エリー、穿つ!
次話でこの章は終わります。
この土日、社員旅行に行って参ります。
ストック切れのため予約投稿もできません(泣)
次章開始は4月18日、12時を予定しています。
ご迷惑をおかけしますがよろしくお願いします。
評価いただけるとモチベーション上がります!
これからもよろしくお願いします。
トルク
「なんじゃ、あのボンクラも帰ってきておったのか。」
「はい。それでね、じぃじ。明日エリーと試合するの。」
「ほほう?」
「間違いなくエリーが勝つとは思いますけど‥‥」
「アーちゃんは心配かの?」
「はい‥‥ちょっとだけ。」
私とじぃじは只今訓練場に移動中です。
エリーとダカン父さまは先に行って準備してくれてます。
成り行きで決まったギュスターヴ家後継者争いですが、じぃじは何も口出ししませんでした。
「アーちゃんや。エリーは強い子じゃよ。ワシは良く知っとる。」
「それは私も分かってます。でも‥‥」
「じゃからこれから稽古をつけてやるのじゃろ?」
心の傷は時に思いもよらない症状を引き起こします。
エリーがカイル某と対峙した時にそれが、その時の記憶が甦って不覚をとらないとも限りません。
「はい!攻防一体の基本にして奥技を授けるつもりです!」
「ほほう?それはワシも興味深いぞい。」
「見取るなら構いませんよ?」
「がはははは!しっかりと見せてもらおうて!」
そんなこんなで訓練場に到着です。
訓練場の中央には既にエリーがスタンバってます。
「師匠、遅いです!」
「ごめんなしゃい。」
久々に噛みました。
「それでは始めましょうか。」
「よろしくお願いします。師匠!」
私とエリーは木剣を構えます。
「エリー、斬撃でも刺突でもかまいません。打ってきて下さい。」
「いきます!」
カン‥‥
「え?‥‥」
「ほら、もう一度。」
「はい!」
カカン‥‥
「す、凄い!」
「この剣技は攻防一体。基本にして奥義です。今度は私が攻撃しますので実践してみましょう。」
遠巻きに見ていたダカン父さまとじぃじですが‥‥
「なんじゃぁあああ?あの技わあ!!」
「ア、アウラ!またなんという技を‥‥」
ちょっと外野がうるさいですけど訓練を続けましょう。
「エリー、行きますよ?最初はゆっくりです。慣れたら身体強化(改)でいきますからね?」
「はい!」
それから私とエリーは日が暮れるまで木剣を振るうのでした。
********
明けて早朝ー
試合が開始されます。
カイル某は何やら自信満々のご様子。
自分が負けると一切思っていないようです。
「おはようさん、アーちゃん。」
「じぃじ、おはようございます!」
ここに居るのは審判役のダカン父さま、エリーとカイル某。それにじぃじと私です。
「さて、あのボンクラめ。頭はからきしじゃが剣の腕前だけは中々のもんじゃったからの。何をしてくるやら。」
「じぃじ!エリーはあんなオシッコちびりには負けませんよ?」
「オシッコちびり?」
「はい。私がちょっと殺気を飛ばしたらそりゃもうジョビジョバと!」
「がーはっはっは!そうか、漏らしおったか!がーはっはっは!」
「プークスクスですよ!」
「そこ!うるさいぞ!ボクは漏らしてなんかいない!!ってお祖父さま?」
「えー?びちょびちょだったですよ?」
「がーはっはっは!」
カイル某が赤い顔でプルプルしてます。
おそらくエリーに対して精神的に攻めてくる筈なので援護射撃です!
「‥‥ぶふっ。」
エリーが必死に笑いを堪えています!
ダカン父さまも手の甲をつねって耐えています!
「っ!この、ボクをコケにしてただでは済まないからな!」
カイル某が木剣を私に向けて威嚇してきます。
「ほう、ワシのマブダチに手を出すか。よかろう!戦争じゃ!!」
「ひぃ!」
じぃじ、殺気を飛ばしたらダメですよ?
これ以上はイジメです。イジメよくない。
「おほん!では試合を始める。両者構えて!」
ダカン父さまの号令が入ります。
カイル某、何ですかその構えは。王都で流行ってるんですかね?
チャラいです。
対するエリーは正眼の構え。
うん、落ち着けていますね。
「始め!」
「うおおおお!」
開始の合図とともにカイル某が突っ込みます。
木剣を持った手を背中に隠す様にしてます。
へぇ、結構速いかな。
カイル某はエリーとの間合いに入るとその場で1回転して大振りの一撃を放ちました。
何の意味が?不明です。
「恰好ばかりで実がないのう。」
「戦場なら即死ですね‥‥」
じぃじと私の辛口解説が入ります。
当然空振り。
エリーにそんな攻撃、当たるわけないでしょ?
「くっ!上手く避けたな。なら次は‥‥」
カイル某が言い切る前にエリーの攻撃です。
正眼の構えからの突き。
間合いを広くするための牽制ですね。
「うわぁ!あ、危なかった!」
え?それ当てる気のない捨て技ですよ?
「ふむ。エリーの切れは良いのう。速さも申し分ない。」
「じぃじ?まだまだです。もっと速くなりますよ?」
「なんと!おお、アレじゃな。昨日の光るヤツ!」
「はい。」
「クソ!残念騎士のくせに!」
エリーが一瞬硬直します。いけません!
「はは!もらったぁ!!」
ガン!
なんとか受け止めて難を逃れたエリー。
しっかり!頑張って!
「ボクが領主になったらあのはぐれみたいな奴らはみんな追放してやる!だってそうだろ?残念騎士もはぐれもただの役立たずなんだから!」
一撃、二撃とカイル某の連続攻撃。
エリーは‥‥
避けない?
「‥‥そんな事させない。」
ビシッ!
打ち込んだカイル某の木剣が弾かれます。
「じぃじ見えましたか?」
「うむ。アーちゃんがワシに当てた『纏』じゃな。エリーはそれを木剣でやったか。」
「正解です!」
エリーは高速でカイル某の剣戟を『纏』を木剣に伝えて弾きました。
あれ?エリーの様子がおかしいです。
「あー、エリーめ。ブチ切れおったか。」
「え?エリー怒ってるの?」
本当だ。エリーの綺麗なお顔がとても冷ややかです。
目が目が据わってます!
「くっくそぉおおお!!」
カイル某の攻撃は全てエリーに弾かれます。
エリーはその場を一歩も動いていません。
「こ、こうなったらこっちも奥の手だ!はあああ‥‥」
カイル某が刺突に構えて魔力を高めています。
おそらく一撃に魔力を込めて突きを放つつもりです。
エリーは正眼の構えから動きません。
正解です。
エリー、決めますよ!
「お祖父さまが見てるんだ、負けられない!!これで!終わりだぁあああ!!‥‥ぐほぉ!」
「勝負あり!勝者エリザベート!!」
渾身のカイル某が放った突きは中々のものでした。
来ると分かっていても対処できる人はそう多くないくらいに。
放たれた突きがエリーに届く瞬間ー
エリーはカイル某の突きを木剣で打ち下ろすと同時にカイル某の右胸に突きを入れました。
北辰一刀流 『切り落とし』。
本来は『刀』と呼ばれる片刃の剣技です。
カイル某の渾身の一撃をいなしてカウンターを入れた形です。
おそらくは肋骨を数本砕いているでしょう。
エリーが手加減していなければ木剣は某の右胸を貫いていた事でしょう。
これにてギュスターヴ家、家督争いは幕を閉じるのでありました。




