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83.野宿

「……キンジ、討伐対象の情報を確認したい。」


「え?良いよ。」


俺一人なら絶対に負けないが、向こうが遠距離攻撃を持っているとおっさん代表のギール辺りが流れ弾で死にかねない。


「これはさっきも言ったけど、D級のスノーワームだ。噛みつき攻撃が脅威で、雪を潜り進め背後から獲物を襲う。狭く視界の悪い洞窟に住み着くため、大きい武器の使用は危険って書いてあるな。……合ってるか?ギール。」


よし、取り合えず初手ワンパンだな。

雪へ潜られる隙なんて与えずに、ハルバードで頭蓋をカチ割る。


「取り合えず陣形を考えよう。」


キンジがそう提案した。

いや、必要ないんだけど……。


「まず俺とケンイチが前衛で、ユナが灯火を使って辺りを照らしてくれ。ギールは体中に魔物の好物を塗りたくって囮だ。」


「あれ、私は?」


アンリが不機嫌そうに聞いた。

キンジを見ると、「やっべ、完全に忘れてた」という顔をしている。


「そ、そうだな、アンリは適当に歌でも歌って待っててくれ。」


「どうしてよ!私も何かさせてよ!」


「……すまぬ、当然の様に中年を囮に任命するのはどうかと思うのだが。」


「いつもの事じゃないですか、ギールさん。」


……わいわいやっている四人を俺は蚊屋の外で見ていた。

なんか良いよなぁ、こういうの。

ザ、冒険者って感じがしてさ、俺のキャラ的にグイグイいけないのが惜しいところだ。


「ケンイチ?どうしたんだ?」


俯いていた顔上げると、キンジが俺を不思議そうな顔で覗き込んでいた。

あっ、気を使わせてしまったか。


「いや……昔を思い出していてな……。」


俺は得意の悲壮感を漂わせ、そう言った。


「……あのさ、ずっと思ってたんだけど……」


キンジが何かを決心した様な顔になり、口を開いた。

な、なんだ?急に深刻な顔になって……。


「……ケンイチって、何歳なんだ?」


……え?

周囲を見ると、全員が沈黙でその質問に同調していた。


「ちなみに俺たちはギール以外が18と19歳で、ギールは38だ。……ほら、さ。なんかケンイチって声は若いのにかなり経験を積んでそうだし、気になって仕方がなかったんだよ。」


ま、マジか、最近忘れがちだったけど俺ってまだ17歳だから……え、嘘。こいつら全員年上かよ。

衝撃の事実過ぎるだろ……。

正直に言うか?でもこの口調とガタイと鎧で年下とか気持ち悪いだろ……?


「に、にじゅう、はち。」


「あ、やっぱりそのぐらいなんだ。よかった!ギースぐらいのおっさんならどうしようかと思ったよ!」


俺の馬鹿ぁぁぁ!

なに、11歳も盛ってんだよ!……ああ、最近どんどん俺の経歴が詐称だらけになってくな。

精々自分を見失わない様に気を付けよう。


「あ、でも冒険者としては俺の方が先輩だから敬語は使わないからな!というかほぼ使えないし!」


キンジは笑いながら、そう言った。

いや、むしろ敬語使われた方が嫌だ。年上だし。


「そういえば、ケンイチ殿はどんな戦法を取るのですかな?」


「私は敵を叩き潰したり串刺しにしたり全身から槍を発射したりできるぞ。」


「殺意高過ぎませぬか!?」


全員がドン引きしていた。

そりゃそうか、最早ただのビックリ人間だしな。


「それは流石に冗談だろ?……って言いたいけどさっき実際背中から槍生えてたしなぁ……。」


複雑な顔をしながらキンジはそう言った。


「で、でも心強いですよ!私達だけじゃ絶対に達成できないですし、こんな強そうな騎士様が着いてきてくれてほんとに良かったです!」


「え?いや、流石に俺達よりは強いと思うけどランクは最低だぞ?そこまで大差無いんじゃないか?」


キンジはユナの言葉に対して不思議そうな顔をして言った。

こ、こいつ、戦闘になったら絶対に驚かせてやるからな……お前らみたいに優雅な冒険者ライフを楽しんできた奴らとは鍛え方が違うんだよ!

俺が森で何回致命傷を受けたと思ってんだ!


「もう少しで一度の野宿にしませぬか?もう暗いですし、この雪の中をあまり走らせると、馬が潰れてしまいますぞ。」


え、日帰りじゃないの?

ブラウが心配なんだけど……まあ、大丈夫か。

子持ちのOLじゃないんだし、そこまで心配しなくても良いだろう。


「分かった。」


「では止まらせますぞー、」


隙間から見える風景の流れる速度が少しずつ遅くなり、完全に停止した。

馬が逃げ出さぬ様、ギールが馬車を金具で固定した。

そして、開けた場所に篝火を設置しだした。


「随分手馴れてるんだな。」


「ええ、若い頃は国を回って様々な英雄の活躍を詠にしていましたからな。野宿は慣れたものですぞ、はっはっはっ。」


この中年……デキる!

少しして設置が完了すると、周囲が仄かに暖かくなりだした。

そしてギールが鍋をセットし、料理の準備を始めた。

俺達はその篝火を中心に座り込んだ。


「えー、それでは料理の準備ができるまでの間、私の詠を聞いて頂きましょうか。」


ギールがボロロン、と楽器を弾き、無駄に良い声でそう言った。

おお、そういや今遊詩人やってたんだっけ?


「あー!私あれ聞きたい!『壁の勇者の魔族戦線』!」


「あ、俺も!」


待ってましたとばかりに、アンリとキンジが言った。

おいなんだそれ。有名なのか?

ユナが苦笑いしてるぞ。


「二人とも好きですなぁ、まあ良いでしょう!……と、その前に……。」


横に出現したディメンションによる黒い靄からギールが何かの袋を取り出した。ちゃぽんちゃぽんいっている、なんだあれ?


「この演目は長いですから、火酒でも煽りながらゆっくりと聞くのが良いでしょうな。温まりますぞぉ!」


いや、酒かぁ……できればストロー付きのりんごジュースを所望したい。

けどこの世界だと法律的に問題無さそうだし良いのか?


「ギールさん、お酒なんて渡したらまたアンリさんが幼児退行しますよ。間違いないです。」


「しないわよ!あなた私をなんだと思ってるの!?」


「この前だって一口でギールさんをお父さんと誤認して抱き付いたじゃないですか!そのせいでギールさんが騎士に連行されたのを忘れたんですか?」


「お酒を飲んだのはその後よ!」


「え、じゃあ素の状態で抱き付いたんですか!?」


ギャーギャー騒いでる女二人を放って、俺達は火酒の入った袋の留め具を切った。

辺りに強いアルコールの臭いが漂う。

こ、これ飲めんのか?消毒液にしか見えないんだけど……。

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新作はじめました。 現代日本で騎士の怪物になってしまった男の物語です。 貌無し騎士は日本を守りたい!
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