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5 アリスリデア――出会い(1)

すみません。

一話で終わらせようとしたら終わりませんでした。


 物心付いた頃には、自分が異質な存在であるということに、既に気が付いていた。

 

 小道で会う人々は、俺を見ると悲鳴をあげて逃げ出したり、ギョッとしたように早足で通り過ぎていく。


 もちろん友人は一人もできなかったが、それでも、母親と共にひっそりと隠れて暮らす日々は、とても幸せだった。母は優しい人で、俺の見た目のせいで苦労しているのに、愚痴ひとつ零さず、必死に育ててくれた。

 

 しかし、俺が十ニ歳になって間もない夜、街の奴らは俺らの小屋を見つけ、火を点けた。そして火に驚いて逃げ出してきた俺たちを殺そうとした。


 なぜ、どうしてなんだ。俺は、自分がここまで忌み嫌われる存在だとは考えていなかった。

 足をもつれさせながら、母と共に逃げる。けれどもう若くない母はだんだん息切れをしていく。暫くしたところで、ぐい、と俺を物陰に連れ込むと、母はいつになく真剣な目で言った。


 「いい。母さんは奴らを引き止めるわ。そのうちにお前は逃げなさい」


 いやだ、という声は出せなかった。母の、俺だけでも生き延びて欲しいという思いが痛いほど伝わって来たからだ。こくん、と頷くと、母は微笑んで、おれをそっと抱きしめる。


 「いい子ね、母さんはいつでもお前を見守っているわ。――ゲラウス街のロドックという男を訪ねなさい。きっと力になってくれるわ」


 そう言って額に軽くキスをし、「――さぁ、もう行きなさい」と俺を押し出した。


 無我夢中で走りながら、俺は後ろに母の叫び声を聞いたような気がした。

 



 それからロドックのところまでたどり着くまで、俺は様々なことをしてきた。生きるためならなんだってした。


 強盗、詐欺、恐喝、身体で稼いだりもした。

 皮肉なことに、裏社会で生き延びるための力はあっさりと手に入った。向かって来る者を死に物狂いで倒していたらいつの間にか強くなっていた。いつしか俺の噂は広まり、暗殺、殺人、など、ほの暗い仕事が山ほど入ってきた。

 女も寄ってくるようになった。香水臭くて、気持ち悪い声で媚を売ってくる女など吐き気がしたが、金や情報のために抱いた。

 

 金、力。もし俺があの時に持っていれば…何か変わったのかもしれない。

 今更言っても意味のないこと。しかしそれは俺の心に深くこびりついていた。


 そして日々を重ねるごとに、俺の心は麻痺していった。散々人の汚い面を見てきた。

 ずっと目標にしてきたロドックのところを訪ねるのも、やめにした。どうせ、そいつだってここの奴らと一緒で、薄汚い、金と力のことしか考えていないのだろう。


 何を見ても笑えない。何も感じない。ただ任された仕事をするだけ。

 そんな日々が続いていた。





 自分の身体の異変に気が付いたのは、そんな生活を続けて七年目の春。

 

 ふとした瞬間に、何気ないことで、無性に暴力を振るいたくなるのだ。

 それだけではない。人の首筋を見ると、そこにかぶりつきたくなる。


 ――おかしい。


 どう考えてもこの思考は異常だった。強い支配欲。殺戮がしたい。

 

 それは、日を追う度に強くなっていった。ふと気を抜くと、そこで意識が途絶え、気づいたときには血まみれの中で笑っていた、ということも多くなった。

 おまけに、それに比例するように、身体の自由が利かなくなっていった。

 

 物を取ろうとしてもつかめない、人を殴ろうとしても、力が入らない。


 このままではここで死ぬ。漠然とそう感じた。


 「…嫌だ」


 そんなのは嫌だった。

 生き延びて、母のあの言葉は、いつしか俺の心を強い強迫観念で縛り付けていた。


 ――ここで死んだらいけない。俺は生きないといけない。死ねない死ねないんだ――。

 

俺は決心した。唯一俺が生き延びれるかもしれない可能性を信じて――。


 「…ゲラウス街へ…ロドックのところへ行こう」


 



 今まで築いてきたものを捨て、何度も死にそうになりながらも、俺はやっとの思いでロドックを訪ねた。


 初めて見たその男は、燃えるような赤髪をしていた。事情を話すと、すぐに理解し、俺を店に招き入れてくれた。


 この薄汚れた街の中でも、この男の店だけは格別だとすぐさま分かった。この店なら、俺がここに来た原因も、解決できるだろう。そう期待を込めて男の話を聞く。


 「少女の生き血を週に一度ほど飲めば収まる」


 ――あっけなかった。

 俺が必死に旅をして、死にかけながらここにたどり着いたのに、そんなに容易に解決できるなど…。今まで忘れていた例の症状が、思い出したかのように訴えかけてくる。――コロセ。ナニモカモコワシテシマエ。


 「――ふむ。もうすぐ染まり切るところだったようだな」


 冷静に俺を見て分析する奴が憎い。――イイジャナイカ。コロセバ。頭の中で声が木霊する。

 奴を睨んでいると、その男は奥から何かを持ってきて、「ちょっとごめんな」と言いながら、いきなり俺の首にそれを填めた。


 「――っ!何を…っぁ!?」


 いきり立ち男の胸ぐらを掴もうとするが、いきなり襲ってくる激痛に身を強ばらせる。


 「わるいな。そのままいられると、俺の身が危ないと思った、許せ」


 そんな声がぼんやりと聞こえてくる。意識が遠のきそうなのを必死に堪え、奴の声に耳を澄ませる。


 「詳しい事情は起きてから説明してやるが、お前は奴隷になった」


 その言葉の意味も既に考えられず、俺は闇へと落ちていった。




 「…おい、…きろ」

 

 そんな声で目を覚ます。

 ぼやけた視界の中には赤髪の男。

 その途端瞬時に記憶が戻り、意識が覚醒する。


 「…おまっ…っぅ!?」


 いきなり起き上がろうとしたのが悪かったのか、身体中が痛みを訴える。

 

 「そのまま動くな。まだ完全に自由になってないはずだ」


 平然と言う男に、例の怒りが募っていく。


 「……?」

 

 怒りを全然感じない。不思議に思っていたのが分かったのか、男はニヤリと笑った。


 「今から説明してやるよ」


 そう言って俺にしたことを淡々と述べていく男。

 

 まず俺は奴隷になったらしい。

 俺の力の暴走は魔族の血のもので、そのままにしていればあと少しで死んでいたという。それを一時的にでも抑えるには、どうしても奴隷にするしかなかったらしい。

 この首に繋がれた首輪――隷属の首輪というらしい――が止めてくれている。その間に主を見繕い、血の提供者にするのだそうだ。


 そんなもの、誰が買ってくれるのか。

 未だに不安定な足場に不安を募らせているのが分かったのか、ロドックはニカッと笑って、「大丈夫だ、それなら適任がいる」と自信有り気に言った。


 とりあえず――生きている。

 大体の説明が終わり、男――ロドックが出て行ったところで、やっと感覚が戻ってきた。


 生きているんだ。

 生きていられるのなら、奴隷でもなんでも構わない。主に不服な命令をされても喜んで受け入れよう。生きていられるのだから。



 ロドックの言っていた俺の運命を握る少女が現れたのは、その日の翌日だった。




 


 

眠気の中急いで書き上げたのでいろいろおかしいかもしれません。

ごめんなさい><

少し気に入らないのであとで修正入れるかもです。

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