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米の為ならえんやこら その6


 下級スライム種やゴブリン系等の個体数が多く遭遇率が高い害獣に関しては依頼外、即ち偶発的な遭遇戦による討伐を行ったとしても、その殆どはギルド等に報告される事はない。

 理由として、正規の手続きに基づき討伐した際と比べ支払われる報酬が低い事や、他の同業者とのトラブル回避。即ち、偶然討伐した対象が他の同業者が依頼で獲物としていた場合、その同業者から横取りされたと難癖を付けられない為だ。

 他にも理由は様々あるだろうが、概ねそんな所か。


 しかし、これが上級の害獣となると話は別だ。確かに正規の手続きに基づき討伐した際に比べれば報酬が低い事は変わらないのだが、自身や或いはパーティーの実績に箔が付く効果が下級と異なり得られる。そうなれば、後に得られる恩恵は想像も出来ない。


 とは言え、このミノタウロスを仕留めた証明を示すのにはどうするべきか。

 一番確実なのは切り落とした頭部を持ち帰って提示する事だが、いかんせん大きさが問題となる。ワイバーンもそうだが、ミノタウロスの頭部はその巨体に釣り合うほど人間の頭部と比べれば一回り所か軽く二回りを超える大きさだ。

 これを運ぶとなると、最低でも荷車が必要だ。となると、特徴の一つである立派な二本の角を切り取って持って帰るか。しかし、角だけでは討伐した証拠能力として低い事も否めない。偶々落ちていたとか、そう言った可能性も無くはないからだ。

 ま、そんな事を言いだせば第三者もいない森の中等での偶発的な討伐は全て怪しいとなってしまうが。


「リッチ4世さん、物を小さくする魔法とかって使えたりします?」


「おや、どうしてですか?」


「いや、この頭部を小さくして持ち運びやすくすれば便利なんだけどな、と思ったんで」


 流石にこの頭部を冒険者鞄に入れて、とは出来ず。荷車も無い為、魔法で小さくして持ち運びやすくできればと思ったのだ。

 しかし、返ってきたのは意外な答えだった。


「使えなくはないですが、あれって結構疲れるんですよ」


 疲れるから使えないとかどんな理由だ。と言葉に出して叫びそうになったが、何とか堪え。再度、頼み込む。

 しかし、返ってくるのは先ほどと同じ答え。この煩悩骨格野郎め、お前は今回あまり動いてないだろうが。


 だが、そんな声を荒げる事もせず、三度何とかして欲しいと頼み込む。すると、自分の背後からふつふつと湧き上がる黒いものを感じ取ったのか、それまでとは異なる返事が返ってくる。

 と、離れた場所に移動するとそこに手にした禍々しい杖で何やら魔方陣の様なものを描き始める。そして程なくして描き終わると、詠唱のようなものを唱え始める。

 光が発せられ、魔方陣の中央に変化が起こり始めた。やはりその眩しさに目を開けていられず、程なくして光が収まると、魔方陣の中央にある物が出現していた。


「どうです、これで問題解決です」


 木製の単純な、しかし単純だからこそ丈夫に組まれた骨組み。それを支えるは同じく木製の大きな二つの車輪。重い物や大量に運ぶ際に重宝するその物の名は、荷車。

 そう、魔方陣の中央に出現したそれは、何処からどう見ても何の変哲もない荷車でしかなかった。


「あの、これ……」


「はい。荷車です」


「一応聞くけど、まさか魔法の荷車とか?」


「いえ、何の変哲もない只の荷車です」


 確かに荷車があれば問題は解決だが、何故荷車を召喚するのはよくて小さくする魔法を使うのは駄目なのか。いや、もう考えるのは止そう。魔法の基準とは自分が思っているよりも分かりにくいものらしい。

 もっとも、今回のこれに関してはただ単にリッチ4世さんが面倒くさがっている様にも思えなくもない。


「……ま、何れにせよありがとう、リッチ4世さん」


「ど、どういたしまして。ですが、少し手の力を抜いてくれませんか、少々痛いです」


 感謝の意を込めて肩に軽く手を置いたつもりだったのだが、どうやら内面に残っていたものが少しばかり漏れ出てしまった様だ。

 さて、荷車も手に入れたので切り落とした頭部の近くまで移動させると、レオーネと二人掛りで頭部を荷車に載せる。

 こうして移動の準備も整い、いよいよベシュテットの街に戻るべくこの場を後にする。


 なお、頭部を載せた荷車はフェルが縄を繋いで引く事に。しかも率先してその役目を引き受けたのだから、どこぞのご主人様よりも本当に立派だ。


 とは言え、森を抜けた所で流石にこのままフェルがベシュテットの街に入ると無用の混乱を招くのではと言う話の流れになり。必然、どうするべきかの話となる。

 このままでは連れては行けないのでどうするかと悩んでいると、リッチ4世さんがそんな問題は直ぐに解決と言わんばかりに声を挙げた。


「ご安心ください。フェルも私同様、省エネモードが使えます!」


 もうあれなのか、魔界の関係者は誰であろうとその家電設定のようなものが使えるのか。それともリッチ4世さんとフェルが特別なのか。


 ま、何れにせよ、確かにこれでベシュテットの街にフェルを連れて入れる問題は解決した。

 早速フェルに伝えると、短く吠えると同時にフェルの体が光に包まれる。やがて光が収まると、そこには先ほどまでの巨体とは異なるフェルの姿があった。

 カルルと同じほどの大きさになったフェルだが。その容姿はそのまま小さくなったと言うよりも、リッチ4世さん同様にデフォルメして小さくなったと言えた。


「ほほほ、どうです。私同様に小さくなっても凛々しさが溢れ出ているでしょう」


 そう言っていつの間にか自身も省エネモードになっていたリッチ4世さんが、凛々しさよりも可愛らしさが溢れ出ているフェルの背に乗る。


「フェルは凄いな、何でも出来るんだな」


 カルルが近づきフェルの頭を撫でる。カルルに省エネモードになったフェルとリッチ4世さん、一人性格に難がある者はいるが、それでも表面的に見ればこの組み合わせは絵になる。

 それに、この組み合わせを見ていると自然と笑みが零れ癒される。


「よし、それじゃ問題も解決したし、行くか」


 こうして少し癒しの時間を設けた後、ベシュテットの街目指して足を進める。

 フェルが引けなくなったので、必然、頭部を載せた荷車は自分とレオーネの二人掛りで押していく事に。



 そしてベシュテットの街に到着したのは、日が傾き街が暁に染まり始めた頃であった。

 ワイバーンが既に退治された情報が伝わったのか、それとも時間帯だからか。来た時よりも街中で見かける同業者の数は少なく感じる。

 だが、それでも少なくない同業者達の視線や住人達の視線を受けながら、とりあえずはミノタウロスを仕留めた事を街の行政機関に伝えに行く。


 報酬の支払いや実績の追加等はギルドに行かなければならないが、やはり近くにミノタウロスが出現した事実は街の行政にも伝えておかなければならない。


 こうして街の行政への報告も終わり、その後必要な品物を買い揃え一晩をベシュテットの街で過ごし。翌日、頭部を載せた荷車を押しながら王都に戻る為の辻馬車を探す。

 流石に駅馬車では荷車も一緒にという訳にいかず、融通の利く辻馬車を探す事に。


「すいません。王都まで乗せていってほしいんだけど」


「王都まで? そりゃ良かった、丁度王都までもど……。げ! あんた等か!」


 衣服が変わっていた為気が付かなかったが、声を掛けたのは行きに利用した辻馬車の御者の男性であった。


「まだ街にいたんですね」


「ワイバーンの脅威が去ったって情報を掴んだのが遅かったんでね」


 流石に、ワイバーンの脅威が去ったと言っても夜の移動はリスクが高い。なので、翌日に移動がずれ込んだと言った所か。

 ただ、こちらとしてはそのずれ込みはありがたい事だ。


「今回も多く支払うつもりだ。荷物があるからその分」


「あ? 荷物」


 そう言って視線で荷車を指し示す。御者の男性が視線を動かし荷車を見つけるや、声を挙げた。


「あ、あれって! ありゃミノタウロスか! 本物か!? ……あ、あんた等が仕留めたのか?」


「あぁ」


「そりゃ、たまげたぁ……」


 呆気にとられる御者の男性、そんな彼に再度王都まで乗せて行ってくれるかを尋ねると、荷車の積み荷の効果か二つ返事で乗せてもらえる事に。

 辻馬車と荷車を連結させると、いよいよ一路王都を目指してベシュテットの街を後にする。

 途中、ギルドの在る街に立ち寄った際ミノタウロスに関する手続き等を済ませ。空になった荷車に辻馬車も出発時より足取り軽く王都を目指す。


 こうしてミノタウロスに関する手続き等の為行きよりも時間はかかったが、無事に王都へと到着する事が出来た。


 今回の一件で妙な顔見知りとなった御者の男性と分かれその足で向かったのは、言わずもがなボルスの酒場だ。

 店に足を踏み入れ開口一番マスターに尋ねたのは、あの問題の事。すると、御心配おかけしましたと言葉が返ってくる。やはり問題は解決していた。

 安堵すると同時にお腹の虫が主張を始める。自分だけではない、他の皆もだ。

 時間帯も丁度良いので、夕食を取る事に。頼むのは勿論、米だ。


「んー、やっぱりこの香りはいいなぁ」


 炊き立ての米の香りを堪能しつつ、英気を養うべく料理を口へと運んだ。

読んでいただき、ありがとうございます。

よろしければ、ご意見やご感想等お待ちいたしております。

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