98.【ブックマーク400記念】最弱勇者と防壁騎士
「そこだ。」
「っう!?」
木刀が弾き飛ばされ、衝撃で俺は尻餅を着いた。
今俺はハルメアスさんに、模擬戦……とさえ言えない、稽古をして貰っている。
しかしステータスと技量が違いすぎるせいで一度たりとも掠りさえしていない。
「君は中々スジが良いぞ、セイタ。」
「負けて誉められても嬉しくないんですよ……もう一度、お願いします。」
両者定位置に付き、俺はハルメアスさんに斬りかかった。
しかしヌルリと受け流される。
ーーこれだ。俺はこの技術が欲しい。
俺が見た限り騎士の中ではこの人が一番強くて技量も高かった。
他に奇抜な剣技を使う人はいたが、それは出来る気がしない。
「もっと腰を使え、それではただの棒振りだ。」
「ぐぁっ!?」
ムチの様に変則的な軌道で飛んできた斬撃にこちらの剣が弾き飛ばされる。
「……負けました。」
……勝てないとは分かっていても、悔しい。
この二ヶ月間俺はずっと死ぬ気で言語と剣術の訓練をしていた。言語の方はなんとか日常会話レベルまで持って来れたが戦いはからっきしだ。
正直……きつい、クラスメイトは何故か初日以来ずっと姿を表さないし、周りの人が優しくしてくれるとは言え、流石に堪える。
「辛いか、セイタ。」
尻餅を着いた俺に手をさしのべながら、ハルメアスさんが聞いてきた。
「……はい、少し。」
俺はその手を受け取り、立ち上がる。
「……『胸は常に痛む。』」
「はい?」
「私の国の学者の言葉でな。『人は生きる限り常に痛みに苛まれている。しかして、その命の果てにあるのは絶望ではない。諸君らの旅路は希望に満ち溢れている。』と。」
ハルメアスさんは、噛み締める様に言った。
難しいな……なんとなく、仏教の考え方とかと似てるのか?
と言うかイケメンが言うと何でもかっこ良く聞こえるな、多分俺が言ってもイタいだけだろう。
「難しい話ですね。」
「ははは、君を呼び出した側の人間が言うのも変な話だがね。……よしセイタ!今日の訓練は終わりだ!昼飯でも食いに行くか!」
「はい!」
俺も調度腹が減っていた。
でもこの人とご飯に行くと肉かパンしか当たらないからな……まあ良いか。
「町まで走り込みだぞ!」
ハルメアスさんは俺の全力疾走並みのスピードでジョギングしだした、俺もそれに追従する。
本当、勇者でもないのに化物みたいな体力してるな。
しかし……この人でも、斎藤を殺した怪物『ブレイヴイーター』には負けたらしい。
……俺は、強くならなきゃ。今は、人を救うどころか俺が助けられてばかりだ。
だけど、きっといつか……。
ドンッ!
「うわっ!?」
上の空で走っていると、俺は何かにぶつかって弾き飛ばされた。
前を見てみたら、ハルメアスさんが立ち止まり空を見つめ目を見開いている。
……岩にぶつかったみたいな感触だった。危ないから急に止まらないで欲しいな……。
「どうしたんですか?」
俺が声をかけても、反応が帰ってこない。
不思議に思いハルメアスさんの視線を追いかけ空を見る。
その先には、片羽の無い巨大なハエがふらふらと飛んでいる。
「暴食のベルゼビュート……?いや、あれは西の遺跡に封じられている筈だ……だが、しかし……。」
小さな声で何かぶつぶつ言っていた。
額には冷や汗が浮かび、明らかに普通ではない。
「……あれはなんですか?」
「……聖戦末期に於ける魔族軍の最高戦力、七大罪の暴食型だ。いや、見間違いだろう。あれに施された封印は、どれだけ強い物理的な衝撃を与えようと魔王の魂を宿す者以外には砕けない。」
気が付くと、空からハエは消えていた。
……まあ、見間違いなら大丈夫か。話を聞く限りRPGの伝説の武器並みに厳重な封印されてるっぽいし。
「……気を取り直して、行くか。」
「はい!」
もう一度走り出そうとすると、視界の端に泣いている子供が映った。
……女の子だな。年齢は推定7歳ぐらい、多分迷子にでもなったんだろう。
「ハルメアスさん、迷子になってる人がいるので助けてきます。」
「おお、行ってきてくれ。」
「全く……小さい女の子から目を離すなんて、気を付けて欲しいですよね。」
「……なに?もう一度言ってみろ。」
ハルメアスさんの目が一気に鋭くなる。
こ、今度はどうしたんだ?
「だ、だから、気を付けて欲しい、って……」
「その少し前だ。」
真顔で詰め寄ってきた。
え……これより前って……
「小さい女の子?」
「ッッッ!セイタ!私が助けに行こう!どこだ!どこにいる!?」
ハルメアスさんの目が爛々と輝き、辺りを見渡す。
……ん?
「……今、『小さい女の子』に反応しませんでしたか?」
「ななな!何を言っているんだ!?それよりようじ……子供は何処だ!」
今完全に幼女って言いかけたな。
ま、まさか、ハルメアスさん……。
「もしかして、ロリコンなんですか……?」
「え"、あ"!ち、違う!私はちょっとだけ小さい女の子に興味があるだけの好青年だ!断じてその様な、卑しい身の上ではないぞ!」
「世間はそれをロリコンと呼ぶんですよ……。」
「ぐはぁっ!?」
嘘だろ……割りと本気で尊敬してたのに……まさかロリコンだったなんて……。
下手すれば異世界に来た時以上にショックかもしれない。
「き、騎士団の皆には内緒だぞっ!内緒だからな!?」
ハルメアスさんは口の前に人差し指を立てた。
……ちょっと仕返ししてやるか。
「……胸は常に痛む。」(キリッ)
「や、やめてくれ!恥ずかしくて死んでしまう!大体なぜ今それを持ち出してくるんだ!?確かに自分でもちょっとイタイかなー、とは思ってたんだ!」
「君達の旅路は希望に満ち溢れている……」(イケメンボイス)
「うわぁぁぁ!」
……ふう、
顔を覆いながら倒れ伏すハルメアスさんを見て、少し気持ちが収まった気がした。
「君は中々スジが良いぞ♂」
「もっと腰を使え、それではただの棒振りだ。(意味深)」
すいませんでした。