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第8話 王都行きの書状と別れの手

 ペンが動き出す。一文字、また一文字。言葉が列をなす。書斎の机で、コレットはペンを走らせていた。羊皮紙の上にインクが滲む。

 指先が震える。胸の奥で鼓動が早い。書くべき言葉が重い。

「ヴィルトヘイムの未来を、共に支えたい」

 一行書き上げ、彼女は息を詰めた。喉が乾く。婚約者という役割が肩を押す。

 窓の外から足音が聞こえる。彼女は反射的に背筋を伸ばした。玄関先で誰かがすれ違う。

 話し声がかすかに響く。エルメリクとリリィの声だ。婚約解消の話が風に乗る。

 コレットは羽根ペンを握りしめた。手のひらに汗がにじむ。自分の選択が正しかったか、疑問が頭をよぎる。

「私は、ここにいていいのだろうか」

 彼女は目を閉じた。アルヴィンの蒼い瞳を思い浮かべる。指輪が微かに温かい。

 再びペンを取る。震えは少し収まっていた。悪役令嬢の運命など、もう振り回されないと心に誓う。

「公務を学び、あなたの力になりたい」

 一字一字が決意を固めていく。不安はまだ胸の内に残るが、ペンは前に進む。

 玄関のドアが閉まる音がした。エルメリクたちが去っていく。

 コレットは最後の一文を書き終え、静かに息を吐いた。羊皮紙の上の言葉が、新たな一歩を告げている。気になる話し声が玄関先で響く。コレットは羽根ペンを握りしめた。


 彼女は耳を澄ます。エルメリクとリリィの声が遠ざかっていく。二人の婚約解消は、彼女の立場を揺るがす風だ。


「……公の場を、確認しなくては」


 コレットはペン先を下ろした。インクが羊皮紙に点を打つ。


 胸の内で心臓が速く打つ。悪役令嬢の結末が脳裏を掠める。しかし指輪の硬さがそれを退ける。


 彼女は手帳を開いた。ページをめくる音だけが書斎に響く。


「春の謁見。夏の慈善舞踏会」


 彼女は小声で呟き、ペンを走らせた。行事の名を列記する手に力が入る。


 窓から差す光が机を照らす。羊皮紙上の文字が彼女の決意を形にしていく。


「王太子妃として、同席を」


 書き上げた言葉を見つめ、コレットは一息ついた。喉が渇いている。


 玄関先の物音が完全に消えた。静寂が戻る。


 彼女は手紙を広げ直す。提案するスケジュールが、新たな生活の骨格となる。気になる話し声が玄関先で響く。コレットは羽根ペンを握りしめた。


 胸の内で鼓動が速い。手のひらに汗がにじむ。エルメリクとリリィの別れ話が、自身の過去と重なる。


「私は選ばれた」


 彼女は指輪を強く押し当てた。冷たい金属が次第に温かくなる。


 話し声が遠ざかり、玄関の扉が閉まる。静寂が戻った書斎で、彼女は深呼吸を一つ。


 再びペンを取る。震えは止まっていた。羊皮紙の末尾に、新たな一行を書き加える。


「故に、公妃としての責務を果たすため、速やかに王都へ向かう所存です」


 書き上げた文字を見つめ、コレットは頷いた。決断が身体の重さを少し軽くした。


 彼女は立ち上がり、書斎の一角にあるトランクへ歩み寄る。革の表面に手を滑らせ、留め金を外す。


 中身を確認する指先に、少し力が入る。手帳、紋章ペンダント、古い懐中時計。すべてが揃っている。


 最後に、トランクの底に仕舞った一袋の金貨に触れた。硬


 ***


 メインリビングに、白い軍服のアルヴィンが立っている。彼の影が暖炉の炎で長く揺れる。


 コレットの胃が軽く攣る。彼女は傍らに並ぶ両親を見る。母の目尻が赤い。


「すべて整っています」


 アルヴィンが一歩進み出た。手を差し伸べるその指は、確かにコレットの指輪を受け止めたものだ。


 父がうなずく。その沈黙が別れを告げていた。コレットは父の手を握る。皮膚の硬さを感じる。


「父上、母上」


 声が震えないよう、喉に力を込める。背筋を伸ばし、アルヴィンの元へ歩み出す。


 靴音が絨毯に吸い込まれる。彼の手のひらが、コレットの手を包んだ。温かい。


「さあ、行きましょう」


 その優しい声が、胸の奥を突く。彼女は振り返り、最後に両親へ深く頭を下げた。


 玄関を出ようとする足が、一瞬重くなる。セーラの笑顔が脳裏を掠めた。


「…すみません」


 アルヴィンが彼女の顔を覗き込む。コレットは慌てて顔を上げ、小さく首を振る。


 もう後ろは振り返らない。彼女はアルヴィンの手を握り直した。夜風が頬を撫でる。馬車のランタンが、闇の中の小さな道標だ。 馬車は揺れていた。車輪が石畳を軋む音が、彼女の頭蓋に直接響く。


 コレットは天蓋の襞を見つめる。羽根布団が身体にまとわりつく。手のひらがじっとりと湿る。


 彼女は無理に寝返りを打った。ベッドの端に置かれたハーブサシェが、微かに香る。


「……ダメです」


 声が喉の奥で潰れた。目を閉じれば、エルメリクの冷笑が浮かぶ。彼女はまぶたを強く押さえる。


 鼓動が耳元で鳴る。血液が太陽穴を打つ。彼女は暗闇の中で、指輪の存在を確かめる。


 冷たい金具が、皮膚に食い込む。その痛みが、かすかに現実へ引き戻す。


 彼女は深く息を吸い込んだ。鼻先にハーブの酸っぱい香り。吐く息が震える。


「アルヴィン様は……」


 待っている。その言葉が、重い体を引きずり起こす支えになる。


 彼女はゆっくりと腰を浮かせた。頭がぼんやりと揺れる。額に冷や汗が伝う。


「動かなければ」


 ベッドから降りる


 ***


 彼女は立ち上がった。足の裏が床に触れる。冷たい石


ここまで読んでくださりありがとうございます。

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