが、ものはいいようなのである。
「タカギがいればこの階層は楽勝のようだね」
僧侶のホーキンスはベルドモットの治療を終えて、立ち上がった。ミノタウルスを倒した後には金貨が100枚以上落ちており、報酬額はこれまでとけた違いなのである。ジゼルが拾い集めた金貨は126枚。これは6階までのダンジョン捜索でモンスターを倒して得られる報酬の10倍以上であった。
「これまで1回のダンジョン探索で得られる報酬が金貨50枚程度だったからな。モンスター1匹でこれほどとはな」
ベルドモットはそういいながら、少し考えていた。タカギが軽く倒したとはいえ、自分たちにはこの階はまだ早いのではないかと言う不安を覚えたのだ。
「パーティ全体の攻撃力から考えれば、この程度のモンスターは楽勝ですよ」
タカギの言葉は真実だけに安心感があった。少し不安を覚えたベルドモットも先ほどの戦闘では自分が油断しなければもっと楽に勝てたと思うようになった。これまでの彼なら、少しの不安を感じればすぐに帰還した。
だが、タカギがいればまだまだ十分行けると思うようになった。これは僧侶のホーキンスも魔法使いのシエラも同様だった。レンジャーのジゼルはどう思っているかは分からなっかったが、口数も少なく表情も少ない彼女が何を考えているかを知ることはできない。
「もう少し先へ進もう。地図と現れるモンスターの種類は次回にも役立つからな」
「ここ……隠し扉がある……」
先行していたジゼルが立ち止まり、右の壁を手の甲でコツコツ叩き始めたのは、ミノタウルスとの戦闘を終えてから30分ほど経った頃であった。そこの壁の色が微妙に違うのは、ジゼルしか気づけないものであった。
「隠し扉となると、お宝があるのでは?」
ホーキンスが僧侶らしからぬことを言う。このアリエラ教の僧は金に目がないことはここまで一緒に行動してきたタカギには薄々分かってきた。
「隠し扉となると、罠も警戒しないといけないよ」
シエラがそう警告する。ジゼルは両手で撫でるように壁を触る。隠し扉の解除方法を探っているようだ。そしてその方法が分かったのか、視線をタカギに向けた。
(大丈夫、大丈夫、ジゼルちゃん。もし、罠で怖いモンスターが出てきても俺が全部やっつけちゃうからね)
心の中でそんなセリフを言いながら、タカギは頷く。ジゼルはそれを見てから今度はリーダーのベルドモットへ視線を移した。ドワーフの髭男は力強く頷いた。
コツン……ギギギ……。
何かが外れる音がして壁が押し込まれた。ジゼルが看破したようにそこには隠し部屋があった。10m四方の部屋。中央に宝箱が置いてある。それは蓋が少し開いていて、中には宝石やら金貨がぎっしりと入っているのが見えた。




