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第三十話 冬の国で交わした約束

――冬のダーガトーク滞在も、数日が過ぎた。


 ミリアにとって、ここで過ごす時間は思っていた以上に早く流れていた。


 歓迎会では多くの人々と交流し、城下町では見慣れない景色を楽しみ、ロナルドとも、学院では過ごせないような素敵な時間を過ごした。


 そして今日は――。


 ロナルドの誕生日だった。


「……そういえば」


 朝の支度を終えたミリアは、部屋の窓辺でふと思い出したように呟いた。


「今日、ロナルド様のお誕生日だ」


『そうだよ!』


 すぐさま頭上から声が返ってくる。


「ライト、知ってたの?」


『もちろん!』


「いつの間に……」


『ロナルドが昨日、誕生日の話をしてたから』


「ああ……そうだったね」


 ミリアは小さく頷く。


 そして、ふと自分の誕生日を思い出した。


 自分の九歳の誕生日。


 ロナルドは、わざわざタルトミアまで来てくれた。


 誕生日を祝ってくれて。


 贈り物まで用意してくれた。


「……」


 ミリアは少し考えた。


「私も、何かお祝いしたいな」


『プレゼント?』


「うん」


『何がいいかな?』


「それを今から考えるの」


『お菓子!』


「ライトはそればっかりだね」


『だって美味しいもん』


「ロナルド様への誕生日プレゼントだよ?」


『じゃあ、いっぱい美味しいお菓子!』


「……うーん」


 ミリアは苦笑する。


「それもいいけど、ちゃんと形に残るものも贈りたいな」


『じゃあ買いに行こう!』


「うん」


 ミリアは頷いた。


「フィーネに相談してみようかな」


     ◇◇◇


 しばらくして。


 部屋へフィーネがやって来る。


「お嬢様、お呼びでしょうか?」


「フィーネ、ちょっと相談があるの」


「はい」


「今日、ロナルド様のお誕生日でしょ?」


「ええ」


「私の誕生日の時には、お祝いしてもらったから……」


 ミリアは少し照れくさそうに笑う。


「私も、ちゃんとお祝いしたいの」


 フィーネは優しく微笑んだ。


「素敵なお考えだと思います」


「それでね、プレゼントを買いに行きたいんだけど……」


「もちろん、お供いたします」


「本当?」


「はい」


 フィーネは頷く。


「せっかくの冬休みですもの。少し城下町を歩くのもよろしいかと思います」


「やった!」


『やったー!』


 ミリアとライトの声が重なる。


「では、準備いたしましょう」


「うん!」


 ミリアは嬉しそうに頷いた。


     ◇◇◇


 その頃――。


 ロナルドは、王城の一室にいた。


 今日は朝から、いつもとは少し違う空気が流れていた。


 誕生日ということもあり、家族や側近たちから次々と祝いの言葉を受けていた。


 けれど――。


 ロナルドは、何度か扉の方へ視線を向けていた。


「……」


 まだ、来ていない。


 いや。


 そもそも、今日はミリアと会う約束をしていたわけではない。


 それなのに、気づけば気になってしまう。


「殿下」


 侍従が声をかける。


「ああ」


「本日の予定ですが――」


 ロナルドは話を聞きながらも、ふと尋ねた。


「……ミリアは?」


「ミリア嬢ですか?」


「ああ」


「先ほどフィーネ様と城下町へ向かわれたそうです」


「……城下町?」


「はい」


 ロナルドは一瞬黙った。


「何か買い物でもされるのでしょう」


「そうか」


 それだけ言って、再び書類へ目を戻す。


 けれど――。


 どうにも集中できない。


「……」


 少しして。


「まだ戻っていないのか?」


「はい」


「そうか……」


 また少しして。


「……どのくらいで戻る予定だ?」


「夕刻頃かと」


「……そうか」


 侍従は何も言わなかった。


 ただ、わずかに口元を緩めている。


「何だ?」


「いえ」


「何かあるなら言え」


「殿下が、随分とミリア嬢のことを気にしておられるように見えましたので」


「……気にしていない」


「そうですか」


「……」


 ロナルドは黙り込んだ。


 その時――。


「ロナルド」


 扉が開く。


 兄が顔を覗かせた。


「何をしてるの?」


「何も」


「ふーん」


 兄は弟の顔を見て、それから窓の外へ視線を向ける。


「ミリア嬢、まだ帰ってないんだって?」


「……」


「なるほど」


「何がなるほどなんですか」


「別に?」


 兄はニヤニヤと笑った。


「誕生日なのに、一番気にしてるのはミリア嬢の予定なんだね」


「……兄上」


「はいはい」


 兄は楽しそうに笑う。


「まあ、夕方には戻ってくるんじゃない?」


「……そうでしょうね」


 ロナルドは小さく息を吐いた。


 それでも、窓の外へ向けた視線は戻らなかった。


     ◇◇◇


 その頃、城下町。


「どれがいいかな……」


 ミリアは店の中で、真剣な表情を浮かべていた。


 目の前には、様々な冬物の小物が並んでいる。


「ロナルド様なら……」


 濃紺。


 深い緑。


 黒。


 落ち着いた色合いのものが多い。


「これ……」


 ミリアが手に取ったのは、濃紺の手袋だった。


「ダーガトークは寒いし、手袋なら使ってもらえるよね」


「はい」


 フィーネが頷く。


「実用的ですし、殿下にもよくお似合いになると思います」


「じゃあ、これにしよう」


 ミリアは嬉しそうに微笑んだ。


「……あ」


 その時だった。


 隣のショーケースに、小さなブローチが並んでいるのが目に入った。


「可愛い……」


 雪の結晶を思わせる繊細な形。


 中央には、小さな宝石が嵌め込まれている。


 その色は――。


「これ……ロナルド様の瞳の色みたい」


 深いエメラルド。


 ミリアはじっと見つめる。


「綺麗だね」


「そうですね」


 フィーネもショーケースを覗き込む。


 すると、その隣に色違いの同じブローチがあった。


「あれ?」


 ミリアが目を向ける。


「こっちは……」


 自分の瞳の色に近い。


「私の色だ」


『お揃いじゃん!』


「うん」


 ミリアは二つを見比べる。


「これ、可愛いね」


『ロナルドにあげる?』


「うん」


『ミリアもつける?』


「……そうしようかな」


 ミリアは何の迷いもなく頷いた。


「せっかくだし」


 フィーネがほんの少しだけ目を細める。


「お嬢様」


「ん?」


「お揃い、ですか?」


「うん」


 ミリアは不思議そうに首を傾げる。


「だって、同じ形で色違いって可愛いじゃない?」


「……ええ」


 フィーネは微笑んだ。


「とても素敵だと思います」


「じゃあ、これもお願いします」


 ミリアは店員に二つのブローチを差し出す。


 包みを受け取ると、大切そうに胸元へ抱えた。


「喜んでくれるかな?」


「きっと」


「だったらいいな」


 ミリアは嬉しそうに笑った。


『ロナルド、びっくりするかな?』


「どうだろう」


『楽しみだね!』


「うん」


 ミリアは小さく頷いた。


 ――ただ。


 自分とロナルドが同じブローチを身につけることが、どんな意味を持つのか。


 ミリアは、まだ何も考えていなかった。


 ただ――。


 ロナルドの瞳の色が綺麗だった。


 それだけだった。


     ◇◇◇


 やがて買い物を終えたミリアたちは、王城へ戻る馬車へ乗り込んだ。


 ミリアは膝の上に置いた包みを何度も確認する。


「手袋……」


 小さな包み。


「ブローチ……」


 もう一つの包み。


「これで大丈夫かな」


「はい」


 フィーネが微笑む。


「きっと喜んでくださいます」


「そうだといいな」


 ミリアは窓の外を眺める。


 雪に包まれたダーガトークの街並みが、ゆっくりと後ろへ流れていく。


「ロナルド様、どんな顔するかな」


『きっと喜ぶよ!』


「ふふっ」


 ミリアは笑う。


「早く渡したいな」


     ◇◇◇


 その頃、王城では――。


「……まだか」


 ロナルドが呟いた。


 兄がすかさず反応する。


「誰が?」


「……」


「ミリア嬢?」


「兄上」


「はいはい」


 兄は楽しそうに笑った。


「そんなに待ち遠しいなら、自分から迎えに行けばいいのに」


「……必要ありません」


「そう?」


 ロナルドは答えなかった。


 ただ、窓の外を見つめる。


 白い雪の向こう。


 やがて――。


 遠くから馬車の音が聞こえてきた。


 ロナルドの表情が、ほんの少しだけ和らいだ。


「……帰ってきた」


「おや」


 兄がニヤリと笑う。


「随分嬉しそうだね?」


「……気のせいです」


 ロナルドはそう言いながらも、自然と立ち上がっていた。


 そして――。


 扉の向こうから、明るい声が響く。


「ただいま戻りました!」


 ミリアの声だった。


 ロナルドの口元が、ほんの少しだけ緩んだ。


 王城へ戻ったミリアは、フィーネとともに客室へ戻る前に、ロナルドのもとへ向かうことになった。


 廊下を歩きながら、ミリアは何度も胸元の包みを確認する。


「フィーネ、これ……ちゃんと大丈夫かな?」


「はい。何度確認しても、きちんとございますよ」


「そうなんだけど……」


『ミリア、さっきからずっと同じこと言ってるよ』


「だって緊張するんだもん」


『プレゼント渡すだけなのに?』


「そうなんだけど……」


 ミリアは小さく息を吐いた。


 やがて、ロナルドが待つ部屋へ到着する。


 扉が開く。


「ミリア」


 中にいたロナルドが顔を上げた。


「ロナルド様!」


 ミリアは嬉しそうに駆け寄る。


「お帰りなさい」


「ただいま戻りました!」


 ミリアが笑う。


 その顔を見て、ロナルドは少しだけ安心したように息を吐いた。


「……城下町はどうだった?」


「すごく楽しかったです!」


「そうか」


「雪のお菓子とか、冬の小物とか、いろいろあって……」


 そこまで話して、ミリアは口を閉じる。


「それで――」


 胸元の包みを取り出した。


「ロナルド様」


「?」


「お誕生日、おめでとうございます!」


 両手で包みを差し出す。


「……俺に?」


「はい!」


 ロナルドは一瞬、言葉を失った。


「開けてもいいですか?」


「もちろんです」


 ロナルドが包みを開く。


 中から出てきたのは、濃紺の手袋だった。


「……手袋」


「ダーガトークはすごく寒いから」


 ミリアは笑う。


「学院でも使えるかなって思って」


 ロナルドは手袋を手に取る。


 しばらく黙って眺めていた。


「……ありがとう」


「どういたしまして!」


 ロナルドの声には、心からの喜びが滲んでいた。


「大切に使う」


「よかった!」


 ミリアは嬉しそうに笑った。


「それと、もう一つあります」


「もう一つ?」


「はい」


 今度は小さな箱を差し出す。


 ロナルドが蓋を開ける。


「これは……」


 雪の結晶を模した小さなブローチ。


 中央には深い緑色の石が輝いている。


「ロナルド様の瞳の色みたいだったので」


「……」


 ロナルドの視線がブローチへ落ちる。


「綺麗でしょう?」


「ああ」


「それでね――」


 ミリアは自分の胸元を指差した。


「私も同じものを持ってます」


「……え?」


 ミリアの外套の下。


 そこには同じ形のブローチが留められていた。


 ただし、中央の石はミリアの瞳に近い色。


「色違いです」


 ロナルドはしばらくブローチを見つめて、黙り込んだ。


「可愛いですよね」


「……ああ」


「だから、ロナルド様もつけてくれたら嬉しいです」


「……分かった」


 ロナルドは小さく頷いた。


「大切にする」


「はい!」


 ミリアは満面の笑みを浮かべた。


 その少し離れた場所では、兄が二人の様子を眺めていた。


「…………」


 そして、口元を押さえる。


「ふふっ」


「兄上」


 ロナルドが鋭い視線を向ける。


「何ですか」


「いや?」


 兄は楽しそうに笑う。


「ずいぶん素敵な誕生日プレゼントだなと思って」


「……そうでしょう」


「しかもお揃い」


「……」


「よかったね、ロナルド」


「兄上」


「はいはい」


 兄は肩をすくめる。


 ミリアは二人のやり取りを見ながら、首を傾げた。


「お兄様、何か嬉しそうですね?」


「うん。弟の誕生日だからね」


「なるほど」


 ミリアは素直に頷く。


 兄はその反応を見て、さらに楽しそうに笑った。


「……本当に分かってないんだね」


「何がですか?」


「いや、何でもないよ」


「?」


 ミリアは不思議そうに首を傾げた。


 ロナルドは小さく息を吐く。


「気にしなくていい」


「はい」


 そしてミリアは、改めてロナルドへ向き直った。


「ロナルド様」


「何だ?」


「お誕生日、おめでとうございます」


「ああ」


「今年も素敵な一年になりますように」


 ロナルドは少しだけ目を細める。


「……ミリアが来てくれただけで、今日は最高の誕生日になった」


「え?」


「……何でもない」


「?」


 ミリアはきょとんとした。


 ロナルドは少しだけ視線を逸らす。


 その横で兄がまた笑いを堪えていた。


     ◇◇◇


 その日の夜。


 歓迎会も終わり、夜もすっかり更けた頃。

 

 ミリアはロナルドに呼ばれ、静かな廊下の先にある小さなテラスへ出ていた。

 

 白銀の庭園が月明かりに照らされている。


「寒くないか?」


「大丈夫です」


「そうか」

 

 ロナルドは隣に立つミリアを見た。


 今日一日。


 ミリアと過ごした時間を思い返す。


 城下町から帰ってきた時。


 誕生日の贈り物を渡してくれた時。


 嬉しそうに笑っていた顔。


 どれも、心に残っていた。


「……ミリア」


「はい?」


「一つ、お願いがある」


「何ですか?」


 ロナルドは少しだけ言葉を選ぶように黙った。


「二人でいる時くらい……敬語をやめないか?」


「え?」


 ミリアが目を丸くする。


「敬語……ですか?」


「ああ」


「でも、ロナルド様は王子様ですし……」


「学院では今まで通りでいい」


「……?」


「皆がいる場所では、今まで通りで構わない」


 ロナルドはミリアを見る。


「でも、二人で話している時くらいは……もっと普通に話してほしい」


「……」


 ミリアは少し考えた。


「それって……」


「嫌か?」


「ううん」


 ミリアは首を横に振る。


「嫌じゃないです」


「……」


「ただ、慣れてないから……ちょっと変な感じがします」


「それなら、少しずつでいい」


 ロナルドは穏やかに笑った。


「俺も、ミリアとはもっと気楽に話したい」


 その言葉に、ミリアも小さく笑う。


「……分かった」


「本当に?」


「うん」


 ミリアは少しだけ照れながら頷いた。


「二人の時は、敬語やめる」


「……ありがとう」


「でも、ロナルドもね」


「俺?」


「私だけ敬語をやめるのは、なんだか変だもん」


「……分かった」


 ミリアは少し考えてから、口にする。


「じゃあ……これからはロナルドも敬語なし?」


「ああ」


「……なんか変な感じ」


「俺もだ」


 二人は顔を見合わせる。


 そして――。


「じゃあ、練習」


「練習?」


「うん」


 ミリアが少し照れながら笑った。


「……ロナルド」


「……ああ」


「ふふっ」


「何だ?」


「やっぱり変な感じ」


 二人は思わず笑った。


 白銀の庭園に、静かな笑い声が響く。


 ロナルドは、そんなミリアを見つめながら思った。

 

 これから先。


 学院で過ごす時間も。


 こうして二人で話す時間も。


 もっと増えていけばいい。


 そんなことを、自然に思った。


「じゃあ、約束だな」


「うん。約束」


 二人は小さく頷き合う。


 冬のダーガトークで交わされた、もう一つの約束。


 それは、二人の距離をほんの少しだけ近づけるものだった。

 

 王城は静かな夜に包まれていた。


 二人はしばらく雪景色を眺めたあと、それぞれの部屋へ戻った。


 部屋に戻ったミリアは、ベッドへ腰掛けた。


「今日は楽しかったなぁ」


『うん!』


 ライトが嬉しそうに頷く。


「雪遊びもしたし、城下町にも行ったし、ロナルドの喜んだ顔も見られたし……」


『お菓子もあった!』


「そこ?」


『大事だよ!』


「ふふっ」


 ミリアは笑う。


「明日は何しようかな」


『また雪で遊ぶ?』


「それもいいね」


 ライトがふわふわと飛び回る。


 その時だった。


 ふと。


 窓の外から、冷たい風が吹き込んだ。


 ライトがぴたりと動きを止めた。


『……』


「ライト?」


 ライトは窓の外を見ている。


「どうしたの?」


『……ううん』


 少しだけ考えたあと、ライトは笑った。


『何でもないよ』


「そう?」


『うん』


 ミリアは少し首を傾げたが、深くは追及しなかった。


「じゃあ、そろそろ寝ようか」


『うん!』


「おやすみ、ライト」


『おやすみ、ミリア!』


 ミリアが眠りについたあと。


 部屋の中が静かになる。


 ライトは窓辺へ移動した。


 そして――。


『……シルビィ』


 小さな声で呼びかける。


 すると、暗がりから漆黒の羽が静かに現れた。


『……気づいていたか』


『うん』


 いつもの明るいライトとは違う。


 その表情には、幼さの残る笑顔ではなく、静かな警戒が浮かんでいた。


『さっきの気配』


『ああ』


 シルビィも窓の外を見る。


 雪が静かに降っている。


『ダーガトークへ来てから、何度か嫌な魔力を感じる』


『やっぱり……シルビィも?』


『間違いなく、何かいる』


 ライトはしばらく黙っていた。


『でも、イシュルだとは断定できない』


『……うん』


『この国には多くの人間がいる。魔力も複雑に入り混じっている』


『だから、まだ分からない』


『ああ』


 二人の間に静かな沈黙が落ちる。


 しばらくして、ライトが口を開いた。


『ミリアには……まだ言わないでおこう』


 シルビィがライトを見る。


『理由は?』


『今は必要ないから』


『……』


『せっかくロナルドと再会できたのに』


 ライトは、眠っているミリアを振り返る。


『ミリア、すごく楽しそうだったから』


『ああ』


『だから、今はこの時間を大切にしてほしい』


 シルビィは静かに頷いた。


『同感だ』


『でも――』


 ライトの瞳が、わずかに細められる。


『もし、あれが本当にイシュルの影なら』


『……』


『次に感じた時は、見逃さない』


 シルビィも静かに答える。


『その時は、私も動く』


『うん』


 二人はそれ以上、言葉を交わさなかった。


 ただ静かに、降り続く雪を見つめる。


 白銀の王国。


 楽しい冬休み。


 再会した仲間たち。


 そして――。


 まだ誰も知らない、僅かな異変。


 それは今は、ほんの小さな違和感に過ぎなかった。


     ◇◇◇


 翌朝。


「ミリア、おはよう」


「おはよう、ライト」


『今日も雪で遊ぼう!』


「うん!」


 いつもの明るい笑顔。


 ミリアは何も知らない。


 ライトも、何も言わない。


 ただ一つだけ。


 ミリアの胸元には、自分の瞳の色をした小さなブローチが輝いていた。


 そして遠く離れた部屋では――。


 ロナルドもまた、ミリアから贈られたブローチを、大切そうに胸元へ留めていた。


 冬のダーガトークで交わされた、小さな贈り物。


 それは二人にとって、新しい思い出の一つとなった。


 新たな日々。

 

 新たな学び。

 

 深まっていく絆。


 そして、まだ誰も知らない試練。

 

 そのすべてが、やがて二人の未来を大きく動かしていく。


 ――こうして、冬のダーガトークでの日々は静かに幕を閉じた。


 やがて春が訪れれば、二人は再び王立学院へ戻る。


 ――二年生として迎える新たな一年。


 春風はまだ遠い。

 

 けれど、新しい季節は確かに近づいていた。

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