出会いと別れ その4
何故探していることが分かったのか、そんな疑問は湧いてこなかった。何故なら、募集の掲示板の前で真剣に悩んでいたのだから。それで探していないと思う方が驚く。
「実は、丁度オイラもパーティーメンバーを探してたんだ! そこでだショウイチ、オイラとパーティーを組まないか?」
「え、カルルと?」
「そうオイラと! ショウイチとオイラなら最高のパーティーになると思うんだ」
薄々感じてはいたが、まさか本当にパーティーメンバーのお誘いとは思わなかった。
しかしこのお誘い、どうするべきか。実力もなにも分からないカルルと組むのは良いか悪いか。いやそれ以前に、もっと考えなければならない事があるような。
等と自分が組むかどうかを悩んでいると、何やら視線のようなものを感じる。
ふと視線を感じる方を見てみると、まるで小動物の如く愛らしいカルルの視線が自分に注がれていた。その黒く濁りのない瞳は、まさに無言の訴え。目には見えないが、キラキラした星々が飛来しているかのようだ。
この真っ直ぐな瞳を目にすると、もはや誘いを断る気は起きなくなっていた。いやむしろ、こんな瞳を向けられて断れるものだろうか。
「こんな自分で良いのなら、喜んで」
「お! ってことはオイラとパーティー組んでくれるのか」
「これからよろしくね、カルル」
差し出した右手をカルルは両手で確りと握り返すと、固く握手を交わす。
因みに、カルルの手は、その見た目通りと言うべきか弾力がある柔らかく、まるで肉球のような感じがした。
「それじゃ、オイラとショウイチのパーティー結成を祝してパーッとやろう!」
カルルの発言に、何故かデジャブを感じずにはいられなかった。
「んぐんぐ、ウマウマ」
美味しそうな食べっぷりと共に、幸せそうなカルルの表情が先ほどから零れている。
その手には、赤く熟した美味しそうなリンゴが持たれており、丸かじりする度に果汁が少し飛び散る。
「カルルはリンゴが大好きなのか? さっきからリンゴの料理ばかり食べてるけど」
「うん、オイラリンゴ大好きなんだ! リンゴさえあればオイラ大満足さ!」
飲食スペースの一角、テーブルの上に置かれているのは生のリンゴにリンゴのジュース、それにリンゴのケーキにリンゴのパンと。まさにリンゴ尽くし。
そんなリンゴ尽くしの数々は、全てカルルの注文したものだ。量こそ多いが単価はそこまで高くないので、修行をし直しに行った何処かの誰かさんのように悪夢を見る事は無さそうだ。
一方の自分はと言えば、先に昼食を食べていた為、リンゴのジュースで喉を潤す程度で抑えている。
「所でカルル。パーティーを組んだのはいいけど、カルルは今までどんな依頼を受けてきたんだ?」
高級志向の大食い女王、もといフィルとのパーティーでは主に経験豊富なフィルに任せ依頼を受けてきた。無論、経験もさることながら実績があるので依頼の選択幅が広がると言う事もあるのだが。
しかし、実力どころか経験も豊富かどうかも分からないカルルとでは、一体どの程度の依頼を受けるのが妥当かが判断しづらい。
なので、カルルの実力等を図る意味でも依頼の履歴などを知る必要がある。
「んっとね、お婆さんの買い物を手伝ったりお店の手伝いをしたり……」
カルルの口から出てくるのは、害獣駆除のがの字も出てこない依頼内容の数々。害獣の駆除や賊の退治等、命の危険を伴う以来の数々とはどうやら無縁だったようだ。
「害獣駆除、とかはしてこなかったのか?」
「ん、オイラ、そういうのはあまり得意じゃないから……」
剣を腰に差していたとはいえ、どうやらそれは脅しか或いは単に備えていただけか。何れにせよ、ちゃんとした用途ではあまり使ってはこなかったようだ。
しかし、命の危機が少ない依頼はその対価としての旨味は少ない。
命の危機が蔓延しているこの世の中、そんな世の中で命を懸ける職にありながら安全地帯で働くと言う事は当然ながら、稼ぎは多くないと言う事を意味している。
一人で生きていくにはそれでもいいかもしれない。だが、パーティーとしてはそれでは困る。この業界で富と名声を得る為には、命のやり取りを伴う依頼を受けていかなければならない。
「なら、何かカルルの得意な事はあるか?」
カルルは暫く考え込むように手に持ったリンゴを見つめると、やがて答えが出たのか質問に答え始めた。
「害獣の臭いを感じて見つけるのは得意だ。そうやって危険を回避してきたからな」
トカゲやヤモリのような外見とは裏腹に、犬のような嗅覚を持っていると言う事か。
改めて思うが、やはりこっち(エルガルド)は前世のあらゆる常識というものが通じないのだな。
「害獣を見つけるのが得意か……。なら、害獣駆除の時に役立ちそうだな」
「でも、オイラ見つけるのは得意でも駆除の方は……」
「大丈夫、カルルは見つけてくれるだけでいいから。駆除の方は、自分が何とかするよ」
誰だって得意不得意はある、戦いが得意な者もいれば不得意な者もいる。けど、人には誰だって一つは優れたものを持っている。なら、それを生かしてやればいい。
一人では難しくとも、パーティーならそれは出来る。捜索が得意なら、その点を生かすよう役割分担すればいい。そうすれば、パーティーとしても困る事はないだろう。
無理に戦力として剣を振るう必要はないし、カルルが戦力として役に立ちたいとその気になってくれれば、ゆっくりと時間をかけていけばいい。
「ショウイチは、優しいんだな」
「ん? そうかな」
役割分担も決まった頃、カルルの止まっていた手は再び動き出し。沈んでいた表情は再び至福のものへと変わっていた。
パーティー結成を祝した楽しい時間が終わり、次に待っていたのはお会計と言う厳しい現実であった。
とは言え、やはり思っていた通りと言うか、単価がそこまで高くはなかったので提示された金額もあまり高いものではなかった。
この優しさ、今頃くしゃみでもしているであろう、お財布にとっては悪魔どころか死神のような存在であった何処かの誰かさんにも見習ってほしい。
もっとも、カルルの場合は優しいと言うより自然とそうなったと言った方が正しいか。どちらにせよ、お財布に優しいのは助かる。
「さてと、この後何か予定はあるかカルル?」
「ん? 特にないけど」
お会計を済ませゆったりとしながらも、この後の行動についての話し合いを始める。
「なら、ちょっと依頼をこなしに行かないか? 勿論、お手伝いとかじゃなくて害獣駆除の方だけど」
害獣駆除という言葉に、カルルの顔色が曇る。しかし、先ほども言ったようにカルルには実際に戦う訳ではなくサポートに徹してほしいと説明する。
「大丈夫、危なくなったらちゃんと逃げるし。失敗しても問題ないさ、経験を積むことが大事だから」
「うん、分かった」
「よし、それじゃパーティー初仕事と行きますか」
「オッケー!」
予定も決まり飲食スペースを後にすると、依頼内容提示の前へと赴く。害獣駆除と言ってもなるべく危険の少ない簡単なものを選ぶ。
そして選択したのは、下級スライム種の討伐というまさにうってつけとも言える依頼であった。
受付カウンターで手際よく手続きを済ませると、討伐地点目指してギルドを後にした。
パーティーとしての門出を祝うかのように、空には頭上に昇った太陽が燦々と輝いていた。




