047.命令と忠告
王女の部屋に忍び込む前に、生徒達が寝泊まりしている部屋を探し出し、一人ずつ解呪してチョーカーを回収してきたのだ。
恋唄と木洩日、それに鳴島を除く27人の生徒達からチョーカーを回収していくのは結構な手間暇がかかった。おかげで王女の部屋に忍び込むのがこんなに遅くなってしまったが、かえって良かったのかもしれない。
元々、こんなに早くここに戻ってくるつもりはなかった。
だが木洩日の状況を見る限り、敵は帝国の人間ばかりではないことがよく分かった。
鳴島が木洩日の命を奪おうとしていたように、同郷のクラスメートさえ敵になり得るのが現状なのだ。さすがに放っておくことは出来ない。
というわけで、緊急学生指導の開始だ。
上手く帝国兵達の目を盗み、時には物理的に排除させていただきながらも、生徒達の解呪と同時に進路……つまりは今後の希望を確認していく。
元の世界に戻りたいと願う子が多いとは思うが、もしかしたら手に入れた"力"を使いこの世界で生きていきたいと思う子もいるかもしれない。
大人が子どもに判断を委ねても良いのかと思わないでもないが、でも決めるべきはやっぱり子ども自身だと思う。
もしその時の考えが甘く、失敗したとしても、それが人生ってやつだ。
その時俺に救う余裕があれば、手を差し伸べてやれば良いと思う。
だから、一人ひとりに話を聞き、自分で選択させる。
帰りたいと願えば、俺が作った別次元の『寝室』で眠って貰う。もちろん、鳴島とは違い、恐怖や苦痛を与える夢などは見させない。
俺たちが元の世界に帰れることになった時まで、そこで眠りについておけば良い。
逆に、この世界に残りたいと願う子には、解呪だけで終わらせる。
そのついでに当座の生活費として金貨を何十枚か渡しておいた。これでどこかで生活の地盤は作っていけるだろう。
もともと『勇者』として召喚された際に、とんでもない"力"を貰っているのだ。おおよそのことは何とか出来るはずだ。
もちろん、世界樹の存在はぼかしながらも俺たちの住んでいるところに一緒に来ないかと、誘いはした。
だが、俺の人望のなさか、一緒について行きたいと願う生徒は誰一人としていなかった。基本的に残ろうとする生徒はほとんど、英雄の動向に従ったり相談したいと思っているようだった。
え、なに、俺ってそんなに信用ないの?
と、心の中で涙が零れてしまったのは、仕方のないことだと思う。
もうお前らなんか知らない。
さらに、このまま帝国で王女様のために頑張りたいとか本気で言っている生徒もいた。
正気を疑うが、もしかしたらお姫様の騎士に憧れているのかもしれない。気持ちは分からないでもないが、あのお姫様は性格本当に悪いと思うぞ。
それでも夢見る少年の希望を壊すのは忍びないので、そっかーと退散することしか出来なかった。
ちなみに英雄とヤンキーの狗奈山に関しては、出会った瞬間説教を始めようとしたり殴りかかってきたりしたから、即座に意識を刈り取り、チョーカーだけ回収して放置してきた。
こいつらはどうなっても適当にやっていくだろう。
というわけで。
結局、27人中5人は時空の狭間で眠りにつくことになった。この人数、果たしてどうなんだろうか。力をもった悦びが強かったのか、それとも俺が信頼できなかったのか。俺としては前者であってほしいが、圧倒的に後者の気がして悲しい。
残り22人は帝国を飛び出し自由に生きるか、そのまま帝国に残ることになった。
俺としてはきちんと選択の機会を与えたので、これで教師としての役割は終わったと思っていいだろう。異世界に来てまで、いつまでも教師と生徒という関係に縛られるのはこちらも相手も嫌だろう。
この先、敵対するのか味方になるのか傍観者となるのかは分からないが、敵対するなら容赦はしない。もう完全な他人なのだから。
「――どうして!? これは私にしか外すことは出来ないのにっ!?」
チョーカーを出したことで、生徒達の俺への信頼度の無さを思い出してしまっていた。
王女の悲鳴のような声に、意識が呼び戻された。おっと、ここは敵陣だ。驕りも油断も今は必要ない。
「……そんな子ども騙しの術式じゃ、簡単に壊されちゃうよ」
「子ども、騙し……!?」
キッと睨んでくる。よほど自分の作品に自身と誇りを持っていたんだろう。
それならもっとヒトの役に立つモノを作れば良いのに。
「コレを奪ったってことは……『勇者』をどうしたのよ?」
「ようやく素を出してきたか?」
「ウルサイっ!! いいから質問に答えなさい!!」
「五人だけ、俺が連れて行く。後は知らない」
「……は?」
手をパーの形にして突き出す。王女はアホみたいにその手を見てきていた。
「その五人は?」
「小椋、沖本、西村、早瀬、安田。この五人だ」
王女はすっと目を細める。おそらく五人の有用性などを思い返しているんだろう。
ただ別に王女がどう思うが、この五人を連れて行くことは確定していることだ。思い返しても無駄なのに。
「……その五人のために来たってこと?」
「いや、命令と忠告だよ」
「――ッ!?」
目の前の王女に思い切り殺気をぶつける。
一瞬で頭から水をかぶったのかと思えるほどの汗が吹き出て、すとん、と腰から落ちる。
顔面は蒼白で、本人は気づいていないだろうが涙が溢れていた。
「未来永劫、恋唄には一切手を出すな。これはお願いではなく、純然たる命令だ。
もし恋唄の周りにお前ないしお前の関係者がうろちょろしたら、即座にお前を殺す」
震える視線は揺れまくり、果たして俺の言葉が届いているのか。
ちょっと圧が強すぎたのか?
「それと。今後ここから逃げ出すヤツがいるのかもしれないし、このままお前に仕えようとするヤツもいるかもしれない。
どっちだろうと、生徒……勇者達に危害を加えるな。理解できたか? 出来たなら頷け」
「……ッ!!」
何とか頭をかすかに縦に動かしたのを見て、殺気を解く。
部屋中に満ちていた重い空気が、一瞬で消え去った。
「……ぉえっ!?」
王女が何度か嘔吐するが、そっと目を逸らしておく。さすがに女の子が嘔吐しているシーンを嬉々として眺める趣味はない。
「……私がアンタの命令を聞くと思う?」
少し咳き込んだ後、口元を拭いながら王女が俺を睨み付けてきた。
「別に聞かなくても良いけどさ。
例えばお前がウチの生徒の誰かを殺したとするだろ? それを俺が知ってしまったら、多分俺はお前を殺すぞ?
それで良いなら自由にすれば良いよ」
正直、忠告を聞くことは期待していない。ただ、実現可能かどうかは別として、これくらの譲渡を引き出すくらいが、俺が生徒達にしてやれる担任としての最後の行いだ。
「なら、今、私を殺せば?」
「……正直な。これでも俺はお前に感謝してるところもあるんだ」
「……はっ?」
「お前が召喚なんてしてくれたお陰で、俺の人生は一変した。
意義を見いだせたし、恋唄を守れる力も貰えた。
お前がどういうつもりで召喚したのかは知らないけど、今、俺が楽しくやってるのは事実だからな」
それは紛れもない真実だ。
側に恋唄がいて、賢者様やリボンちゃん、エルフ姉妹に木洩日とエル。そんな連中に囲まれて過ごす日々の充実感。
そしてこれからももっと輝くだろう日々に胸が躍る。
「だから、一度だけチャンスをやる。それをどう活かすかはお前次第だろ?」
それを活かすならそれで良いし、仇で返すなら容赦しないだけだ。
どこかで"力"を使う線引きをしておかないと、どんな時でも好き勝手に力を振るうワガママ野郎になってしまう。
だから、俺と恋唄、仲間達にとって害となった相手にしか力を使わないようにしていこうと思う。
現状でこの王女はプラマイゼロだから、即座に命を奪う選択肢を俺は取るつもりはない。
「……そう」
「ただ、一つ言っておくと。その後ろに隠してる武器……神代宝具だろ?
それ使った瞬間、死ぬよ?」
うずくまる王女は、こんな状況の中でも武器を手にし反撃の機会を窺っていた。
強かな女だなぁ。
「……もう、いいわ。好きにすれば?」
諦めたように王女は両手を挙げた。降参ということだろうか。
ただ、ここでその意図を問いただしても本心は教えてくれないだろうし、興味もない。そもそも吐き出した吐瀉物の近くで格好付けてもダサいだけだ。
結局、この場の主導権は俺にあるのだ。
王女の反応がどうであれ、俺がやることは変わらない。
「まぁ、お前がアホな考え起こさないことを願ってるよ」
最後にそれだけ伝えると、転移魔術で帰ることにする。もうこんな所に用はないからな。
それにこのままここにいれば、貰いゲロしそうだ。
俺は結構繊細なのだ。
早く帰って、恋唄の笑顔に癒やされたい。
とりあえず皆さんのおかげで、一章分書き切ることができました!
ありがとうございました!
今後もよろしくお願いいたします^^
読んでいただきありがとうございます。
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