遺跡 その5
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「いや~、まさか最後の最後であんな仕掛けがあるなんて。油断してたよ」
暁色に染まったカユーイ遺跡。そんなカユーイ遺跡の近くで、自分達は走り付かれた体を休めていた。特に自分は、体力の残っていない体に鞭打ち走った為、今は見事に倒れている。
幸い、あのアンデッド系の団体さんは遺跡の外までは追いかけて来なかったので、こうして休息を取る事が出来ている。
「箱を取った瞬間にトラップみたく現れるんだもん。参っちゃうよ、あはは」
おどけながらあの状況を語るフィル、その手には小さな木箱を大事そうに抱えている。
彼女の話と状況から察するに、どうやらあの木箱の中に今回の依頼の最終目的である『黄金のナイフ』が入っているのだろう。
「……出来れば、今度からはもっと分かり易い、状況説明をしてほしいけど」
「え、分かり易かったでしょ。違った?」
確かに分かり易いといえば分かり易いが、言い換えれば言葉足らずとも言えた。
ま、今後付き合いが長くなれば何となく相手の意図が分かるようにはなるかも知れないが、それまでは何かと苦労しそうだ。
今回みたいな事が今後も続くかもしれない。そう思うと、疲れと共に色々なものが吐き出されるようにため息が漏れた。
「そんな不安そうな顔しないでよ、これからは考えて言うからさ。それより、暗くなる前に村に戻ろう」
立ち上がり帰り支度を始めるフィル。一方の自分も、彼女の言葉を信じて今後に期待しつつ、起き上がると同じく帰り支度を始める。
そして、互いに仕度が終わると夜が訪れる前にモーリー村へと到着する為に出発する。
少し歩いたところで、徐々にその姿を小さくさせるカユーイ遺跡を今一度眺めると、様々な経験を積ませてくれたこの場所を目に焼き付けそして再び歩きはじめる。
暁色に染まった大地を歩きモーリー村へと到着した頃には、既に村は夜の闇に染まっていた。
「かんぱーい!」
宿屋に戻り一度荷物を整理し終えた後、丁度いい時間帯と言う事もあってウォーカの酒場へと足を運んだ。
そして現在、依頼の達成を祝してちょっとした食事会が行われていた。と言っても王都のギルドに戻って手続きをし終えるまでは達成ではないのだが、既にフィルの中では達成も同然らしい。
「いや~。偶然があったとは言え、こんなに早く終わるとは思ってもいなかったわ」
「そうだね」
ジョッキを片手に今回の依頼の達成速度に驚きを隠せないフィル。曰く、彼女のトレジャーハンター歴の中でも一二を争う攻略の速さだったようだ。
そんな速さの秘訣が、今まさに自分のポーチの中にあると彼女が知ったら一体どんな反応を示すだろうか。泣いて喜ぶだろうか、いやそれとも、案外情報だけで何とかなる訳でもないのでそこまで喜ばないかも知れない。
どちらにせよ、あれ(自称万能携帯端末)の存在は大っぴらにする気は無いので、残念ながら彼女の反応は見られないのだが。
「ところで、今日一日で目的の物を手に入れた訳だけど、この後はどんな予定を?」
何日程度を目安に今回の依頼に臨んだのかは分からないが、少なくとも大幅な予定短縮になったのは事実だろう。
依頼の期限も特に設定されていなかったし、となると余った日数をどう消化するのか。
「ん~そうね。モーリー村で一泊って言うのも悪くないとは思うけど、やっぱりとっとと王都に戻って手続きを済ませた方が良いかもね」
肉の塊を頬張りながら、フィルは今後の予定について話を進めた。
結局、無駄に滞在してしまうより早くこの件を片付けて新しい依頼を見つける事となった。明日の朝一の駅馬車で王都へと戻る事も決定した。
「さぁ。予定も決まったし、食べまくるわよ!」
因みに、今回の食事会は一応割り勘と言う事にはなっているが。何故かフィルは先ほどから単価の高いものを頼んでいるような気がしてならない。
いや、割り勘だから割り勘だからと、自分に言い聞かせてはいたのだが。その後の会計時に悪夢を見たのは、また別のお話。
天国と地獄を一度に味わったあの夜から一夜明けた翌朝、宿屋をチェックアウトすると予定通り朝一の駅馬車で王都への帰路に付いた。
行きと同じく駅馬車に長時間揺られ、臀部の痛みに耐えながら王都に到着した頃には、暁に染まった大地に太陽が沈みかけていた。
たった数日しか離れていない筈なのに、数日ぶりに目にする王都内の光景は、まさに別世界に思えた。まさにモーリー村とは比べるまでもなく賑わい、明るさに満ちている。
「どうしたのショウイチ、早く行こ」
「あ、あぁ」
ステーションから目的地であるギルドへと足を運び、依頼の手続きを進める。
自分一人の時とは格段に違う報酬を受け取ると、ギルドを後にすることなく分け前の作業の為に飲食スペースへと足を運ぶ。
「さてショウイチ、それじゃアタシとショウイチの今回の報酬の取り分についてだけど」
「うん」
「アタシが六割、ショウイチが四割って事でいいよね」
提案、なんてものじゃない。フィルから出た言葉は既に決定事項としてのものであった。
何故均等ではないのか、その理由を尋ねると彼女から返答が返ってくる。
「だって、ショウイチにはスライムの核とか、色々と遺跡内から持ち帰ってきた分があるでしょ。対してアタシは必要最低限しかなんだから、その分報酬を多めに貰う権利はあると思うんだけど」
返す言葉もなかった。確かに自分は色々と持ち帰って来た分がある、そして後でそれらを換金しようとも考えていた。
更には二人で成し遂げたのだから当然報酬も折半が基本だろうと、そんな考えすらあったのも事実だ。
結局、うまく言いくるめられた様な気がしないでもないが。交渉らしい交渉もなく、フィルの提案、もとい決定事項がそのまま通り、無事に報酬の配分は滞りなく終わる。
そしてここに、自分達のパーティー初仕事は終わりを告げた。
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