出会いと別れ その5
王都の近くにある、何度か害獣駆除で足を踏み入れた森。そこが、今回の仕事場であった。
木々の間から光が漏れ神秘的な光景に見えるのか、それとも始めてみる場所に言葉が出ないのか。カルルは先ほどから周囲をしきりに見回している。
「どうしたんだ、カルル?」
「こ、こういうところはあまり来たことがないから」
少し怯えたようなカルルの声が聞こえてくる。どうやら茂みの影などから害獣が突然襲ってくる事に少し怯えているようだ。
「そんなに怯える必要はないよ。この辺りの害獣はそれほど強くはないし、森の奥ならまだしもこの辺ならまだまだ害獣との遭遇率は低いから」
「そ、そうなのか」
「それに、万が一害獣が襲ってきてもカルルの事は自分が守るから。安心して」
自分の言葉に安心したのか、カルルは周囲をしきりに見回すのを止めると、鼻を突出し害獣の臭いを探し始める。
「そう言えば、スライム種みたいな臭いの無さそうなものでも臭いってあるものなのか?」
「種類にもよるけど、スライム種みたいなものでも臭いはあるぞ。ただ、他の害獣と比べると臭いはそれほど多くはないけど」
人間には分からない世界と言う事か、自分も何度がスライム種と戦ったことはあるが臭いなんて気になった事はない。
ただ、アンデッド系に関しては人間である自分でもその臭いというものは感じた事はある。
「……お! ショウイチ、こっちだこっち」
などとカルルの嗅覚に感心していると、臭いを感じ取ったのかカルルが自分の手を引っ張って臭いの感じた方に向かおうとする。
森の中を歩き、生い茂る茂みをかき分けてやって来たその先は、少し開けた場所であった。
そしてそこには、探し求めていた存在。数体の下級スライム種がその独特な外見を隠す事無くさらけ出している。
「いたぞショウイチ」
「まだこっちに気付いていなみたいだ。カルル、ここで待ってろ、直ぐに倒してくるから」
「うん」
下級スライム種達は自分達の存在に気が付いていないのか、警戒する事もなく開けた場所を行ったり来たりしている。日向ぼっこか、散歩でもしているのだろうか。
小声でカルルをその場で待機しているように言い伝えると、なるべく音をたてないように背中の鞘から大剣を抜き構えると。そこからは反撃の間を相手に与える事が無いように、一気に襲い掛かる。
大剣が躍り影が流れ、そして、暫くした後その場には物言わぬ下級スライム種達の死骸とスライムの核だけが残っていた。
「凄い凄い、凄いよショウイチ! あっという間に害獣を倒しちゃうなんて!」
「あの位なら自分じゃなくても手間取る事はないと思うけど……」
「それでも凄いよ。オイラじゃとてもあんな数の害獣を相手になんかできないからさ!」
「今は無理でも、カルルだって時間を掛ければ倒せるようになるさ。自分だって、こう見えても最初は色々と苦労したんだぞ」
スライムの核を拾い集めながら、カルルにだってまだまだ可能性がある事を説く。自分だって成長できているんだ、カルルに出来ない訳はない。
すると、カルルは今までになく大きく頷くと、頑張ってみると大きな声で答えた。
「よし、それじゃもう少しだけ害獣駆除といきますか」
「ラジャー!」
まだまだ時間はある、焦ることなく少しずつでも進んでいければいい。
害獣の臭いを再び探し始めるカルルを見ながら、今後のパーティーの成長が少し楽しみになってきていた。
その後も、カルルが臭いを感じ取っては感じた方へと向かい、向かった先で害獣を見つけては駆除するという作業を何度が行い。
そろそろいい頃合いだろうと切り上げてみれば、王都へ戻った頃にはすっかり夕暮れ時になっていた。
「では、こちらが成功報酬となります」
ギルドへと戻り、カウンターで証明を提示し手続きを済ませると、受け取った報酬を確認するやその半分をカルルに手渡す。
「え、こんなに貰っていいのか?」
自身が予想していたよりも多い金額に、カルルは困惑の色を隠せないでいた。
しかし、自分としてはカルルの今回の活躍は十分に手渡した金額に釣り合うものであったと思う。そう説明すると、少し照れくさそうな表情を浮かべながら納得したように受け取った。
「さて。丁度いい時間だし、夕食を食べるか」
「うん!」
夕食を食べる為に飲食スペースへと足を運び空いているテーブルに腰を下ろすと、スタッフを捕まえ互いに料理を注文する。
しかし、カルルの注文を聞いてはいたのだが、まさか昼食に続いて夕食までリンゴ尽くしでくるとは思わなかった。
「カルルは本当にリンゴが好きなんだな」
「うん、毎日リンゴでも飽きない位大好きさ!」
本当に毎日リンゴを食べそうな位の勢いで、カルルは元気に答える。
因みに、他に好きな食べ物はと聞いてみると、少し考えるように悩んだ末出てきたのはやっぱりリンゴであった。どうやらカルルとリンゴの縁は切っても切れないらしい。
なんて待ち時間を過ごしていると、美味しそうな匂いを漂わせながら、頼んだ料理が運ばれてきた。
甘ったるい匂いや刺激的な匂い、肉の焼ける匂いなどが入り混じる中、空になった胃袋に次々と料理が運ばれていく。
やがて空になった胃袋が満タンになると、意味もなく鎧の上からお腹の辺りを叩いて食べた余韻に浸る。
「ショウイチ、何だかおじさんみたいだな」
「う、そ、そうか……」
カルルの率直な意見に、少し心に傷を負いながらも、お会計を済ませるとギルドを後にメイン広場で夜風に当たる。
すっかり日も暮れ、頭上にはお月様がその姿を現しているというのに、王都内はまさに昼間となんら変わらぬほどに松明やランプの灯りなどで輝きを失わないでいた。
「そういえばカルル、カルルは王都内に住んでるのか?」
「うん。宿屋通り近くの宿に泊まってるんだ」
「そっか、あの辺りか」
宿屋通りという言葉に、それまで忘れていた昼間の光景が思い出される。
しかし、今はもう過ぎた事だとそう自分に言い聞かせると、あの光景を記憶の奥へと仕舞い込む。
「自分はここに泊まってるんだ」
自身の泊まっているボルスの酒場、その住所を書き写した神の切れ端を、無くさない様にと付けたしながらカルルに手渡す。
「それじゃ、明日も朝から依頼をこなしていく予定だから、今日は解散としよう」
「オイラ朝は苦手なんだけど……。でも、頑張ってみるよ」
「頼んだよ相棒」
「ラジャー!」
こうして、新たなるカルルとのパーティー初日は幕を閉じた。
また明日から色々な出来事が起こるだろうが、そうした事も何故か楽しみになっている。
やっぱりパーティーはいいな、そうひしひしと感じながら、ボルスの酒場目指し足を進め続けた。
因みに、ボルスの酒場に戻った際マスターに何か良いことがあったのかと尋ねられたのは、ここだけの話だ。
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