閑話 滅び
「どうなっている?!」
円卓に響くバネロの怒号。
青い顔でレオが報告する。
「どこからかデータが漏洩した模様で……。
その、精密機器管理局の局員の大半が……。」
「彼は言ったのだろ?!
情報のリークをしないようにと!」
「……私は処分命令を出したのですが、
どうやら所員が好奇心で……その……。
セックスができるロボットの試作を持ち出したようで。」
レオは声を絞り出す。
バネロの矛先はチップに移る。
「チップ!
状況は?!」
「……壁の内外、
もうどこでも手に入る。
取り締まっている軍部にすら広がっている。
特に労働者については、
仕事も手に付かない状態の者まで出ている。
……壁の外に至っては、
粗悪な模造品で性感染症が流行りだした。」
バネロは髪を振り乱し、
頭を抱える。
「セックスができるだけだ!
セックスができるだけのロボットだ!
麻薬ではない!
ウイルスが仕込まれている訳ではない!
なのに、これはなんなんだ?!」
チップは何度目か分からない説明を繰り返す。
「セックスが悪い訳じゃない。
昇華運動だし、身体には良いんだ。
パートナーと親密になれるし。
ストレスが大きく緩和される。
ちゃんと身綺麗にして、
節度さえ守れば。」
「二ヶ月あまりでここまで来ると、
国の運営すら危ういんだ!
せっかくのあの計画も!
頓挫する恐れがある!」
街は建設中。
遺伝子的に遠い男は選別し、
クローンの生成に取りかかっている。
だが、ロボットが用意できない。
精密機器管理局の局員数名が、
セックスができるロボットに魅了された。
仕事ができない程の強迫的性行動症、
つまりセックス依存症になってしまった。
「うちのはただでさえ限られた人員でした。
それなのに、五人も……。
他の職種でも同じ現象が起こっており、
生活に影響がじわじわ出ています。」
レオは唇を噛む。
このまはまでは、給電灯の整備すら危うくなる。
認知能力の低下。
つまり、欲望に歯止めがなくなる。
そんな人たちに与えられた、
天使のような、サキュバスのようなロボット。
そして、激務に追われた人たちは、
そのストレスから逃れるためにそれに手をだす。
できる人に程仕事が集まる仕組みのため、
できる人が真っ先にその重圧に耐えかねて快楽から抜け出せなくなる。
既に初期のバニラとは見た目が異なる機体も出回っている。
個人の好み、性癖に合わせたモノだ。
それこそ、
自分の想像した『エッチなお姉さん』の具現化。
そう、傾国は『美女』がする。
しかし、美の基準は個人や文化、
時代によって変わる。
だが、アンドロイドならそれに対応してしまう。
作り物だからこその強み。
同時に弱点でもあるが、弱点だからこそ問題だ。
パートナーを作り物に取られた人はどうなる?
誰を憎む?
誰に怒りを向ける?
どうすればパートナーを取り返すことができる?
答えはない。
その所業はまさに、魔王の如く。
夕陽はゆっくり、でも確実に西へ堕ちる。
全てを朱く染めながら。




