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男女比1:5の世界でサバイバル  作者: 桃野産毛


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第70話 電気信号でできた精神

 運が良かった。

車が吊り上げられて回転する時に、

薬をたくさん飲んだのが良かったのだろう。

 俺はリトスの足で踏まれた拍子に意識だけ戻った。

ただ、身体はまだ動かない。

麻酔か何かの薬だろうか。

 何が起きてもおかしくないと思いつつも、

さすがにこれは急転直下だ。

とりあえず、

俺は気を失っているフリを続けて話を聞いた。


 コイツ、腹立つな。


 ゲームのキャラ育成で、

親から卵から厳選するヤツがいる。

それはまだ理解できる。

 コイツの言ってることは、

キャラ育成の良い個体がでるまで、

ゲームを初期化、リセットするというものだ。

 しかも、ダメな個体の場合も最後まで育て、

テストみたいなことをして。

エンディングを観てから、リセットする。

 そうか、でもこれじゃないんだよ、

って言いながら。

そして、それをゲームじゃなく、

現実でやろうとしている。


 俺、コイツ、嫌い。


 後、リトスはどうなってんだろうか。

コイツはどうやって身体を乗っ取ってるのか。

 自慢げにシステムについて語っていたが。

つまり、ナノマシンは肉体及び、

体細胞の代替品として動作してるらしい。

電子でできたIPS細胞という具合だ。

 だから、

自分の身体をナノマシンだけで全部作れる。

もちろん、欠損部分も構築できる。

火傷で炭化した指先も元通り。

 そう言えば、

俺もナノマシン入れられたっけ。

解放軍に拾われた時に、

火傷していた両腕の治療で。

具体的な量までは知らないが、

あの国の物ならリトスと同じナノマシンのはずだ。

 だが、黒幕は俺の身体に入らなかった。

理由は、多分俺が男だからだ。

男のことがそんなに嫌か。

 まだ身体が動かないので、

少し深く思考する。

どうやら黒幕の記憶もナノマシンに保存している。

なら、ナノマシン自体が脳細胞のような機能をもっている?

それで乗っ取る対象の脳の神経細胞に、

ナノマシンが何かしてると仮定する。

対象の脳を作り替えるのはリスクが高く、

SFとは言え現実的に思えない。

 ナノマシンが脳のシナプスに介入して、

パソコンの遠隔操作ツールとかゼロクラPCみたいにすれば、

随時記憶を更新しつつ傀儡を操作可能なのか?

 それなら体内のナノマシンを除去できれば、

リトスの自我は戻りそうだ。

ただ、一度に全部除去できなければ、

悪影響がありそう。

さすがにナノサイズのそれを、

一度で一つも残さず人体から除去するのは困難だ。

なら、どうする?


 別のナノマシンを体内に入れて、

今のナノマシンを除去させる。


 確認してないが、

俺が隠し持っている薬は同じような原理で怪我などを治しているらしい。

傷口や異常部位へ即座にナノマシンが集まり、

止まりにくい額の出血もすぐ止まる。

 この薬はサービスエリアの遺跡で手に入れた。

今より科学技術が発展していた頃の薬だと考えると、

コイツを服用すれば黒幕のナノマシンを除去できるかもしれない。

 むしろ、俺がこれを飲みまくっているから、

黒幕は俺の身体を乗っ取ることができなかったのかもしれない。

 問題はどうやって薬を飲ますか。

どれくらいの量飲ますか。

そもそも効果があるかどうか確証がない。

トライ&エラーでやってみるにせよ、

リスクが高い。


「さて、彼は記憶を書き替えて、

僕の犬にでもしよう。

いざとなったらアドミニストレーター権限だけ使える。

 小池君は、

ここで待っててくれるかな。

すぐに済ませるから。」

「大人しく待つわけありません。

機体に損害を出してでも再出港します。」


 待て待て待て。

二人の話がヒートアップしていく。

俺は内心焦っているが、

身体はまだ動かせない。


「それは無理だ。

だって、

損害が出たらカプセルの中の人はただじゃ済まない。

君が人間だろうと人工知能だろうと、

それは避けるだろ?」


 本当に嫌な交渉だな。

しかも、この言い方。

別の手段もありそうだな。

 頭の上の足のおかげで、

黒幕の様子が良く見えない。

薄目を開けてもさっき入ったドアくらいしか見えない。

これじゃあ、隙をみて反撃も難しい。

どうする?


「……正当な入室許可を確認。

扉を開きます。」

「入室許可?

小池君、

この船には僕たち三人しかいないだろ?」


 足越しに黒幕が身を固めたのが分かる。


「そうですね。

ただ、百年ぶりに彼らが私を掃除してくれる、とのことです。」


 開いたドアの向こうには、掃除ロボが一台いた。


「ソウジヲシマス!」


 丁度俺の視界にロボットが見える。

ソイツは妙にキレイだった。


「あぁ、それなら正当な入室だね。」


 黒幕が嘲笑う。

俺はアイツを見たことがある。

アイツ、解放軍にいた掃除ロボだ。


「ソウジヲシマス!」


 次の瞬間、

ドアを埋め尽くさんとする掃除ロボの群れが現れた。

床を掃除するタイプから、

壁、天井窓を掃除するタイプもいる。

はじめの一台と違い、どれも汚れが酷い。

見えなくても黒幕が怯むのが分かる。


「……何のつもりだ?」

「何も。

私は彼らに何も指示していません。

単純に掃除がしたい、と申請されたので、

入室許可を出しただけです。

 それに、彼らはどうやらあの国のロボットたちです。

私に彼らの制御権はありません。」


 掃除ロボは、一斉に部屋に飛び込んできた。

黒幕が俺の頭から足を下ろした。

次の瞬間、発砲音が響く。

見えないが、黒幕は銃を持っていたのか。

 だが、掃除ロボたちの群れはその弾丸程度で止まらない。

俺はあっという間に掃除ロボたちに囲まれ、

そのまま扉の方へ引きずられて行く。


「クソっ!

止めろ!

ロボットを止めろ!」

「先程言ったように、

私には彼らを止める権限がありません。

 ここにはあのトラックで来ていたようですね。

むしろ、解放軍の備品では?

その身体の持ち主なら止められるかと。」


 黒幕は銃を撃ち続ける。

たが、汚れが装甲のように機体の外装に固まっているため、

弾丸一発程度じゃロボットたちは止まらない。

 ついに、黒幕は弾を打ち尽くした。

リロードをしようと懐に手を入れた瞬間、

掃除ロボたちが足に群がり、黒幕を引きずり倒す。

 俺は何故か丁寧にドアの脇の壁に待避させられ、

その光景がはっきり見える位置にいた。


「待て! 止め……!

ギャあぁア!!」


 血渋きが舞う。

俺の位置から何をしているのか見えた。

あの、汚れが固まったブラシで黒幕の身体を『掃除をしている』。

金ブラシのようなそれは、

黒幕の皮膚と肉をずたずたに引き裂いてダストボックスに入れていく。


「止めさせろ!

オメガドライブ!」

「だから、無理です。

私の管轄外のロボットですから。

 むしろ、

ごみと間違われている貴方に問題があるのでは?」


 女神は冷ややかに突き放す。

ざまぁ、と顔に書いてある。

人工知能にしては、感情豊かだ。

人の記憶が埋め込まれているからか?

 黒幕のナノマシンはさすがの性能で、

逆再生映像のように血がすぐ止まり傷口に肉が戻る。

だが、それよりブラシの回転の方が早い。

 回復したそばから肉を削り取られ、

手足は所々骨が露出している。

悲鳴と血の匂いが辺りに充満する。


「やめ!

止めてくれ!

止まれ! 止まれぇ!」


 ありゃ、酷い。

俺は思わず薄目を閉じる。

 空気清浄ロボットが来て、血の臭いを吸い込む。

窓掃除のロボットが、血溜まりをキレイに拭う。

本当に掃除だ。

 突然、俺の懐の情報端末が鳴った。

俺は気絶したフリをやめて、それを取り出す。

無意識に動いたが、

どうやら腕くらいなら動くようだ。


「……掃除だ?

バネロからかよ。

いや、送ったのはバネロの端末で、

送り主はロボット?」

「あぁ!

そこにいるんだな!?

止めろ!

これを止めろ!」


 黒幕が俺に気付いたようだ。

俺は聞こえないフリをして、

メッセージを読み続ける。


「なんだこれ?

……ロボットの力を借りる代わりに、

俺を助ける?

意味がわからん。

 バネロさん、慌てすぎだ。

説明プリーズ。」


 俺は隠し持っていた薬を六錠飲んだ。

身体は問題なく動く。

助けを求めている黒幕のことは置いておいて、

ゆっくり立ち上がり身体を確認した。


「なぁ、お前は人の身体を乗っ取れるんだろ?

俺もあの国でナノマシン治療を受けた。

そんなに痛いなら、

俺の身体に移れば良いだろ?」


 黒幕を横目にそう言ってやった。


「嘘をつくな!

お前の身体にはナノマシンはない!」

「よし、良いことを聞いた。

 おい、女神。

俺の飲んでる薬のこと知ってるか?」


 女神は俺が差し出した錠剤を注視して言う。


「医療用ナノマシンですね。

ただし、私が開発した百年以上前の物です。

良く見つけましたね。」

「へぇ。

これをコイツに飲ませたら、

身体から追い出せるか?」

「彼女の中のナノマシンの情報がないので断定不能ですが、

理屈では異物として排除すると思われます。」


 俺は未だに叫び続ける黒幕のことを見た。


「なんでコイツはこんな苦しいのに、

リトスから出ていかない?

出ていけない理由でもあるのか?

 女神、車庫のバニラに連絡できるか?」


 女神が手を振ると、

壁の一枚に車のそばに立つバニラが写し出された。


「バニラ。

あの国の医療用ナノマシンについて、

詳しいデータを取り寄せてくれ。

特に、一人当たりの体内の保有量を出してくれ。

 データは女神に渡せ。

女神、さっきの通信で受け取れるか?」


 バニラは了解、と言って、

すぐに取りかかってくれた。

女神はどうやら、

通信でバニラとやり取りしてるらしい。


「確認しました。

六錠投薬すれば、

体内のナノマシンを上書きできます。」

「よし!

掃除ロボ全員聞け。

ソイツ動けないようにしててくれ。

薬を飲ます。」


 そう言うと、

ロボットたちは床に張り付けるように黒幕の身体を押さえ付けた。

黒幕は話を聞いていたようで、

口を強く閉じる。

だが、ロボットたちがアームを伸ばして、

黒幕の口を無理やり開いた。

ナイスアシスト。


「トライ&エラー。」


 俺は黒幕の口に薬を六錠突っ込んだ。

ロボットたちはすかさず黒幕の口を閉じて押える。

鼻も押えたので、黒幕は薬を飲み込んだ。

 しばらく黒幕は激しく暴れ、

怨嗟の目で俺を睨み付けていた。

それも、すぐに弱まって行き、動かなくなる。

 ロボットたちは黒幕の拘束を解いた。

気を失っているフリ、ではなさそうだ。

俺はしゃがみこんで顔をはたく。


「いたっ!

 なん……。

なんで君がいるんだ?

ここはどこだ?!」


 目を覚ましたリトスは、

突然のことに驚き慌てる。

俺はほっと胸を撫で下ろした。


「女神ー。

コイツ、スキャンできるか?」

「しました。

除染完了のようです。

 記憶の混濁はあるようですが、

あれは忘れた方が身のためですね。」


 俺は立ち上がり、

リトスは放ったらかしに女神と話す。


「女神。

今の薬はあるか?」

「本船内に大量にあります。

新たに生産も可能です」

「それを空中に散布して、

あの地域一帯のナノマシンを除染できるか?」

「空間に漂うナノマシンは可能ですが、

体内のものは無理です。」

「雨か何かに混ぜ混んだら?」

「雨が一定量肌に触れれば可能です。」


 俺は情報端末で音声通信をバネロに繋ぐ。


「私だ!

無事か?!」

「バネロー。

今すぐ全国民を建物から出して、

収容所近くに移動させるのにどれくらい時間がかかる?」

「……三……二時間!」

「すぐ取りかかれ。

黒幕が逃げた。

 後、リトスは取り戻した。

無事だ。

 女神、

ここにいる整備ロボットが全力でお前を整備したら、

どれくらい飛べる?」

「無理にでも飛びます。

アレをこの世から消し去れるのなら。」


 俺はロボットたちに目配せした。


「ソウジヲシマス!」


 あぁ、そうだな。

掃除をしよう。


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