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お熱いの一つ その4

 色々と感慨深い滞在となったフォージ村を出発してから三日後、自分達を乗せた辻馬車は無事に王都へと到着した。

 しかし、王都の門を潜る寸前から、普段とは何処か異なる違和感を感じていた。

 出発した時には微塵も感じていなかったのだが、今は王都全体から緊張感と言うか皆神経が過敏になっている感じがする。


 特に、同業者の方々からそれは特に発せられている。


「またのご利用を」


 料金を支払い王都へと降り立つ自分達、連結されていた荷車を外しレオーネと二人掛りで押していくと、その足でギルドへと向かう。

 一歩また一歩とギルドへと近づいていくにつれて、いつもよりも同業者とすれ違う事が多いような、そんな気がしてならない。

 やがてギルドの前へまでやって来ると、レオーネ達に荷車の番を任せ、自分とレナさんだけでギルドへと足を踏み入れる。


 既に証明に必要な分と戦利品として売り払う分は分けている。冒険者鞄に入れている必要な分を今一度確認すると、カウンターへと足を向ける。


「今日はまた一段と人が多いですね。またワイバーンの目撃情報でも出たんですか?」


 まるでワイバーンの目撃情報が出た時、いや見た感じそれ以上の賑わいを見せている今日のギルド。

 丁度カウンターにいたオルファーさんに、手続き中に雑談混じりに何気なく尋ねてみる。


「ワイバーンならまだいいんですけどね。……実は」


 すると、オルファーさんは深刻な表情と共にこの賑わいの原因を告げた。


「実は、王国の北にあるシャウレー王国で昨晩、ドラゴンが出現したかも知れないと言う情報が伝わって来たんです」


 ドラゴン。その単語を聞いた瞬間にギルド内の賑わいも、そして王都内に広がっている緊張感も納得がいった。


 前世においても各種媒体でのその立ち位置は基本的に高いものであった、そしてそれは、こっち(エルガルド)でも変わらない。

 ドラゴンは害獣の中でも上級にに区別されている代表格の一つ、いや、ある意味で生態系の頂点に立っている存在の一つと言ってもいい。

 その能力はワイバーンよりもさらに高く、しかしその生息数は害獣の中でも低い部類に入る。まさに少数精鋭、そんな言葉が当てはまるのがドラゴンと言える。


 伝え聞いたところによれば、ドラゴンは一頭でも小国程度を火の海に変える程の能力を秘めているとか。


 ただ、今回目撃されたのは本当にドラゴンだったかどうかの裏付けはまだ出来ていないのだとか。

 と言うのも、シャウレー王国のある村の近くで目撃されたそれは、時間が夜中だった事もあり、月明かりに照らされたその輪郭と鳴き声から目撃した村人達がドラゴンだと言っているだけとの事。

 なので、もしかしたらワイバーンをドラゴンと勘違いしている可能性も捨てきれないのだとか。


 ただ、ドラゴンにせよワイバーンにせよ。相手にすれば一筋縄ではいかないのには変わりはない。


「もっとも、目撃されたそれは後に北へ、ヴォールリッヒ帝国の方へ飛び去って行ったと言われています。と言っても、ドラゴンはワイバーンよりも行動範囲が広い、極端に言えば大陸中が行動範囲ですから。どの方面に飛び去って行ったとしても油断はできません」


 イシュダン王国とは反対の方へと飛び去って行ったと言っても油断はできない、人々の見えない所で方向を変えている可能性だってある。

 つまるところ、害獣の行動予想など当の害獣以外誰にも分からないのだ。だから我々が出来る事は、万が一に備えて準備しておく事位だろう。


「……では、こちらが成功報酬となります」


 話題も一区切りついた所で手続きも無事に終わり、差し出された報酬を受け取るとカウンターを後にしようとする。

 しかしそこで、オルファーさんとは異なる別の誰かに声を掛けられる。

 しかも、その声は以前聞いたことのあるものであった。


「ハイドルトさん」


 声の主の方へと視線を向けると、そこには見知った顔ぶれの面々。

 ハイドルトさんにガウリーさん、それにセナさんにメルティナさんと。ハイドルトさんのパーティーの姿があった。

 お互いに依頼などをこなしていればすれ違い、あまり出会う機会も無く、久々の再会となった。


「王都に戻ってたんですね」


「あぁ。君達はあの後すぐに戻った様だが、僕達はあの後も暫くはベルベスク王国を中心に活動していてね。最近戻ってきたところさ」


 短い期間ではあったが共に依頼をこなした仲と言う事で一応話は弾む。と言っても、ハイドルトさんとの距離が近くなったのかはまた別問題だが。


「所で、君達もドラゴンの情報目当てかい?」


 話に一旦の区切りが付いた所で、不意にハイドルトさんから今広まりを見せつつあるドラゴンに関する話が飛び出す。


「いや、自分達は指名を受けた依頼から今帰ってきた所で、ドラゴンの情報目当てでは……」


「そうか。でも、周りはそうは見ていないようだよ」


 周囲に悟られぬようにハイドルトさんの視線が周囲の話に耳を傾けるように促す。それに従う様に耳を澄ませると、周囲の同業者達の反応が聞こえてくる。


「おいおい、『金騎士』と『黒騎士』の奴等、まさか組む気じゃねぇよな」


「あの二人が手を取り合うだと? マジかよ、只でさえ『黒騎士』の所には『黒姫』と呼ばれたあの女がいるんだぞ」


「最近王都のギルドのお抱え候補に名前が挙がってるって噂の奴等だろ、こりゃ俺達に勝ち目あんのかよ」


 耳を傾け彼らの声を拾うと、様々な反応を示していた。合わせて視線も感じる所から、どうやら周囲の同業者達は今回の件に関して自分達がどれ程関わるかを大変気にしている様だ。


「しかしまぁ、まだ情報は少ない。それに、本当にドラゴンだったのかどうかも不明確な以上、僕達としては必要以上に足を突っ込む気はない。対して、ショウイチ達はどうかな?」


 まるで周囲の者達を弄ぶかのようにわざとらしく声を張るハイドルトさん。その表情にも、いやらしい笑みが見え隠れしている。


「自分達も依頼から帰って来た所なので疲れてますし、推移を見守りつつ必要以上には手を出さないつもりです」


 それに進んで付き合うつもりではないが、あまり同業者達に関心を持たれ続けても迷惑だ。なので、ここは少し声を張り上げて付き合う事に。

 もっとも、仮に目撃されたのが正真正銘のドラゴンだったとして、今の自分達で相手になるかどうか。少なくとも、ドラゴンの首を横に笑顔を見せている自分達の未来は想像できない。

 刹那、周囲の声や視線が散らばり始めた。どうやら先ほどの宣言が早速効果を発揮したようだ。


「では、僕達は失礼するよ。あまり長話をしていては更に疲れも溜まってしまうだろうからね」


 相手にするだけでも疲れるのですが。と内心思いながらも、ギルドを後にするハイドルトさん達を見送ると、続いて自分達もギルドを後にする。



 荷車の番を任せていたレオーネ達と合流すると、荷車の荷を売り払うべく王都内を歩き始める。

 道具屋通りに在る馴染みの店で売れるものを売り、素材屋で素材を売り払う。今回の依頼の報酬に比べれば少ないが、それでもまとまった額が自分達の懐に入る事に。

 その後、荷車の置き場に荷車を置き終えると、一路ボルスの酒場へと向けて足を進める。


 店内へと足を踏み入れると、相変わらず人々の声と料理の匂いが混じり合う店内だが、今日はその話題の中にドラゴンに関する話が多く聞かれた。

 やはりドラゴンともなると、街の人々の間でも話題に上らずにはいられないようだ。


 そんな店内で、定位置となったカウンター席に腰を下ろすとマスターと言葉を交わしつつ料理を頼む。

 程なくして夕食が運ばれてくると、楽しい夕食が幕を開ける。店内の笑い声や会話を背景に、食とお喋りが進んでいく。

 そして食事を終えると、各々自分の部屋へと戻り様々な時間を過ごして一日が終わりを告げる。



 結局のところ、あれから一週間ほど経過したが、ドラゴンが国内に現れたとか王都の人間で見たという者が表れる事はなかった。


 ただ、同じ個体かどうかは分からないが、ヴォールリッヒ帝国のグライツ地方に正真正銘のドラゴンが現れたと言う情報は伝え聞いた。何でも、街が一つかなりの被害を受けたのだとか。

 このドラゴンがシャウレー王国で目撃されたのと同一かは不明だが、少なくとも更に北を目指して飛び去って行ったとか。

 それでも、やはりその情報が伝わった日には同業者達はもとよりギルドも、そして王都内全体が言い知れぬ不安と緊張に包まれていた。


 しかし、一日また一日と続報もドラゴンの目撃情報もなく特に変化のない日々が流れ続けると、そんな不安と緊張も徐々に薄まり。一ヶ月も経てば、既にいつもと変わらぬ雰囲気に戻っていた。

読んでいただき、ありがとうございます。

よろしければ、ご意見やご感想等お待ちいたしております。

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