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048.新たな悩み


 異世界に召喚されてから、およそ一月が経った。

 いきなり世界樹に飛ばされたり、そこで賢者様と出会ったり、決闘を申し込まれたり、大蜘蛛が襲ってきたり、ウチの生徒が超兵器を連れてきたりと、なかなかに濃い日々を送ってきたが、帝国の王女にご挨拶(・・・)してからは大きな騒動が起こることなく平和に暮らしている。


 あの王女様のことだから、何かしらの報復攻撃をしてくるかと思っていたんだけどな。

 もしかしたら作戦でも練っているのかもしれないが、こちらの対策もきちんと済ませているので、まぁ大丈夫だろう。


 そんなこんなで、今俺は農作業に勤しんでいる。

 俺の魔力と世界樹の力が組み合わさったせいか、俺の作る農作物はとんでもなく美味い。さらに生長期間も考えられないほど早いので、本来なら数ヶ月かかる作物も数日で収穫できてしまう。


 お陰でみんなから大人気で、いつも喜ばれている。

 まぁそれ自体は嬉しいんだけれど、みんなをもっと喜ばせようと思って様々な種類の作物を作り始めてしまい、畑が広大になりすぎてしまった。


 作物の生長が早いため毎日収穫作業を行わないとダメだし、収穫作業後は種蒔きをしていかないと次の作物が育たない。


 世界樹の根が張る土で畑を作っているためか、畑を休耕する必要がないほど肥沃な土壌だったことも予想外だった。


 お陰で最近は農作業しかしていない気がする。完全な農家生活だ。

 それは確かにスローライフと言えなくもないが、忙しさ的には全然スローではない。


 もちろん、恋唄や木洩日、エルフ姉妹、リボンちゃんにエルなどいつも手伝ってくれているが、広大な土地の前にはあまりに無力だ。


 特にエルはトウモロコシ畑専用になってしまっていて、油断していれば勝手にトウモロコシ畑を広げようとする。

 そんなにトウモロコシを作っても余っていくだけだ。


 余っていると言えば、他の食物も結構備蓄が増えてきて余剰が生まれてきている。

 なにせ長くても数日で収穫できてしまうのだ。賢者様や賢者様のダンジョンの魔物達、ご近所さんのエルフ一族に子リボンちゃん達に分けていっても、消費量より収穫量の方が圧倒的に多い。


 作物庫に空間魔術を付与させ収納容量を増やしたが、このままではいつかパンクしてしまう。

 そもそも食べ物は食べてなんぼだ。そのまま作物庫に放置しておくのは、空間魔術のお陰で腐らないとはいえもったいなさ過ぎる。


 そろそろ交易も考えていった方が良いのかなぁ。というのが最近の俺の悩みの一つだ。

 世界樹の樹周辺だけの世界もいいけれど、せっかく異世界に来たからには多種族との交流もしてみたい。


 獣耳とか竜人とか魔族とか、まさにファンタジーな人種がせっかく存在しているのだ。

 どうせなら仲良くしてみたい。


 それに、恋唄の将来を考えても、医学に強いヒトか学術書が欲しいところだ。

 恋唄の将来の夢はお医者さんになることだが、こっちにきてからはほとんど勉強が出来ていない。


 さすがに大学受験用の勉強は難しいにしても、将来役に立つであろう医学知識を得ることは損にはならないと思う。

 ただ、こっちの世界には魔法という存在があるからなぁ。


 怪我しても回復魔術使えば終わりだから、その辺医学知識の発展とかはどうなんだろうか。

 それももっと外の世界に出て行かないと分からない。


 まだエルネリア王国の首都である王都アレクサンドリアに何度か行ったことがあるだけだからなぁ……。

 まぁ、なにはともれ。


 とにかく――


「はぁ、もっと人手が欲しいなぁ」


 コレに尽きる。


「かかか。ならば聖皇様も魔物を使役してはどうですかな?」

「おわっ!? 賢者様!?」


 突然後ろから声をかけられびっくりする。

 この賢者様、最近は気配を完全に隠蔽して接近してくるから、毎回驚かされてしまっている。

 最近のブームなんだろうか。


「魔物を使役というと、召喚魔術ですか?」

「いえ、確かにそれでも構わないのですが、その場合常に魔力を吸われることになりますからな」


 基本的に一般的な召喚術の場合、召喚されたモノが現世に存在し続ける代償としてして、召喚者は魔力を使い続けることになる。

 召喚されたモノは術者の魔力を糧に、存在を固定化するためだ。


「となると?」

「魔物をつくりましょう」

「は?」


 何、その作物を作りましょう的な軽さ。


「聖皇様は、どのように魔物が生まれるかご存じでしょうか?」

「え? 魔物は魔力元素マナが集まって生まれるんですよね?」


 この世界には魔力元素マナと呼ばれるファンタジックな万能元素が存在している。魔法を使う基となるのはもちろん、この世界に生きる生物全ての生存に必要不可欠なものだ。


 そんなマナが肥大化し結晶化することで、魔物の魔核コアがつくられ魔物モンスターが誕生する。

 だからマナが濃ければ濃いほどコアの純度が高くなり、生まれる魔物も強くなるというわけだ。


「本来ならヒトの手で魔物を生むことは難しいのですが」


 コアをつくるほどのマナを集めることは中々に困難だ。

 人がもつ魔力にはその人の"色"が付いてしまうため、純粋なマナではなくなってしまい、コアの形成には向かなくなるからだ。


「ここは世界樹。ある意味最強のダンジョンです。魔物が生み出されるには最高の環境と言えます」


 ダンジョンに魔物が多く生まれるのは、ダンジョンそのものがマナの溜まり場だからだ。

 放っておけば溢れるほどに、ダンジョンでは日夜魔物が産まれている。


「そして、魔物生成には裏技がありましてな。コアが出来た直後に己の魔力を混ぜることで、生まれてくる魔物と擬似的な魂の眷族(ファミリア)を形成させることができるのです。

 そうすれば生まれてきた魔物は、こちらを"親"として認識するわけですな。

 そこから正式に名付けを行いファミリアとすることで、使役できるというわけです」

「なるほどー」

「一つ、試してみましょうか」


 そう言うと、賢者様が持っていた杖を掲げる。複雑な幾何学模様の魔方陣が光を放ち、一つの光る柱となった。

 そこに濃い魔力が世界樹から流れていくのが分かる。


「こうやって世界樹の魔力を集め、コア生成を促進させるのです。そして――」


 賢者様の魔力が光の柱に吸い込まれると、光の柱は黒く輝いた。

 世界樹の魔力と賢者様の魔力が溶け合うように渦巻き、黒く光る柱が一際大きく発光した。


「ほえー……!!」


 光が収まると、そこには体中に血で薄汚れた包帯を巻いたミイラ男がいた。

 包帯をはち切れそうにするほどのあふれる筋肉は、巨漢のレスラーのようだ。


 二メートルを超える巨躯から感じる魔力は、なかなかのものだった。

 顔の包帯から瞳は薄紫色に妖しく輝いていた。


「このように、生まれてくる魔物は儂の魔力の影響を濃く受けます」


 なるほど。

 だから賢者様のダンジョンの魔物にはアンデッド系が多いのか。


 生まれるための魔力はダンジョンのマナを使っているとはいえ、賢者様のあふれ出る魔力はダンジョン中を覆っている。

 だからどうしても生まれてくる瞬間には賢者様の魔力の影響を受け、賢者様の眷属として生まれてくるわけだな。


 少し、ダンジョンの魔物の生態について分かった気がした。

 そんな考察をしていると、賢者様の前で両膝をついたミイラ男。

 賢者様はミイラ男の頭に手を乗せた。


「貴様の名はステイサムだ。尽くせ」

「ムオオオォォオオ!」


 短く名付けを終えると、ミイラ男改めステイサムはムキムキの両腕を掲げ大きく叫んだ。

 咆哮がビリビリと大気を揺らす。

 満足気に頷いた賢者様は、転移魔術でステイサムをダンジョンに送った。


「どうでしょう。聖皇様がお作りになる魔物であれば知能もしっかりしておるでしょう。

 まさに今の聖皇様の悩みを解決する、良い案かと思いますが」

「そうですね。やってみましょうか!」


 基本的に自分のことは自分で出来るなら、マイナスになることはなにもない。

 早速、賢者様が使った魔術構成を丸パクリして魔方陣を展開させる。


 それも同時に5個だ。人手が欲しいので、ちょっと多めに作成してみた。

 賢者様の時と同じようにそれぞれの魔方陣から光が生まれ、柱となる。


 世界樹の魔力が順調に流れ込んできた。思った以上に集結していく速度が速い。あっという間に賢者様が溜めた量を通り越してしまう。


「け、賢者様、これ、どれくらい魔力を溜めたら良いんですか?」

「そ、そうですなぁ。時間的にはまだ足りぬと思うのですが……」


 次第に光の柱の発光は激しくなり、火花まで散り始めてくる。


「少し早いですが、もう良いでしょう!!」


 賢者様の言葉で、すぐさま俺の魔力を流し込む。あまりに強まる光の柱の波動に焦ってしまい、少し多めに魔力を流してしまった。


「あ、やばい?」


 がくっと身体から抜ける感覚。

 俺の魔力を吸って、七色に輝く五本の柱。それを中心に、光の粒子を撒き散らしながら魔力が渦巻き、閃光が走った。

読んでいただきありがとうございます。

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