調査 その9
「オフィサータイプとは指揮官と呼ばれる事もある害獣の個体を指す言葉で、同じ種の害獣を束ね文字通り集団で行動等をするんだ。ただ、指揮下に置くのは同種の害獣のみで、他の種まで指揮下に置く事はないんだが……」
もしかしたら、指揮官同士が結束していてあのような大群になった可能性もなくはないだろうがね。と、ハイドルトさんは言葉を付け加えた。
害獣の生態系から行動範囲、生活習慣まで全てを我々人類は把握している訳ではない。知られていなかったり新たな行動等を取る事だってあるだろう。しかし、色々なグループが団結している可能性は低そうだ。
「そしてブレインコーディネーターだが。『魔族』と呼ばれる種族が害獣を操る際に用いる特別な害獣、それを指す言葉だよ。こちらは種の枠を超えどんな種であろうとその指揮下に置けると言われている。そして、僕としてはあの大群はブレインコーディネーターによって作り出されたんじゃないかと考えている」
これは別名統括種とも呼ばれているとハイドルトさんは言葉を続けているが、自分の耳には『魔族』の二文字がこびり付いて離れない。
隙を見てリッチ4世さんの手を取り、その際、リッチ4世さんが小声で『いやん強引』と言ったような気がするが気にせずその場を離れると、他の皆に聞こえないであろう場所まで離れた所でブレインコーディネーターについて尋ねた。
「ハイドルトさんが思うにあの大群はブレインコーディネーターによって生み出されたのではと言ってたが。リッチ4世さん、何か気づいてますか? まさかとは思うけど、魔界からこっちに侵攻が始まったなんて事はないですよね」
同じ魔族であるならば何かわかるのでは、同族が引き起こしたかもしれない事ならば分かる筈。そんな考えてリッチ4世さんに詰め寄る。
無論、まだ確定したわけではないが何かわかるかも知れない。そんな期待を何処かに込めていたのかも知れない。
本来の姿のままのリッチ4世さんは腕を組み考え込んでいる。やがて、考えがまとまったのかゆっくりと言葉を発した。
「おそらく、ショウイチさんが考えているような最悪な結果ではないと思います」
魔界がエルガルドに侵攻し、あの大群はその先兵なのでは。そんな最悪な結果ではないと断言され、少し安心する。
「しかし、今回の件に魔族が絡んでいないとは言い切れません。残念ながら、あの大群はハイドルトさんの言う様にブレインコーディネーターによって生み出されたもので間違いないです」
「え、それじゃぁ……」
「詳しくは言えませんが、実は魔族にも色々と派閥と言うものがありまして。現在の主流は議会も含め大部分は穏健派なのですが、過激派と呼ばれる者も中にはいます。そして過激派は、エルガルドに矛先を向けるのを躊躇わないでしょう」
勝手なイメージで一枚岩に近いものかと思っていたが、どうやら魔族にも人間同様一言では言い表せない複雑な事情があるようだ。
そんな同族としてか、リッチ4世さんはっきりとは言わなかったが。今回の一件、過激派と呼ばれる魔族が関与している可能性が高いようだ。一体何が目的か、単に破壊衝動に駆られたのか、それとも別の何かがあるのか。
「残念ながら今回の一件の犯人が誰かは見当もつきません。しかし、誰であろうと同族の起こした事、この私、命に代えても……。あ、そう言えばもう死ねないんですけどね」
カッコイイ事を言おうとしてボケたのか、それとも最初から場を和ませたかったのか。どちらにせよ、張り詰めた空気が一気にゆるくなったのは確かだ。
「何れにせよ、私も出来る限り頑張りますよ。……そして、紳士でカッコイイ私の姿にマドゥモワゼル達はもう夢中で、ぐへへ」
「おいおい、心の声思いっきり漏れてるって」
もはや狙っているのかそれとも素なのか、いや完全に後者だろう。
魔族としての何とかよりも己の煩悩を優先しているのはいかがかとも思うが、理由はどうあれやる気なのはありがたい。
「ま、リッチ4世さんのやる気も分かったところで、そろそろ戻るか。あまり時間を空けると怪しまれるし」
「了解です」
皆のもとへと戻ると、案の定と言うべきかハイドルトさんが早速何処に行っていたのかと尋ねてきた。
とりあえず違和感なく怪しまれない理由、用を足しに行っていたと言う事にする。因みに、リッチ4世さんは最中の安全確認役と言う事にしておいた。
「いやはや、ショウイチさんは武器のみならず己の……」
なお、途中でリッチ4世さんが余計な事を言いそうだったので少し黙っておいてもらったのは言うまでもない。
ともあれ、ハイドルトさんを始め他の方々は特に疑問を持ってはいなかったようだが。レナさんに関しては何か感づいていたようで、意味ありげな視線を自分に送っていた。
「さて、ショウイチも戻ったところで移動するとしようか。必要な情報は大方集め終えたし」
「どの個体がブレインコーディネーターか判ったのか?」
「いや、流石に遠目からの外見だけでは判断できないよ。しかし、あの大群の中にいるのだけは間違いないだろうね。統括種の指揮範囲は然程広範囲では無いはずだから」
集めた情報を書き記したであろう紙の束をポーチへと仕舞い込むハイドルトさん。そんな彼に続くかのように、他の面々も移動の為の準備を行う。
大群と並行するのではなく、距離を置き迂回しながら一路ベルベスク王国へと向かい始める。
それから数時間、自分達は依然としてベルベスク王国へと向かい足を足を進めているがその足取りは軽くない。いや、寧ろ足を止めていたい程だ。
と言うのも、あの大群との遭遇を境にして、それまでとは比べ物にならない頻度で害獣との遭遇が増加していたからだ。
倒しても倒しても次から次へと数もある程度まとまってやって来る害獣達との戦いで、自分も含めその表情には疲労の色が見られる。
そして今現在も、自分達の行く手を塞ぐかのように数十程度の蟲系の害獣達が眼前にいる。
「俺達は正面の奴らを片付ける!」
「なら僕たちは左の連中を相手にしよう。ガウリー、セナ行くぞ! メルティナ、援護を頼む」
グランさんのパーティーに続きハイドルトさんのパーティーも素早く狙いを定め動く。
それに遅れまいと自分達も動く、必然的に残った右の集団へと狙いを定めると、リッチ4世さんの魔法援護のもと自分とレナさんが突っ込む。
「出し惜しみなしの大盤振る舞いですよ!」
炎の槍が眼前の害獣達の胴体を射る、突き刺さった害獣達はその灼熱の炎に焼かれその生涯を終える。
仲間の焼死体に臆したのか、それとも単に炎に臆したのか。何れにせよ動きを止めた残りの害獣達に自分とレナさんの大剣が襲い掛かる。
頭を切り落とし、足を切り落とし、或いは大剣を突き刺し。返り血なんて気にすることも無く、振り掛かる火の粉を払いのけるかのように大剣を振るい続けた。
リッチ4世さんの魔法援護もあってある程度の数を倒し終えると、余裕が出来たからかふと他のパーティーに視線が移った。
ハイドルトさんのパーティーはやはりと言うべきか、阿吽の呼吸のもと自分達に対して危険度の高い害獣を的確に仕留めていく。まさに、無駄のない戦いだ。
一方のグランさんのパーティーはと言えば、若干力で押している部分はあるが、こちらも互いの連携で害獣達を仕留めている。
とその時、グランさんの背後に手負いの個体が迫っているのに気が付く。グランさんは背後の個体に気付いていないのか、眼前の害獣達に意識を集中させている。
「危ない!」
声と共に、投げナイフを投げる。手負いであった為か運よく急所に当たったのか、投げナイフが当たったその個体は糸が切れたかのようにその場に倒れ込み以降動く事はなかった。
自分の声に反応したのか、グランさんの視線が自分と、そして後ろの投げナイフが刺さっている動かぬ個体を行き来し。どうやら瞬時に事の次第を理解したようだ。
「すまねぇ、助かった!」
短いお礼の言葉を発すると、グランさんは直ぐに自身の戦いへと舞い戻る。
そして自分も、レナさんが気づかぬ間にさらに数を減らしていた害獣達との戦いに舞い戻る。
「レナさんすいません。途中で一時戦線離脱して」
「いえ、いいんですよ。グランさんにも怪我などは無いみたいですし。それに、リッチ4世ちゃんの援護もありましたから」
戦闘が終わり、一時的とはいえ自分が他のパーティーの助けを行った為にレナさんに負担をかけたのではと心配の声を掛けると、彼女は特に気にしていないと優しい声で答えてくれた。
「それに、ショウイチさんは私を信じていてくれたからこそあのような行動をとったんでしょう?」
「うん……、あ」
彼女の実力のすべてを知った訳ではない、しかし、彼女なら大丈夫とあの時信じられたからこそグランさんの助けに入った。
ふと、微笑む彼女の頬に少量の返り血が付いている事に気づき、手でふき取る。
「でも、今後は自分も頑張らないと。……レナさんの綺麗な顔に返り血があまりかからないように」
刹那、彼女の顔が赤く染まっていく。




