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調査 その8

 トンドの森へと足を踏み入れた自分達は、グランさんとラミスさんのパーティー二組と別れ早速調査を開始した。

 とは言え、森は広く、当然ながら一日そこらで調査が完了するものではないと言うのは容易に想像できた。

 調査開始一日目は、特にこれと言った成果も無く終了する事となる。私的な成果で言えば、突発的に遭遇した害獣との戦闘でハイドルトさんのパーティーの実力の鱗片が垣間見えた事ぐらいだろうか。


 やはり、金騎士と言うあだ名はただ単に目立つからつけられている訳ではなかった。その動きは、自分が見ても相当の修羅場を潜り抜けてきたことを容易に想像させた。



 調査二日目、午前中目撃情報のあった蟲系の害獣を見つけはしたがそれらは単体か、多くてニ三程度の数でしかなく。大群と呼べる程度の集団は確認されなかった。

 そしてその日の午後の事。


「そう言えば、カルル君の使い魔の実力。まだ見ていないけれどいかほどの実力なのかな?」


 唐突にハイドルトさんが言い出したこの言葉を切っ掛けに、その後何故かずるずると話の方向がリッチ4世さんの実力お披露目の方向へと移行していく。

 そして気づけば、丁度手頃と言わんばかりに単独行動していた蟲系の害獣を発見し、リッチ4世さんが戦う運びとなってしまっていた。


「あのちっこいのだけで、ホントに大丈夫なのかよ?」


「一人で戦わせないと本当の実力が確かめられないよ。それに、本当に危険となれば僕達が直ぐに助けるさ」


 少し離れた茂みに身を潜め、自分達はリッチ4世さんの戦いを観戦する事になっている。

 ガウリーさんとハイドルトさんの会話を横に、自分はと言えば不安と興味本位が混じり合っていた。確かに数日前の戦闘の姿を鑑みるに不安がない訳ではないが、これまで謎に包まれていたリッチ4世さんの実力がこの目で確かめられる。その興味本位が勝っていたと言えるかもしれない。

 対峙するのは、まるで巨大なダンゴムシの様な蟲系の害獣、アーマーウードと言う名が付けられている。その名の通り、蟲系の中でも上位の防御力を有する種だとか。


 そんなアーマーウードにリッチ4世さんは近づいていく、そして遂に、相手に気付かれずに近づく事に成功するとリッチ4世さんは禍々しい杖をアーマーウードへと向けた。


 相手のアーマーウードの頭は完全に明後日の方を向いており、完全な不意打ち状態だ。ここで致命傷となる一撃でも与えれば、無傷で倒せただろう。

 しかし、忘れていたのだ。今のリッチ4世さんは『省エネモード』だという事に。


「くらえ紳士の華麗なる魔法、ファイヤーボール!」


 と言うと禍々しい杖の先端から、先ほどまで何もなかったその空間に突如として文字通り玉状の炎が現れた。それはカッコをつけて物理と注釈をつける必要のない、完全な魔法。

 熱く燃え滾るであろうその炎の玉は、アーマーウードの体へと吸い込まれるように飛んでいく。

 避ける事も出来ずアーマーウードの体に直撃した炎の玉。


 だったが、直撃した箇所には僅かに焦げが付いた程度で、致命傷を与えたとは言い難い結果であった。


「あ……」


 炎の玉が当たった事でリッチ4世さんの存在に気が付いたアーマーウード、その頭がその鋭い眼差しがリッチ4世さんを捉え、その鋭い歯を有した口がリッチ4世さんを捕食しようと動き出す。


「わわわっ!」


 食われてたまるかと逃げるリッチ4世さん、そして複数の足を器用に動かし追いかけるアーマーウード。円を描くように追いかけっこを行う両者。

 流石にこれはまずい、助けに行こうと声を挙げるが、ハイドルトさんがそんな意見を制する。


「彼はまだ本気を出していないようだし、心配はないよ」


 何故そう言い切れるのかと思った刹那、このままでは埒が明かないと先に行動をとったのはアーマーウードだった。追いかけるスピードを上げ、徐々にリッチ4世さんとの間隔を狭めていく。

 もはや絶体絶命と思われた瞬間、突如としてリッチ4世さんが禍々しい杖を掲げると、刹那、眩いばかりの光が溢れだした。

 その光の眩さに、自分達のみならずアーマーウードもたまらず足を止め顔を逸らす。


 やがて、光が収まると、アーマーウードの目の前には相変わらずリッチ4世さんが立っていた。

 しかしその姿は、先ほどまでの不思議な可愛さが溢れる姿ではなく。初めて出会ったあの時の、即ち、本来のリッチ4世さんの姿がそこにはあった。


「いやはや、油断大敵とはまさにこの事ですな。一匹とは言え省エネモードで挑んでも問題ないと思っていた私の油断、全く持って愚かでした」


 先ほどよりも何倍も大きくなった、もとい本来の姿に戻ったリッチ4世さん。その声もまた、懐かしさを感じる程に可愛さの欠片もなかった。


「さて、もうすぐ大事なティータイムなので手早く片付けさせてもらいますよ」


 先ほどまで捕食しようとしていた相手がいきなり大きくなった驚きから未だに抜け出せないのか、アーマーウードは動く気配がない。

 しかし、まるで気が付いたかのように突然動き出すと、一気に捕食を試みる。


「では、せめて形だけは残しておいてあげましょう……」


 迫るアーマーウードを前に、リッチ4世さんは逃げる素振りも見せずただ独りごちる。

 そして、遂にその口がリッチ4世さんを捉えようかとした刹那、手にした禍々しい杖を一度軽く地面に突いたかと思うと、突然それまで活力に満ち溢れていたアーマーウードがまるで糸の切れた人形の如くその場で動かなくなってしまった。


「その体はやがて地に還り、その魂は星へと還るでしょう」


 一体何が起こったのか、頭が追い付かず誰もが言葉を失っていると、戦いを終えたリッチ4世さんが自分達のもとへと戻ってくる。


「皆様、私の華麗なる戦い、ご覧いただけました。紳士たる私のカッコ良さが溢れ出ていたと思うのですが、いかがだったでしょうか?」


 カッコ良さよりも不気味さなどが勝っているような気がしないでもないが、先ほどの一連の出来事に皆頭が混乱しているのか自分も含め誰もそんな事は言わない。適当な感想を述べるので精一杯だった。

 それから程なくし、ようやく正常な思考が戻ると、ハイドルトさんがその口火を切った。


「ははは、君の所のメンバーはどうやら僕の想像以上だったようだね。恐れ入ったよ」


「お、お前ちっこいだけかと思ったらデカくもなるんだな!」


 ハイドルトさんに続きガウリーさんが続く、そう言えば気にしていなかったが、本来のリッチ4世さんの背丈はかなり高いな。自分より一回りほど大きい気がする。

 因みに、カルルはやっぱり凄いやと感心しており、レナさんは驚いたと声を漏らし。セナさんとメルティナさんに至ってはもう声すらも出ない程だった。



 その後、興奮さめやらぬ中リッチ4世さんの勝利祝いとばかりにティータイムを過ごした自分達は、再び調査を再開した。

 とは言え、さして成果もないままその日は夜を迎え、トンドの森での二日目の野宿となった。



 そして三日目、それまでの芳しくない成果が一気に吹き飛ぶほどの大成果とも呼べるものと遭遇する事になる。


 それはその日の昼近く、トンドの森の中心付近に差し掛かろうかとした時であった。

 カルルが、突如異常な数の臭いを感じたと声を挙げたのが始まりだった。カルルの案内に従って臭いの発信源へと向かうと、そこには自分達の想像以上の光景が広がっていた。


「これは……」


 思わず声が漏れる程、目の前に広がる光景は異様なものだった。

 アーマーウードも含め複数の種の蟲系達が互いを捕食しようともせず、ただ一目散に何処かを目指してそのあまり早くない歩みを続けている。

 少し小高い丘の上にいた自分達の視界には、木々の間をすり抜ける大群とも呼べるその群れが視界一杯に覆い尽くされていた。


「何なのあの数、こんなの絶対普通じゃない!」


 あの場から少し離れると、セナさんが開口一番声を挙げた。

 確かに彼女の言う通り普通ではない。そもそも、単一種ではなく複数の種による集団行動。害獣に我々と同じ協力関係を築ける能力があるのかどうかは不明だが、少なくとも自分は今までそんな行動、違う種同士の協力行動については見た事がない。

 しかし、なぜあれ程の規模の群れが今まで目撃されなかったのか。隠れていたにしてもあの規模なら目撃されていてもおかしくはない筈だが。


「まずいね、あの方向は間違いなくベルベスク王国の方だ」


 焦りの色を隠せないハイドルトさんが声を漏らす。ベルベスク王国の防衛能力がどれ程の物かは知らないが、あの大群を相手にしては軽度の被害で済まないのは確実だろう。

 気になる点もあるが、今はそれよりもあの大群への対処について今出来る事を考えなければ。


「先ずは剛腕と剣女神達と合流しよう。少なくともあの数を前にしては、我々だけではどうする事も出来ないしね」


 ハイドルトさんの案に賛同するように、自分達はグランさんとラミスさんのパーティー二組と合流すべく足を進めた。

 それから数十分後位か、無事に合流した自分達は早速あの大群についての目撃情報を彼らに伝える。


「おぉ、あの大群か! それなら俺らも見たぞ」


「えぇ、信じがたい光景だったわ」


 するとどうやら、彼らも同じ光景を見ていたらしく。互いに今でも信じがたいと言わんばかりにその表情には困惑の色が見られた。


「知っているなら話が速い。……それで、今後どうするかだが」


 ハイドルトさんが率先して今後の対応も含め協議を始める。グランさんは俺達全員で叩き潰すと言ったが、ラミスさんに本当に考えなしねと一蹴されていた。


「ショウイチ、君の意見はどうかな?」


 そんな流れの中で、ハイドルトさんが自分に意見を求めてきた。


「ハイドルトさん、ここからベルベスク王国まで最短でどの位ですか?」


「そうだね、慣れた者なら最短でも一日程で到着する。そうでなくても全速力なら三日もあれば着くだろう」


「なら、一先ず誰かがベルベスク王国にあの大群の事を知らせに行かせた方が良いかと」


 あの大群が一体どれ程でベルベスク王国に到着するか分からないが、王国側の防衛のための準備も含め一分一秒でも早く王国側に知らせを送るべきだろう。

 自分の案に特に反対する者もおらず、早速誰が行くかの協議となった。


「私達が行くわ。トンドの森の地理なら多少心得てるし、それにベルベスク王国には顔見知りも多いしね」


 そして立候補したのは、ラミスさんのパーティーであった。

 女性だけで大丈夫かと不安も湧いたが。この中で一番身軽に私達は動けるし、それなりに修羅場はくぐってきたからと言われては無下にできなかった。


「頼みます、ラミスさん」


「任せといて。あ……でも、途中でやばくなったら私達だけで逃げるかも知れないけど。そうなっても、恨まないでよね」


 誰だって自分の命は大事だ。自分達は国に忠誠を誓っている訳でも、ましてギルドのお抱えでもない。

 ラミスさんの言葉に、誰も真剣に反論する者はいない。まるで大事な使命を遂行する彼女達の気を紛らせるかのように冗談交じりに言葉を投げかけている。


「気を付けてな」


「あんたにそんな言葉掛けられるなんて、明日は雨かしらね」


 グランさんからの言葉を冗談交じりに返すと、ラミスさんのパーティーがベルベスク王国を目指して足早に去っていく。

 彼女たちの後姿を見送りながら、その頼もしい後ろ姿が見えなくなると、残った自分達はどうすべきかの協議が始まった。


「んで、俺達はどうするんだ? やっぱ少しは数を減らすのか?」


「君は本当に戦うのが好きだね。でも、残念ながら戦いは避けたいのが本音でね。あの大群、幾ら僕や剛腕、それに黒姫や黒騎士がいるとは言えあの数の暴力の前には分が悪い」


「ならどうすんだよ」


「もう少し情報を集めたら、ベルベスク王国に向かおう。安全の為に迂回してね」


 現在孤立無援の自分達だけでは出来る事など限られている。ハイドルトさんの意見に賛同するように、再度情報収集をすべく一度距離を取ったあの大群の近くへと向かう。

 あの大群に気付かれないようにある程度の距離を取ってはいるが、その圧倒的なまでの威圧感は、距離を置いていてもひしひしと感じられる。


「にしても、本当に信じられない光景ね」


 セナさんの声が漏れ聞こえ、内心で本当にそうだと共感する。

 それにしても、本当にありえない程の大群だな。自然にこれほどの大群が出来上がるものなのか。

 そんな素朴な疑問が脳裏をよぎる。


「レナさん、あれ程の大群が発生するって、あまり珍しくなかったりする?」


「いえ、私もあれ程の大群を見たのは初めてです」


 自分よりも数々の害獣と対峙し、数々の修羅場を経験してきたであろうレナさんでさえ見た事がない大群。

 自然発生でないとするならば、外部から何らかの要因が加えられてこの様な事態になったのだろうか。


「まさか、とは思うが。……オフィサータイプ、或いはブレインコーディネーターがいるのかも知れない」


 自分とレナさんの会話を聞いていたのだろうか、ハイドルトさんが聞いた事のない言葉を漏らす。

 

「何ですか、その、オフィサータイプとブレインコーディネーターって?」


 どの様な意味を持つのかを尋ねると、ハイドルトさんが丁寧に説明を始めた。

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