遺跡 その3
視線を動かし、小声で何やら専門的な用語も交え独り言のように言葉を漏らしながら、フィルが一心に扉を調べ始めてからどれ位の時間が経過しただろうか。
最初の頃こそ、新手の害獣が現れるのではと警戒してはいたが。今では心配するだけ無駄なのではと思うほど何も現れる気配がない。
こうなると、自分としては完全に手持無沙汰となってしまっている。
フィルの手伝いでもできればいいのだろうが、手伝える雰囲気でもないし。そもそも専門知識を持たぬ自分では逆に足手まといになる可能性もある。なら、静かに見守るのが最善の選択だ。
とは言え、やはり何もやる事が無いのは退屈で仕方がない。現に今も、床に転がっている座れて丁度いい大きさの石に腰を下ろして何もせずに景色を楽しんでいる。
「はぁ……」
退屈過ぎて漏れた溜息。自分一人で受けた仕事なら自分の都合で切り上げられるが、パーティーでとなるとそうはいかない。更に言えば、仕事の内容も専門的な部分を含んでいるだけに尚更だ。
このような時間が今日に限らず明日以降も続くかもしれないと思うと、また溜息が出そうになる。
「あ、そうだ」
しかし、次の溜息が出る事はなかった。何故なら、丁度いい暇つぶしの道具の存在を思い出したからだ。
だが、それを取り出す前にフィルの動向を確認しておかなければならない。何故なら、それの存在が世に広まればどの様な結果になるかが想像できないからだ。
視線を動かしフィルの動向を確認する。先ほどと同様に扉の前から動こうとせず、まさに張り付いたままだ。これなら大丈夫だろう。
腰のポーチからそれを取り出すと、静かに起動させる。
ゲームで暇を潰すのもいいが、ゲームをクリアして今泊まっている部屋に謎の木箱が送られてくるなんて事態になっても困る。フィルに見つかればどんないい訳をすればいいのやら。
となると、他の機能で時間を潰せそうなものを探すしかないが、適していそうな機能は殆どない。
そして考えた結果、エルガルド大百科でこのカユーイ遺跡に関する情報でも見てみよう。そんな結論に至った。
検索欄にカユーイ遺跡の名を入力すると、カユーイ遺跡に関する情報の数々が瞬く間に画面に収まりきらない程表示される。
多分、いや間違いなく、歴史学者等が目にすれば泣いて喜ぶほどじゃないかと思われるこの遺跡の誕生から今現在に至るまでの事細かな情報が記載されている。数十年前までは、このカユーイ遺跡は賊のアジトだったとか。
この遺跡の使用目的や、遺跡内で行われた祭事の数々等。専門家が見れば時間を惜しんでも見飽きる事はないであろう情報の数々。
だが、そんな専門的な知識も、まして知的好奇心もない自分としては、この数々の情報は然程心躍るには至っていない。豚に真珠とはまさにこのこと。
しかし、そんな自分にも興味を引く項目が画面を移動させていると現れた。それは、『必見、カユーイ遺跡大攻略』なる項目名が付けられたものだ。
「これ、信用できるのか」
声にこそ出さなかったが、それまでの項目とは明らかに一線を超すその項目名に、信憑性のほどが疑わしい。
とは言え、エルガルド大百科自体どのような方法で情報を集め編集した上で記載させているのか、それが一切わからない以上全てが信憑性が高いとは断言できないのだが。
「ま、見てみるか」
ふと横目でフィルの動向を確認するが、まるで時が止まっているかのように先ほどと変化はない。まだまだ時間がかかりそうだ。つまりは、まだまだ自分にとっては暇な時間が有り余っていると言う事だ。
となると、時間がある以上少し興味も湧いたので『必見、カユーイ遺跡大攻略』なる項目を覗いてみる事に。
そこには、なんとも分かり易くイラスト付きの解説が添えられた、まさしく攻略の名に相応しい記載が載せられていた。
「あ」
そんな記載のトップを飾っていたのは、なんと現在フィルが熱心に調べているあの扉であった。解説のイラストも、先ほど目にしたあの扉と瓜二つだ。
解説を読むに、あの扉を開くにはどうやらこの場所の何処かに隠されているスイッチを押さなければならないようだ。
とは言え、そのスイッチの隠し場所も丁寧にイラスト付きで記載されている。
視線を動かしイラストと合致する場所を探ると、一角にそれらしき場所を見つける。
再び視線を動かしフィルの動向を確認した後、未だにあの扉と睨めっこを続けていると確認するや、そっと腰を上げるとその場所に近づいていく。
その場所は一見すると周囲との変化も特になく、何か仕掛けが施されているようにはとても思えない場所であった。
「えっと……、この柱か?」
自称万能携帯端末を片手にイラストに描かれている一本の柱に目を止める。一見すると、これもまた何の変化もない柱に見える。
しかし、よく目を凝らすと柱の根元付近にあの扉に掘り込まれていた記号のようなものが彫り込まれていた。
「これだな」
解説では、この記号のようなものを押し込むと書いている。なので、書かれた通りに記号のようなものを中心に手で押し込んでみる。
すると、まるで記号のようなものの裏側が空洞になっているのか、力を加えると同時に奥へ奥へと押し込まれていく。
やがて、行き止まりまで押し込んだのか奥へと進まなくなる。刹那、突然後方からフィルの驚く声が聞こえてきた。
「ちょ、どうなってるの!」
慌てて彼女の方へと振り向くと、そこには先ほどまで開く気配すら無かったあの扉が微かな音を立て自動的に開いていく光景があった。
やがて完全に扉が開いたが、フィルは突然の事に呆気にとられている様子でその場から動こうとはしなかった。
しかし、やがて自分の視線に気づいたのか、突然こちらに振り向くと自分に向かって睨め始めた。
こちらも慌てて自称万能携帯端末を隠しつつも、一体なにが起こったのだろうかと白々しく装ってみる。
「ショウイチ!」
「は、はい」
物凄い剣幕と共にフィルが急ぎ足でこちらへと近づいてくる。その剣幕を前にして、自分は肩をビクつかせながらその場から一歩も動けずにいた。
程なくして彼女が自分の前に立ちはだかると、その勢いを殺す事無く言葉が飛んでくる。
「君、一体何したの?」
「な、何って?」
「だから、あの扉を開ける為の仕掛けに関しての事よ!」
彼女の鋭い視線が突き刺さり、その勢いにのまれ真実を口にしてしまいそうな気分さえ呼び起させる。
しかし、そんな気分を何とか抑え込むと、なるべく違和感の無いような嘘を吐いていく。
「えっと……。ひ、暇だったから少しぶらぶらしてたら、偶々あの扉と同じ記号みたいなものを見つけたんで触ってみらた……、ああなって」
目を泳がせながらそれらしい事を言ってみる。だが、彼女の表情を見るとあまり納得した感じには思えない。
まさか、嘘だとばれたのか。次なる一手を何にするか、頭の中でそんな思考がまわり始めた矢先、彼女の口から言葉が漏れ始めた。
「……そう」
それだけ。たった一言その言葉を漏らすと、彼女はそれ以上追及することも立ちはだかる事も止め、開いた扉の方へと向かう。
「何やってるのショウイチ、先に進むわよ」
そして振り向きざまに自分の名を呼ぶその表情には、先ほどまでの表情は何処へやらといつも通りの彼女の表情があった。
自分の嘘を納得したのかどうか、その真相は分からないままだが、一応彼女の態度を見るにある程度納得はしたのだろう。
彼女の声に応えるように、自分も開いた扉へと近づいていく。




