ご指名 その4
夕暮れに染まったギルドへと到着し、そのまま一直線に向かったのは受付カウンターであった。正式にシャガートさんからの依頼を受領する為だ。
先ほどシャガートさんから連絡を入れておくと言っていたが、どうやら問題なくギルド側に連絡は伝わっていたようだ。無事に難なく今回の依頼を正式に受領する事が出来た。
さて、無事に手続きも終わったので、丁度いい時間帯であった事もありそのままギルドで夕食をとる事にした。
夕食を取りながら先ほどの打ち合わせの内容をカルルに伝えておこうかとも思ったが、周囲一帯同業者だらけの中で秘密性の高い今回の依頼の情報を口にするのはあまり宜しくないだろう。との考えに至り、ギルドでは食事だけを済ませ打ち合わせの内容は別の場所で伝える事にした。
やがて夕食も取り終え、いつもならギルドを出た所で解散となる運びだが、今回は違っていた。何故なら、カルルに伝えなければならない事があったからだ、それも他人に聞かれない所で。
「カルル、さっきの打ち合わせの内容を伝えたいから付いて来てくれるか」
「ん? 何処に行くんだ?」
「他の人に話が漏れ聞こえない場所かな」
こうしてカルルを引き連れ足を運んだのはボルスの酒場、即ち自分が泊まっている場所であった。
「お帰りなさいショウイチさん。……おや? そちらの可愛らしいお方は?」
「マスター、こちら新しくパーティーメンバーになったカルルです」
「オイラ、カルル。よろしく!」
カルルとは初めて顔を合わせるマスターにカルルの事を紹介し終えると、一旦止まっていた足を再び動かし始める。
向かうは不特定多数の人が集う一階の酒場の席ではない。階段を上がり向かったのは、今朝鍵を閉めたばかりの扉の前、即ち自分の部屋だ。
「ねぇショウイチ、ここってショウイチの部屋か?」
「そうだよ。ここなら安心だろ」
「うん。……でも何だか、ショウイチの部屋ってあんまり生活感ないね」
部屋を見物していたカルルの口から、率直な感想が漏れる。しかし、反論出来ないでいた。何故なら、まさにその通りだからだ。
もう既にこの部屋で暮らし始めてから半年近くは経過しているだろうか、だが、実際のこの部屋で生活している時間はその数分の一程度しかないだろう。何故なら、殆どの時間を外で過ごしているからだ。
一人で依頼をこなしていた時はもとより、フィルとパーティーを組んでいた時などは仕事の内容から数日から部屋を空ける事も珍しくなかった。
なので、寝たり、乱雑に袋に入れた戦利品等を整理したりと言った用途以外では、殆どこの部屋を利用してはいない。食事も一階やギルド等、部屋の外で取るのも部屋を使わない原因の一つだろう。
そんな部屋で、先ほどの打ち合わせの内容をカルルに伝えていく。
出発は明後日の早朝や道中での害獣や賊との遭遇及び戦闘の際の追加報酬等、紙に書き綴った情報をカルルに漏れなく伝えていく。
ベッドに腰を下ろしたカルルは、聞き逃さないように耳を傾けている。
「……と、こんな所か」
全ての内容を伝え終えると、カルルに理解できたかどうか、分からない所はあるかどうかを質問する。
「あのショウイチ、害獣や賊が襲ってきたらオイラも戦った方がいいのかな?」
すると、少し困ったような表情と共にカルルが質問をぶつけてくる。
確かに手数は多い方が良いのかも知れない、しかし、無理に戦う必要はないしあくまで今回の依頼の内容は護衛であって出てきた害獣や賊の殲滅ではない。
なので、カルルにはいつも通りの自分の役割を果たしてくれればいい。そう伝える。
「もし数が多くて手に負えなくなったら逃げればいいし、カルルはいつも通りで大丈夫だよ」
「うん、分かった!」
不安が解消されたからか、先ほどまでの表情とは変わっていつもの元気なカルルの表情がそこにはあった。
こうして打ち合わせの内容も伝え終えると、明日は明後日からの準備の為に朝から集合するとの約束を取り付け、解散する運びとなった。
カルルと別れた後、明日揃える必要な物のリストなどを制作しつつも、明日に備え頃合いを見てベッドへと身体を預けた。
翌日、前日の約束通り準備の為に朝から集合した自分とカルルは、早速必要な物を買い揃える為に王都内を歩き始めた。
人の集まる所には物も集まり、そして何でも揃う。この方程式は、前世もこっち(エルガルド)も同じようだ。
流石は一国の中心地たる王都、店頭には食料から宝飾品まで色とりどり形も様々な物が溢れ、人々の視線を誘う。そんな中で、自分達は必要な物を必要と思うだけ買い揃えていく。
非常用の食糧に水、投げナイフの予備に緊急時の脱出用の煙玉等々。それらを揃えている店を歩き回り買い揃える。
「ショウイチ、こんなに買い揃えて持っていくの大変じゃないか?」
「大丈夫だよカルル、必要な荷物などは荷馬車に積んでもいいと言われてるから。ま、加減はあるだろうけど、この程度なら問題ないと思う」
今回はご厚意で荷馬車に荷物を積めるが、今後も大量の荷物などが必要となった場合などを予想して備えも行っていかなくてはならい。
そんな事を頭の片隅で考えながらも、この日は大部分を明日からの準備に費やす事となった。




