閑話 風呂場
風呂場ですれ違った男の身体を見て、
私は驚いた。
服を着た状態では気づかなかった、
引き締まった筋肉。
だが、乳房はない。
小さい胸の人、と言う感じとも違う。
不思議な肉付きだ。
それに、股間にぶら下がった『もの』。
知識としては知っていたが、
実物はそれほど恐ろしい見た目ではなかった。
それらを加味しても、あれはなんだ?
熱湯を浴びながら、反すうして考える。
知能が低いと聞いていたが、
はっきりと会話ができる。
しかも、意図して相手を煽ったり、交渉したり。
高度なやり取りまでして見せた。
でも、自分の立場を理解していない訳ではない。
私は現場責任者と言うこともあり、
男とは別の車に乗っていた。
車内の様子を報告を聞いた限り、
あれは車内で寝る胆力まで見せたとか。
本当に眠っていると言うわけではなさそうだが、
目をつぶって脱力するなんて。
よっぽどの愚か者か、熟練のスパイか。
レジスタンスどもの訓練されたスパイたちより、
下手するとやり手だ。
逃げるときは逃げる、と言う判断は、
極度の緊張状態で一番難しい。
大抵は動けなくなって、その場にひざまづく。
あれは状況をしっかり見極めて行動しているように見えた。
元帥への報告書は慎重に慎重を重ねて書かなければ。
私は頭の中で簡単に構想を固める。
風呂が終わって、
更衣室へ出るとまだ男がいた。
もしかしなくても、
並んでる他の隊員の身体を見てるのか?
鼻の下を伸ばすあの顔を見た私は、
自分の中で男の評価点を少し下げた。
私は裸のまま風呂の順番を待っている人たちに声をかけた。
「並んでいるなかで、
男と一緒の車だった人はいますか?」
私がそう聞くと、二人手を上げた。
「どんな様子でしたか?」
「えっと、寝てました。」
「でも、中央が見えた辺りで勝手に目を覚ましてました。」
報告できる素材は多い方がいい。
二人に風呂上がりに話を詳しく聞きたいと伝える。
「ずっと、ぶつぶつ呟いてました。」
「独り言の声量じゃないくらい大きな声で、
しっかり話してます。
ごみ漁りがどうの、とか。」
「ねー。
もう、不気味で仕方なかったです。
いつ暴れて襲ってくるかと身構えてたのに。
ずーっと、一人でねちねち話すし。」
知能の高さ。
この一点については、もう間違いない。
必ず報告しなければ。
「さっきも、並んでる皆の体をじろじろ見るし。」
「下心まるだしで、最悪でした。」
その点も必ず報告しなければ。




