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027.修行は寝るときに


 オラ、修行すっぞ! と、意気揚々とダンジョンに向かったものの、賢者様は不在だった。

 留守番役のアンデッド曰く、賢者様は明日の準備で忙しくされているようだった。


 そこまで本気にならなくても良いんだけどなぁとは思わないでもないが、せっかく楽しんでくれているならお任せするのがいいだろう。


 老人の数少ない楽しみを奪うわけにもいかない。

 仕方ないので留守番アンデッドにダンジョンの使用許可を貰う。


 なんでも賢者様から『聖皇様がここの主。儂がおらん間に聖皇様がいらっしゃったら、全ての要望に応えるように』と言われていたそうで、簡単に許可は貰えた。


 というか、あの骸骨賢者、相変わらずとんでもないことを言っておられる。

 手始めに上層からスタートしてみたが、出てくる魔物はどれも相手にならない奴ばかりだった。


 そもそも【迷宮ダンジョン】は魔力元素マナがたまり淀んでいくことで、次元がねじ曲げられ作られた『狭間』の世界だ。


 魔力元素マナのたまり場であるため、内部には魔物が多く生まれることになるが、ダンジョンの中心――つまりはダンジョンコアと呼ばれるダンジョンを形成する核に近いほど魔力元素マナが濃くなり生まれる魔物も強大になるらしい。


 アンデッドの王の中の王と呼ばれる死を超越した(イモータル・)偉大なる王(オーバーロード)である賢者様のダンジョンもそれは同様で、最下層にある賢者様の部屋が中心となりダンジョンが広がっている。


 最下層に近づけば近づくほど、死を超越した(イモータル・)偉大なる王(オーバーロード)の名に相応しい強大な魔物が生まれてきているわけだ。


 だから逆に考えれば、入り口のある上層部分に出現する魔物はそんなに強くない。


 もしかしたら世間一般レベルで考えれば、上層の魔物も死屍累々を生み出すような凶暴な魔物と認識されるのかもしれないが、実際問題俺からすれば雑魚だった。


 戦い方をいろいろと変えてみたり試してみたりをすることが出来るのは楽しかったが、修行としての成果が出るのかと言われると微妙なところだ。


 このまま一階層ずつクリアしていくのも面白いのかもしれないが、今回は時間がない。

 だから、今回の目的である修行に合った魔物のいる場所まで一気に飛ぶことにした。


 留守番アンデッドから、階層を跨ぐ転移魔術の使用許可も貰えているので、魔術を使うだけでショートカットが可能だ。


 なるべく強い魔物と戦った方が経験になるかなぁと、最下層に近い部分まで行ってみる。

 さすが賢者様のダンジョンだと言うべきか、出てくる敵はゲームの最終ダンジョンに出てきそうな奴ばかりだった。


 俺のモットーは『命を大事に』だ。

 確実に安全マージンを取り、絶対に命の危機に陥らないように立ち回る。


 恋唄を残して死ぬわけにもいかないし、せっかくの異世界を楽しむためにも、早々の退場は絶対に嫌だからだ。


 だから【神眼】などのスキルを活用して、相手の情報収集をしっかりした上で戦いを挑む。

 予定だったんだけれども。


 実際には、どれと戦っても手応えのないまま勝ってしまっていた。

 さすが幼女女神の力をもらっているだけあって、そこらの魔物では相手にならない。


 うん……これはこれでいいんだけどね。

 何というか『俺の物語』って感じで考えたときに、山場も谷場もない平坦なつまらないストーリーになってしまいそうで怖い。


 いや、でも冷静に考えて、山場があるということは結構なピンチになるということだ。

 それは一歩間違えれば命の危険性があるということ。


 それは嫌だな。

 うん、やっぱり山場はなくていいや。のんびり楽しくやっているだけの物語で俺は十分だな。


 と、どうでも良いことを考えながら進んでいけば、いつの間にか賢者様の部屋にたどり着いていた。


 この部屋の中に、このダンジョンのコアがある。

 ダンジョンコアを壊せばこのダンジョンは全機能を失う。魔物が生まれなくなるだけでなく、ダンジョンを維持する力が失われるため、このダンジョンが崩壊してしまうわけだ。


 せっかくのエルフ達の新しい邑も潰れてしまい、そこに住むエルフ達もダンジョンの崩壊とともに次元ごと消滅してしまう。


 というわけで、ダンジョンコアはぜひ大事にしていただきたい。


「……終わってしまった」


 最後の方は魔物も俺に近づかなくなってしまっていた。

 こんなはずではなかったのにな。


 今回は修行するつもりでダンジョンに挑戦したのに、果たして修行になっていたんだろうか。


 『わしの修行は厳しいぞ』というその道を極めたオジジ師匠も、見た目は子ども実年齢はオババみたいな人間離れした修行を課す師匠も、実は凄い力を持っていた俺の父ちゃんが師匠だったみたいな感じの師匠も現れることもなく、ただただ平穏に終えてしまった。


「……」


 よし。俺も帰って温泉に行こう。

 今回の結論。

 修行はきちんと師匠を見つけてからやりましょう。



「もうお嫁さんにしてくださいっ!」


 修行という名の遠足から帰ってくると、肌が艶々になったララノアちゃんがいきなり迫ってきた。

 最初から可愛いかった彼女は、今は三つ編みだった髪を下ろし別人のような大人っぽさを見せていた。


 温泉効果で肌つやが良くなったのか、美少女度が数倍もアップしている。


「ララノア、何言ってるのッ!?」


 とんでもないことを言ってきたララノアちゃんに、焦ってチョップを入れるアリエルさん。

 アリエルさんも温泉効果か、美少女具合をあげてきていた。大人とも子どもとも言えない、十代後半特有の美しさだ。


「だって、美味しいご飯が毎日食べられて、温泉にも入り放題なんだよっ! 嫁に行くしかないじゃない!!」


 恋唄がどんな話をしたのか分からないが、どうやらここに住めば美味しいご飯と温泉がついてくることになっているらしい。


 ご飯が美味しいのは、ここら辺の魔物が魔力元素マナを多く含んでいるからだ。

 魔力が高い魔物ほど肉が美味しくなる。理由は分からないが、これは間違いなさそうだった。


「んー。私が第一夫人だから、それ以外なら良いよ」

「側室でも妾でも大丈夫!」


 ちょっと恋唄さんっ!?

 さり気なく何を言っているんですか!?


 それは俺とけけけけけけ結婚しても良いと思っているってことですか?

 というか普通に一夫多妻制を容認するような発言してますが、この世界ってそもそもそれがオッケーな世界なの!?


「もうララノアっ!! 仕方在りません……この子の面倒を見るためにも私もここにいさせてください」

「……そう言って、本当はお姉ちゃんもここにいたいだけでしょ?」


 常識人だと思っていたアリエルさんまで、どうやら温泉の魅力に負けてしまっているようだ。

 それほどまでに骨抜きにするとは……温泉、なんて恐ろしい子ッ!?


 そうして、俺の意見は一切問われることなく、よく分からないまま居候が増えたようだった。


「……寝るとこ、どうするの?」



 布団は二組。ヒトは4人。

 一つの布団に2人ずつ入れば、みんなが幸せに布団で寝ることが出来る。


 つまりは俺と誰かが同じ布団に寝るということだ。

 いや、俺がそうしたいって訳じゃないよ?


 でもそうするしかないんじゃないかな?

 うん。きっとそう。


 これは仕方ないことなのだ。だから俺が悪いなんてことは一切ない。

 Q.E.D.証明終了。


 と脳内でウダウダ言っていたものの、結局布団は女の子達に分け渡すことにした。

 俺は突貫で小屋の隣にかまくらのような寝床を作り、そこで寝た。


 そうなる前にはエルフ姉妹が「悪いです!」と布団を渡して来ようとしたり、恋唄が一緒の布団で寝ようと提案してきてくれたりもしたが、鉄の意志でそれらを断り逃げてきたわけだ。


 最後に恋唄が「先生の意気地なし」という鋭利なナイフのような一言を突きつけてきたが、もし万一同衾なんてしようものなら恥ずかしいところを見せてしまうことは間違いなしだ。


 俺の脆弱で貧弱な意思力をなめないでもらいたい。

 というわけで、外で寝たせいかまだ夜が明ける前から目覚めてしまった。


 昨日まで恋唄と一緒に寝ていたため、独りの夜明けがこんなに寂しく感じるとは……。恋唄の存在感の大きさを改めて知った。


 かまくらから外に出て、魔術でつくった水で顔を洗う。

 冷たさでシャッキリする。


「……おはようございますぅ……ふあぁ……」


 小屋の近くにつくったイスに腰掛けながら歯磨きをしていると、恋唄が起きてきた。

 どうやら起こしてしまったらしい。


 寝癖がついた髪の毛を手櫛で直しながら、小さくあくびをしている恋唄。

 寝ぼけ眼でまだまだ眠りが足りていない様子だが、二度寝をする予定ではないようだ。


 恋唄は朝が弱い。若い女の子には多い低血圧なのかもしれないが、起きてすぐには頭がスッキリしないようだ。


 だから、俺の膝の上に座っているのも、きっと寝ぼけているからだろう。


「ふ、ふふぉんへへふぁらふぉうあろうは(布団で寝たらどうだろうか?)」

「んー……もう、起きてますよ……」


 ももにダイレクトに伝わる恋唄のお尻の柔らかさ。むむっ、これはいかんともしがたい。


「先生……ぜったいにしなないでね……いなくならないで……」


 身体を俺に預けてきたため、恋唄の顔が俺の胸に押しつけられる。

 これは確実に俺の激しく打ち付ける心臓の音が聞かれてしまっている。

 と、思ったものの。


「すー……すー……」


 と、恋唄は再び眠りの世界に入って行っていた。

 どうやら言いたいことを言えたので満足したようだ。


 ……大丈夫だよ。絶対に勝って……お前を独りにはしないから。

 恋唄の頭をなでながら、朝露に輝く世界樹の瑞々しい香りを少しの間楽しむことにした。

読んでいただきありがとうございます。

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