84.壁の勇者
「……気が遠くなる程の大昔、異界から72人の勇者達が呼び出されました。その勇者達全員が圧倒的なまでの権能を有しており、魔族との戦いに置いて多大な戦果を残したのです。」
ポロロン。
静まり返った寒空の下、俺達四人はギールの語りに耳を傾けていた。
特にキンジとアンリなんかは食い入る様に見つめている。
あれ、勇者って……俺たちみたいな奴らか?こっちは30人しか居ないけど。
「その内の一人、『壁の勇者』は、魔大陸との沿岸沿いで守護に当たる役目を定められたのです。港に巨大な防壁を張り、その護りは1000の魔族の進行をも食い止めたと言います。」
よく分からない仕組みの弦楽器を弾きギールが更に続ける。
「とある日、いつもの様に防壁の管理をしていると、防壁の真下で一人の女が血貯まりに倒れ込んでいるのを見つけました。壁の勇者は駆け寄りましたが、その姿を認識してギョッとしたのです。……頭に生えた山羊の如くネジ曲がった角に、深紅の瞳、女は、魔族だったのです。」
ま、魔族?
魔族ってブラウのイメージしか無いんだけど、人のタイプも
いるのか。
どうしてもウサギの姿で脳内再生してしまいそうになる。
「女は男を認識すると、必死に身をよじって逃げようとしましたが、足の腱が切れていて満足に動けぬ様でした。しばらくそうしていましたが諦めたのか、目を閉じぐったりしています。」
なるほど、怪我をしたうさぎが壁の下でぐったりしていたんだな。(名推理)
「勇者はすぐ様殺そうとしましたが、血溜まりに倒れ付した女の命を奪うのは流石に憚られ、自分の館に魔族を連れ帰りました。」
今のところ俺とブラウのポジション逆転バージョンだ。
「勇者は意識が朦朧としている魔族を寝台に寝かせ、どうしようかと悩みました。数分して魔族は目を覚まし、自分の体勢を確認したあと勇者を睨み、言いました。『殺しなさい』と。」
「しかし勇者には、一つの疑問がありました。本来魔族は魔石の持つ力により少しの傷ならばすぐに再生してしまう筈なのです。勇者は幾度による魔族との戦いで、嫌と言うほどそれを理解していました。」
ブラウもハーネスの魔法で焼けた毛を一瞬で再生してたな。
「魔族の傷口を見ると、治ろうとする傷を阻むが如く、蒼い炎が肌を焼いていたのです。ーーそれは、聖剣によって切り裂かれた証でした。下位の者であれば一触れしただけで燃え尽きてしまうのを耐えているのは、女が上位魔族だと言う証です。」
何それ怖い。
じゃあ、ブラウでも聖剣に斬られたら死ぬのか?
ちょっと想像できないな……。
「勇者は女を保護する事にしました。穏やかな性格である勇者は、身動きの取れない殺す必要のない魔族を殺すのを嫌ったのです。」
「そして、勇者と魔族の生活が始まりました。勇者は魔族に自らの故郷の料理を振る舞ったり遊びを教えたりし、最初は怯えていた町の住人も「勇者が言うなら安心だ」と、魔族と親しくしました。最初は人々と勇者を疎ましく思っていた魔族も、徐々に心を開き始めました。」
要するに餌付けされたんだな。
魔族に食い物が有効だってこれ、ブラウで実証されてるから。
「ーーしかし、いくら上級とは言え聖剣の蒼き焔は、着実に魔族の命へと近付いていきます。そして二人が出会った3月後、魔族の命は空前の灯火でした。息も絶え絶え、四肢は燃え殻の様になり殆ど消えかけていました。」
手足が燃え殻ってヤバすぎないか……?
「今夜が山場、という日。勇者が眠っている魔族の顔を眺めていると、突如、外から硝子が割れるかの様な大きな音が聞こえました。驚き、家から飛び出ると……戦線に張った防壁が崩壊し、魔大陸から地平線を埋め尽くす程大量の魔族共が流れ込んで来たのです。」
ええっ、魔族の大群って……ブラウが下級らしいから、最低でもブラウクラスが地平線を見えなくするほど来たのか。
なんだそれ、世界の終わりじゃん。
「壁の勇者は、急いで防壁を展開しようとしましたがもう遅い。既に海岸まで迫ってきていたのです。最早どうしようもありません。戦闘に特化した勇者たちが駆けつけるまで町が蹂躙されているのを指を加えて見ているしかないのです。人々は瓦礫の下敷きになり、首をもがれ、我が子だけはと命乞いしながら死んでいきました。」
「……魔族はそれをしばらく黙って見ていましたが、勇者に一言、「……私を喰え」と。」
え……?食う?それって、そのままの意味か?
あの、『食う』か?




