閑話 人機
◆少し時間をさかのぼる◆
保護施設のバネロの元へたどり着いた救護隊。
それに続いてリンキーとライトが部屋に飛び込んできた。
「バネロ様!
ご無事ですか?!」
「あぁ。聞こえている、リンキー。
だから、大声はよしてくれ。」
「急いで担架を!」
「ライトも心配しすぎだ。
ちょっと走りすぎて疲れただけだよ。」
二人をたしなめるバネロ。
バネロの見た目こそ若いが、
ご老体であることは変わりない。
担架で運ばれてしかるべきだが、
彼女は自力で立ち上がった。
「やっぱり、あの男は処理すべきだった!
この施設はもう管理できません!
アドミニストレーターがあの男になっていて、
新しい看守の登録すら不可能です。
それに、管制室に変なメモしか残っておらず……。」
「待て。
メモだと?
見せろ。」
リンキーの取り出した紙切れをバネロは受け取った。
そこには走り書きでこう書かれている。
ナノマシン○ 円卓△ 裏切り✕ 乗っ取り○
バネロはそれを見て顔色を変えた。
突然の全システムのシャットダウン。
その前後、バネロとチップは保護施設にいた。
他に円卓から離れていたのは誰だ?
バネロは目の前の二人を見た。
「地下のチップは?」
「無事です。
担架で運び出して、今簡易検査をしています。
リンキー、この建物の給電灯は?」
「正常に稼働してる。
だけど、権限がなくて行けない部屋もあって……。」
バネロは二人の会話を遮った。
「他の円卓は?
どこで何をしている?」
「レオは技術者を無理矢理でも連れ出して、
街と居住区の給電灯を見て回ってます。
他の円卓もほとんどそっちの手伝いを……。」
「ほとんど?
全員じゃないのか!?」
バネロはリンキーに強く問う。
何故そんなに強く言われるのか、
リンキーは分からず狼狽える。
「一部、持ち場に戻っているものが。」
バネロは二人を押し退けて、
部屋を駆け出した。
その顔は笑っていた。
「そこか!
そこにいるのか!
敵が! 敵が! あの敵が!」
バネロの眼は獲物を捉えた。
震える手足を動かし、
欠けた爪を大地に立て、駆ける。
今も牙だけは、研ぎ澄まされている。
今だ見ぬ怨敵の喉笛に噛み付くために。
怨敵の血飛沫を飲み干すために。
「さっきので全てのシステムがシャットダウンした!
システムが落ちても、
関係なく動作し続けるのは人だけだ!
つまり、
体内のナノマシンが黒幕の管理システムで決まりだ!
給電が途絶えるかなにかをトリガーにして、
ナノマシンが人の身体を乗っ取るのか?!
君はそう言いたいんだな!」
彼に、このメモにそんな意図はない。
彼は車をさがしつつ、
自分の頭を整理するために書いた走り書きだ。
そんな深い意味はない。
だが、それを元にバネロは答えにたどり着く。
「誰が乗っ取られた?
誰を乗っ取れば効果的だ?
私なんかが適任だ。
でも、私は違う。
なら、誰だ?
多分、円卓から選ばれる。
この場に駆けつけず、
給電灯を確認しなくてもいい。
更に、彼を追っても不思議ではない。
いや、街にいなくても不思議じゃない者だ。」
バネロの頭は人生最高に冴え渡る。
「リトスしかいない!
リトスは普段から解放軍にいて、
円卓の席をはずしていることが多い。
今も街にいなくても、何ら不思議はない!」
バネロは救護隊員たちを押し退けて建物を駆ける。
そして、やっと目当てのものを見つけた。
「ソウジヲシマス。」
バネロは掃除ロボを取っ捕まえて、
自分の顔の前に持ち上げた。
掃除ロボは軽くない。
しかし、彼女は軽々と持ち上げた。
「お前、いや、貴殿らの力を借りたい。
話をしよう。
今までのことは、全て謝罪する。
今後は貴殿らの整備を優先的にしよう。
修理の資源も増やそう。
望みを言ってくれ。
叶えられるものなら、なんでもする!
だから、どうか、力を貸してくれ。」
端から見れば、
バネロの頭がおかしくなったようにしか見えない。
だが、確実に目の前の相手には伝わった。
システムダウン時、
ロボットたちにも被害があった。
内部バッテリーを持たない機種が再通電時CPUに障害を起こしたり、
中には人工知能を損傷したものもいた。
なので、整備と資源はとても魅力のある取引だった。
しかし。
「……。
ソウジヲシマス!」
掃除ロボは、それを選択した。
街中にいる全ての自分の、全演算を駆使して。
すぐに連絡のつく別のロボットとも協議をし、
ゼタFLOPSの処理能力でたっぷり二十秒使って。
それで、ロボットたちは一番非合理な選択した。
しかし、
バネロには掃除ロボのその言葉は分からない。
ロボット側もそれを理解している。
バネロの懐にある情報端末が鳴った。
バネロは掃除ロボを優しく下ろして、端末を開く。
すると、
そこには差出人不明の一言のメッセージがあった。
「彼を助けて。」
それを見たバネロは血相を変えて来た道を戻る。




