米の為ならえんやこら その5
さて、勝利の余韻に浸るのもこれ位にして、戦利品の回収といきますか。
レナさんとレオーネの三人で手分けしてゴブリン系達の死体から武器や防具などを回収していく。
中にはもはや売り飛ばせないであろう程状態の悪い物や、自分達との戦いで使い物にならなくなった物等もあるが、そんな中でも回収できる物を回収していく。
こうして回収した物を一か所に集めると、見栄えや錆の原因となる血を協力して拭き取り、冒険者鞄へと放り込んでいく。
因みに、その間リッチ4世さん達は何をしていたかと言えば。自分の指示でワイバーンの死体から爪や皮等、売る事の出来る素材の回収を行っている、
頭部は切り落とされてはいたが、その他の部分の素材については手つかずであった。その為、ゴブリン系達の死体から回収した分と合わせて売れば、今回無駄に出費した分は取り戻す事が出来ると思いついたからだ。
無駄足を踏んだと思ってもいたが、考え方を変えればこれはこれで無駄ではないと言える。
「ほい、ショウイチ」
「お、ありがとう」
丁寧に回収しリッチ4世さんの魔法で汚れなどを取り除いたのであろうか、カルルから手渡された素材の数々を受け取ると冒険者鞄に放り込む。
かなりの数を入れた筈だが、流石は一流ブランドたるクロネル製と言った所か。まだ余裕があるように思える。
こうして回収した全てのものを冒険者鞄に入れ終えると、一旦ベシュテットの街に戻るべくこの場を後にしようと足を踏み出した。
そんな時であった。突然フェルが木々の間を一点に見つめ唸り声を挙げ始める。
「害獣の臭いがする!」
次いでカルルも声を挙げる。どうやらワイバーンの死体の肉に釣られていたのはゴブリン系達だけではなかった様だ。
カルルに数を尋ねると、どうやら複数ではなく単体との事。単体なら返り討ちにしやすいかとも思った刹那、木々をかき分けてそれは自分達の前に姿を現した。
自分の身長を軽く超えるその巨体、骨格からして自分達人間とは異なっていると思い知らされる足回りや頭部。それらはどう見ても牛と表現して差し違えない。
頭部から生える立派な二本の角に尻尾。特別にあしらえたのか、手にはその巨体に似合う大きさの巨大な斧。
姿を現したそれは、ワイバーンと共に上級に区別されている害獣、ミノタウロスであった。
「み、ミノタウロス!」
予期せぬ登場に、レオーネが声を挙げる。自分も、声は挙げていないまでも驚きの表情を隠しきれない。
「落ち着いて、確かに相手は手強いですけど数の優位は私達の方にあります。数を活かせば、倒せない相手じゃありません!」
レナさんの言葉に、レオーネが落ち着きを取り戻す。そして自分も。
上級と言っても相手は単体、更に言えばワイバーンの様に空を飛べる訳でもない。数の優位を生かし立ち回れば、倒せない相手ではない。
と言っても、油断すれば自分達が窮地に陥る可能性だってある。ならば、初動が大事だ。
レオーネの弓で仕掛けるか、それともリッチ4世さんの魔法で仕掛けるか。
「ウォ」
膠着状態が何時まで続くか分からず初動をどうするかと考え込んでいる自分に、フェルの声が聞こえる。
何事かとフェルの方に視線をやると、何かを訴えかけるかのように自分を見つめていた。
「ショウイチさん。フェルが先陣は任せてくれと言ってます」
フェルの伝えようとしている事をリッチ4世さんが代わりに伝える。確かに、フェルの足を活かして一気に懐に飛び込ませるのも一つの手だ。
だが失敗すれば。とそんな不安が頭を過ったが、フェルは心配ご無用とばかりにまた短く声を発し自分の目をじっと見つめた。
フェルの決意を感じ取り不安を払拭すると、頼んだぞと先陣をフェルに任せる。
その後、レオーネが援護し、自分とレナさんとで斬り込むと大まかな作戦行動を伝える。リッチ4世さんは、カルルの守りもあるが今回は切り札と言う役回りだ。万が一状況が悪くなれば魔法で状況を覆してもらう。
こうしてミノタウロスに対しての各々の行動を伝え終えると、見計らったかのようにミノタウロスがその巨体に相応しい力強い雄叫びを挙げた。
それを合図に、フェルが先陣を切ってミノタウロスの方へと駆ける。
自身に一直線に向かってくるフェルに対して、ミノタウロスはその進路を予想し手にした巨大な斧を振り上げた。
刹那、その巨体から繰り出される一振りが大地を割った。だが、その刃にフェルの血が付着する事はなかった。
振り下ろされる寸での所で進路を変更したフェルは、回り込むと無防備となった脇腹にその鋭い歯を突き刺した。
「オォォッ!」
鋼の肉体や鱗を持たぬ故、突き刺さったその堪え切れぬ痛みからミノタウロスの悲鳴が響く。しかしそんな悲鳴に同情して攻撃の手を緩めるつもりはない。
これ以上痛みを受けぬようにとミノタウロスの手がフェルを払いのけようと振りかざされたが、そこに一本の矢が飛来する。
手を射抜かれ再び響く悲鳴と共に、その表情は苦悶に満ちる。
こうして動きが止まったミノタウロスに、大剣を構えた自分とレナさんが斬り込むべく近づく。
しかし自分とレナさんが近づくのを察してか、痛みを堪え手と共に体全体でフェルを払いのける。
フェルの鋭い歯が食い込んでいた脇腹から血を流しながらも、再び構え直した巨大な斧を振りかざした。その刃が何処を捉えようとしているなど、一目瞭然だ。
刹那、自分とレナさんの間を何かがすり抜ける。と、ミノタウロスが構えを崩し片手で右目を辺りを庇い始めた。よく見れば、庇っている手の間から矢羽が見える。
レオーネの援護のもと、遂に自分とレナさんの大剣がミノタウロスの巨体を捉える。
先ずは動きを封じ込める意味で足に狙いを定める。確かな感触と共に一閃した足を確かめると、足には痛々しいまでの切り傷が。
「オォォッ!」
もはや痛みの連続で堪える事も忘れミノタウロスの悲痛な叫びが響く、と同時に傷付いた足では自身の巨体を支えきれず膝をつく。
足を封じれば次は腕だ、まだ腕が無事ならば我武者羅でも巨大な斧を振ることは出来る。しかし、ミノタウロスにしても腕をやられれば後がない事は分かっている。片腕で不完全な制御のもと巨大な斧を振るう。
「く!」
何とか大剣を構えて半ば暴走気味の一撃を受け止める。が、その威力はやはり片腕とは言え生半可なものではない。流石は上級と区別される事はある。
「グ、オォォッ!」
刹那、ミノタウロスの無事であった左目にも矢が飛来する。しかし両目の光を失ってもなお、その巨大な斧を振るのは止めない。
だが、そんな最後の足掻きも空しく。後ろに回り込んだレナさんの一振りが、ミノタウロスの頭部を捉える。
一閃の後、それまで繋がっていた頭部と胴体の繋がりが断たれる。大量の鮮血がほとばしると同時に、頭部と胴体はそれぞれの意思を持ったかのように別々の方向へと倒れる。
「終わった……」
ミノタウロスが物言わぬ死体に成り果てたと同時に、それまで張りつめていた緊張が途切れたかの如く溜息と共に言葉も零れる。
同時に、レオーネの歓喜の声が後ろから響いてくる。どうやらカルルやリッチ4世さんと喜びを分かち合っている様だ。
自分も、それに影響されてかレナさんと喜びを分かち合った。無論、フェルの事も忘れてはいない。
一頻り喜びを分かち合うと、その後はミノタウロスを仕留めた報告に関した証明の為に死体に手を付け始める。




