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愚かな妹よ、身代わりにお見合いさせてくれてありがとう。素敵な人に巡り合えた上に侯爵夫人になれるようです。【連載版】  作者: 有郷 葉


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8 レイチェル、毒を飲む


 二度目の旅立ちの前に、私は兎車の扉に鍵を取り付けてもらった。少し時間は要したけど、これで勝手に扉が開いてウルギトスが侵入してくることは防げる。

 さらに、車の天井にも出入り可能な扉を取り付けてもらった。かなり時間は要したけど、これでウルギトスが侵入してきてももう一つの扉から逃げられる。身体能力的に私があの魔獣から逃げられるかどうかはまあ別問題として。


「上から外を眺められるし、ナイスアイデアでしょ」


 と私は備え付けの梯子を上がって天井の扉を開けた。

 現在、この兎車が高速で走行中であることを思い出したのは頭を出した後だった。猛烈な風が容赦なく私の顔面に吹きつける。


 あわわわわ! まるでジェットコースターに乗ってるみたいだ!

 リーシェ! いくら何でも飛ばしすぎだよ!


(そうは言っても、あの森を迂回するとなると数倍の時間が掛かるので急がないと)


 実は、時間が戻ってから、セレーナとリーシェには私達が森でどんな目に遭うか話した。最終的には無数のウルギトスに囲まれること。そして、その戦闘の中で私が命を落とすこと。

 もちろん、これに先立って私が異世界からの転生者であり、時間を巻き戻す能力を持っているという秘密をリーシェにも話した。

 契約獣は最初は半信半疑だったものの、やがて理解して信じてくれた。外から嬉しそうな思念が届く。


(私との契約で得た能力がなければ時間は戻せませんでしたね。契約してよかったでしょ、ね?)


 ……本当に嬉しそうだな。はいはい、リーシェと契約したおかげで命拾いしたよ。

 やがて例の狼で溢れる森が見えてくるとリーシェはぽつりと。


(……私、セレーナの腕前が見たいのですが。ちょっとだけ中に入ってみませんか?)


 それなら前回しっかりと確認したから。貴族にしておくには惜しい腕前って言ってたでしょ。


(それ、言ったのは私じゃない私ですよ……。この私がそんな賛辞を贈るなんて相当じゃないですか。ちょっとだけ行きましょうよ)


 嫌だ、私はもう絶対にこの森には入らない。


 不吉な森への入場は断固として拒否し、その手前で一旦休憩をとることになった。

 セレーナがパンにハムを挟んだだけの食べ物を作ろうとしていたので、没収して私がきちんとしたサンドを作る。それから、肉食の契約獣にはハムを丸ごと投げ渡した。


「それにしてもすごいなレイチェル、まるで予知能力者だ……」

(一人だけ二度目ってちょっとずるいですね……)


 仲間達は羨ましそうな目で見てくるけど、はっきり言って私はあんな巻き戻りはごめんだった。実際には死ぬところまでは行かないにしても、それに等しい恐怖を味わうことになる。

 だったら、どうするべきか。答は単純だ。私も戦える力を身につければいい。


 とりあえず、どうやったら強くなれるか熟練の戦士である一人と一頭に尋ねてみた。

 お茶を飲みつつセレーナは微笑みを湛える。


「まずは魔力を鍛えることだな。馬車、じゃなくて、兎車の中ででもできるから今すぐ始めるといいぞ」

「なるほど、魔力か。ところで、魔力ってどんなの? 私にも備わっているの?」

「もちろん。これが魔力だから、レイチェルの中にある同じものを探してみろ」


 こう言ってセレーナは私の体に手を当ててきた。

 彼女の掌から、何だか温かい、力強いオーラが伝わってくる。

 おお、これが魔力か……。えーと、私の中のどこにあるのかな。…………。……あ、これかも、見つけた!

 私は内に潜んでいた魔力を引っ張り出し、セレーナと同じように手に纏わせた。


「そうそれだ! なかなか筋がいいぞ、レイチェル」

「それで、どうやってこの魔力を鍛えるの?」

「体の中でひたすらこねる感じだな。徐々にだけど大きくなってくる」

「ほうほう、確かにそれなら兎車の中ででもできそう」


 魔力というのは、体を覆うことで攻撃力や防御力を上げることができるらしい。また、魔法の源にもなるのでとにかく多いに越したことはないんだとか。

 じゃあ、ひたすら魔力をこねて増やせばいいんだね。


 出発した兎車は森に沿ってその外縁を走りはじめた。その車内で、私は魔力をこねてこねてひたすらこね続ける。

 いや、これ結構疲れるな……。……だけど、やれば強くなれるんだから頑張らないと。あんな恐ろしい目に遭うのは二度とごめんだから。せめて自力で逃げられるくらいには強くなりたい!


 ――かなり集中していたのか、いつの間にか窓の外には夕日が浮かんでいる。

 セレーナが私の体をじっと見つめながら。


「……あれ、たった半日でずいぶんと魔力増えてないか?」

「ほんとに? けど言われてみれば、最初より結構多くなった気がする」


 すると、車を引いているリーシェが思い出したように思念を送ってきた。


(そういえば、私達魔獣でもそうなんですけど、死線を乗り越えた者は魔力が強くなって大きくなりやすいと言いますね。きっと精神的な成長が影響しているのでしょう)


 ……うーん、恐ろしい目に遭いたくないから強くなるんだけど。

 しかし、私はまだ知らなかった。この願いとは裏腹に、これから私は何度も死線を乗り越えなければならないことを。



 私達の兎車は森に沿って走り続けた。二度の野営を経て迂回を終え、ようやく森の反対側に到達。これでも相当早い方で、普通の馬車ではもっと時間を要しただろう。

 別に急ぐ旅でもないんだけど、リーシェが飛ばしに飛ばしたんだよね。私も高速でガタガタ走る車にずいぶんと慣れ、ずっと車内で魔力をこねていた。

 魔力はそこそこ増えたように思うものの、私自身が強くなったかと問われれば、……よく分からない。


 ともかく、私達は難関の森を後にして目的の町、コルテシアに辿り着いた。

 コルテシアは私達が暮らしている王国の東の端に位置している。ここより東には小さな村々があるだけで、この町が王国東方の要衝だった。


 兎車が町に入ると、少しばかり周囲から注目を浴びた。引いているのが魔獣だし、車も並の装甲じゃないから仕方ないかも……。

 私達を見物する群衆から一人の女性が進み出て来る。


「お待ちしておりました、レイチェル様。私は侯爵家から遣わされた者です」

「え、それはご苦労様です。で、いったいどのような用件で?」


 私が車から降りると彼女は、「こちらをお渡しするように言われました」と大きな牛肉の塊を差し出してきた。これを見たリーシェの歓喜の声が私の頭の中に響く。


(それは私の大好物、サーロイン! いただいておきましょう!)


 ……即座に部位が分かるなんて、この兎、本当に肉が好きなんだな。

 契約獣に急かされて私は塊肉を受け取っていた。


 それにしても、出発してまだ三日目なのにもう差し入れなんて。私達が行くルートは旅立つ数日前から決めてあったので、あらかじめ手配しておいてくれたんだろう。

 このコルテシアには私の伯爵家が所有する空き家があるので、二人と一頭で牛肉を携えてそこに向かう。二日も野営したからまずはお風呂かな、と思っていたらリーシェが。


(まずは肉ですよ! 早く食べましょうよ!)


 どうやら大好物を我慢できないらしい。

 セレーナも呆れた様子で私の肩に手を乗せてきた。


「ここまで走りっぱなしだったし、ここはあいつを労わってやろう……。じゃ、肉を焼く準備をするぞ」


 それもそっか、私達は乗せてもらってた身だしね。しょうがない、バーベキューをするか。

 庭に火炎板(炎を発する魔法道具の板だよ)を設置する私を見て、リーシェは前脚で肉を指す。


(私は生のままで大丈夫ですので、先にこれを半分に切り分けてください)


 つまり半分はよこせと? まあ体の大きさからすれば妥当なのかな……。

 切り分けたサーロインをリーシェは鷲掴み。すぐに嬉々としてかぶりつきはじめた。それを横目に、私とセレーナも火炎板に鉄板を乗せて肉を焼く。

 焼けていく肉を見つめるセレーナの顔もちょっと嬉しそうだ。肉食兎ほどじゃないにしろ、彼女も結構好きなんだよね。


「体作りは騎士の基本だからな。お、もう食べられそうだぞ」

「まだ早いんじゃない? リーシェもセレーナも食いしんぼうだな。いつか食べ物で痛い目に遭っても知らないから」


 私の小言などどこ吹く風でセレーナは肉に塩をつけて口に運ぶ。


「もういけるよ、すごく美味しい。ほら、レイチェルも」

「そう? じゃあ、いただこうかな」


 と私が肉を一口食べたその時だった。

 ドタン! と大きな音をたてて突然リーシェが地面に倒れこむ。


 え、いったいどうしたの……? ……ちょっと、……ちょっと待って、これ……。

 契約者である私はすぐに違和感に気付いた。リーシェからは何の思念も伝わってこないのだから。こんなことは契約を結んでから初めてだった。


 ……リーシェ、死んで、る……?


 慌てて隣のセレーナの方を振り向いた瞬間、彼女も急に意識が飛んだようにその場に崩れた。


「セ! セレーナまで!」


 ま、まさか、死んだの……?

 ……どうしてこんなことが……、原因はいったい……、いや、原因は明らかに肉だ! そ、そ、そして……、私もその肉を食べてしまった――――!

 じゃあすぐに私も……!


 この予感を裏付けるように、一帯の時間がピタッと停止した。


 し、死の間際のあれが発動した! もう間違いない! 私も確実にもうすぐ死ぬ!

 そもそもどうしてこんな事態に! 私もセレーナも命を狙われる筋合いは全くないのに……。……あ、差し入れられたのはリーシェの大好物のサーロインだ。だったら狙われたのは裏社会のマッドラビットだよ! だから食べ物で痛い目に遭うって言ったでしょ!

 なんて考えてる場合じゃなかった!


 ……おそらくあの肉にはすごい猛毒が仕込まれていたはず。体の大きなリーシェが苦しみもせずに死んだから。

 私はいつ死ぬの……?

 時間が百倍に伸びているから少しは予兆がある……?

 も、もし、全然予兆がなかったら……?


 怖い怖い怖い怖いっ!

 狼の時と違ってタイムリミットが分からないから余計に怖いっ!

 はははははは早く時間戻って!


 …………。


 もももももも戻らない!

 どうして! エネルギーか! エネルギーが足りないのか! 私今かつてないほどに精神エネルギー放ってるって!


 ……ああ、……も、もう、助からないかも……。


 ……いや、諦めてたまるか! 私だけじゃなくセレーナとリーシェの命も懸かってるんだから!

 根性だ――――――――!


 キィィ――――――――……ン。







この旅、めちゃ死にかけます。

ところで、私は別の連載も書いていますので、よろしければお読みください。

『転生幼女、教団はじめました。』

あらすじ

[聖女として異世界の王国に転生した幼女ルーシャ。敵対派閥からは暗殺者を差し向けられ、味方からは兵器として利用されそうになったりと散々なので、出奔して自由に生きていくことに。ついでに救い出した神官達が勝手にルーシャを崇める教団を作ったことで賑やかな日常を送る。一方、聖女を失った王国は滅びの道を歩むのだった。]

こちらの小説も序盤から飛ばしているので楽しんでいただけると思います。

最初の数話だけでもぜひ。

四話までであらすじ部分は回収されます。

また、イラストレーター様によるキャラデザも小説の下に貼ってあります。

この下にリンクを設置しました。よろしければいらしてください。


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― 新着の感想 ―
サイヤ人サイクルも楽しみです(不謹慎 リーシェたん がんがえー
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