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 「ではまず、言の葉を交わそうぞ」


 声は低く。ゆったりと。強弱と余韻は必ず。相手を凝視するのも忘れずに。


 できるだけ威厳を持って言う。人間関係は、何事も最初が大事なのである。そうロドックが言っていた気がする。昔の学者も、人とは力に群がる虫なり、と言っている。そう、人は第一印象が駄目ならば、その後巻き返すのはとても困難なのだ。しかし最初から相手の反応に気をつけて言葉を選べば、印象操作など容易なのである、理論上。

 

 ここではっきり言おう。

 

 私は対人交流が苦手だ。


 

 ロドック曰く”こみゅ障”らしい。


 意味はよく分からないが、「お前は必要な時以外ぜってぇ人と話すな、いいか、ぜってぇだぞ」、と言われている。それ以来、ロドックやあの店の仲間としかまともに口をきいたことはない。

 あまり自慢できないものであることは、奴のかわいそうなものを見るような目つきで瞬時に分かった。


 なんでも引きこもりと変態とこみゅ障がセットになると「物凄ぇ」らしい。

 …何が「物凄ぇ」のか全く分からなかったが。


 この現状が奴の所為なのは間違いない。私はそれ以来人との話し方を忘れてしまったのだから。

 あらためてこのように会話をしようとすると、途端にやり方が分からなくなる。


 もう一度言う。あいつが悪いのだ。


 それはともかく、今私はとてつもなく必死なのだ。

 私をこの状況に追い込んだロドック。しかし奴が人付き合いに長けているのは確かなので、ここは最大限に利用させてもらおう。


 まずは、私が主だという威厳と力を見せる。ふむ、それを先程の発言で表したのだが、どうだろうか。


 ちらりとアリスリデアを見ると、珍しいことに少し眉間に皺を寄せていた。

 ――これは成功ではないか?


 おそらく彼は私の恐ろしさと威厳に圧されたのだろう。やはりロドックは役に立った。


 ふふん、と笑って、余裕があることを見せつける。

 

 「どうした?今後共に暮らすのだ。誼を結ぼうとするのは当然だろう?…それとも、お前は私に逆らうつもりか?」

 

 …決まった。


 「…いえ。有難く」


 もういいだろうか。少年も十分に私の恐ろしさを体感しただろう。

 それにこれはこれで少し疲れるのだ。


 そう決めて、部屋の真ん中あたりにある、ここの森から採ったカシアのテーブルに着く。

 すべすべしていて、とても安心する。


 「……」

 「どうした、早く座れ」

 「…はあ」


 まだ萎縮しているのか。そんなに私は素晴らしかったか。もう通常の態度に戻してしまったのだが、まだ続けたほうが良かっただろうか。


 そう考えている間に、アリスリデアは私の目の前に座っていた。

 む。折角やってやろうかと思っていたのに。

 

 次の機会の楽しみにすることにして、話を切り出す。

 やると決めたことはきっちりとやらねばなるまい。


 口を開いたところで、自分が未だ外套を着けていたことを思い出す。どうもこれは着心地が良すぎていけない。恐らくロドックのところでも脱いではいなかった。


 またやってしまっていたか、と思いながらバサリと分厚い外套を脱ぎ、魔術でクローゼットへと飛ばす。

 やはり魔術は便利だ。

 

 ついでに茶でも沸かそうとキッチンへ魔術をとばしたところで、目の前の少年が固まっていることに気付いた。


 「…なんだ?どうした」

 「……っ」


 アリスリデアは、その漆黒の目をあらん限りに見開き私を凝視していた。

 

 こんな表情もできるのか、それにしても失礼だな。

 流石に何十秒も見られるとムッとしてくる。


 少し刺をもってアリスリデアに声をかける。


 「おい、いつまで見ているつもりだ。そんなに私が面白いか」


 少年はその声ではっ、と我にかえったように瞬きをして「…すみません」と呟いた。それきり下を向いている。


 なんなんだ、本当に。

 そう思いながらも、主として、確認せねばならんことは山ほどある。


 気まずい空気を無理矢理流すように、髪をバサっと後ろに払いのける。少年の注目がいつの間にかこちらに移っているのを確認して、宣言する。


 「では、話し合いを始める」


 …威厳を出したのだが、伝わっただろうか。



 

 「まず、私の名前はオリヴァー。幼少期に師匠に拾われて、それ以来ここに住んでいる。職業は魔術士だ。お前の主になる。これからよろしく頼むぞ」


 ふぅ。長く話すのも苦手だ。

 私の自己紹介を受け、アリスリデアも口を開く。


 「俺…わたしはアリスリデアといいます。……精一杯働くので、これからどうぞ、よろしくお願いします」


 実に簡潔にそう言って頭を下げるアリスリデア。

 その様子を見ながら、ふと思ったことを口に出す。


 「アリスリデア。敬語は使わなくて良いぞ。私のこともオリヴァーで良い」


 それを聞いて、驚いたようにこちらを見る少年に続けて言う。


 「これから共に暮らすのだ。いつまでも他人行儀でいられても困る」

 「…良いのですか」


 まだ確認してくるアリスリデアに軽く頷く。


 「良いと言っている」

 

 未だ驚いたような顔をしながらも「…わかった、……オリヴァー」と言うアリスリデアに満足し、その話は終わりにする。


 やはり、いつも顔を合わせるのだから、砕けた仲のほうがやりやすいだろう。別に少年を虐げようとする訳ではないのだから。


 

 それからの話し合いは思いのほかスムーズに進んだ。

 互いに自由に意見を言える環境だったのが良かったのだろう。


 血は一週間に一度、与えるということ。

 私の仕事を手伝うということ。

 外界にでるときは、私と一緒にいること。

 その時は私の魔術で髪と目の色を変えてやること。

 

 多くのことを話し合った。また、剣をやりたいと言っていた。ひとりでいた時に、少し齧っていたとのことで、今度ロドックあたりに頼んでみようと思う。


 「…私はお前にやりたいことがあればできる限り叶えてやろうと思っている。頼れよ」

 「…分かった。ありがとう」


 最初に比べ随分と打ち解けた。

 これもロドックの対人マニュアルのおかげなのだろうか。だったら感謝しないとな。


 アリスリデアは奴隷だが、それでも自分を忘れない心の強さがあると思う。


 そういう奴が私は好きだ。


 

 

 

 


打ち解けたようでよかったです。

次回あたりでアリス視点も入れたいですね(汗)


ありがとうございました。 


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