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36.お料理

「適正微少では、どれだけ指導されても初級しか使えないのじゃ。」


俺は、魔法を使えないのか……。

それなら最初から期待させないでほしかった。

上げてから落とされるのが一番キツい。


「そ……うか……」


俺は肩を落とす。

一瞬自分の声と分からない程どんよりとした声が出て驚いた。

どうやら俺は自分で思っていた以上に魔法に期待していたらしい。

そりゃそうだ、もしかしたら森での生活が格段に豊かになるかもしれなかったのだ。

水だって、火だって出せたかもしれなかった。


「……が、それは『並』の師では、という話じゃ。」


ハーネスが、俺を見かねた様に口を開いた。

え?どゆこと?


「なに?」


「儂は天才魔術師、ハーネスだぞ。適正微少程度に初級の魔術を教える事など造作もない。」


「ほ、本当か!?」


よっしゃ!

と言うことはもしかしたら俺は全属性の初級魔法を使えるかもしれないのか。

それはそれで良いかもしれない。

どうせ戦闘は魔力変質がメインだし、生活で便利な程度なら初級で十分だろう。

よし!教えてもらおう!


「ハーネス、改めてお願いする。私に魔法を教えてくれ。」


俺は頭を下げた。


「御安いご用だ。儂も暇だからのう。」


うし、これで俺も魔法使いデビューだな!

あ、魔法使いと言ってもそっちの魔法使いじゃないぞ。

俺も流石に30までには捨てたい、何をとは言わんけど。


「お、スープが出来上がった様だ。」


ハーネスがそう言いながら、椅子から立ち上がってキッチンに歩いていった。

そういや魔法のせいで忘れてたけどスープ作ってたんだったな。

十日ぶりの料理だ、楽しみだな。


「さ、召し上がれ。」


ハーネスが俺の座っている椅子の前の机に、お椀に盛り付けたスープを置いた。

美味そうな、スープ特有の匂いが俺の鼻孔をくすぐる。

うぉぉぉ……旨味成分を感じるぞぉぉぉ!


「いただきます!」


俺はスプーンを右手に持ち、僅かに上げた兜から口にスープを流し込む。


「ッ!!」


久々の塩分が舌を通して脳髄に染み込んでいくみたいだ!

美味い!いや、美味すぎる!

生きてて良かった!

続いて二口目を口に入れる。


「ッッ!!」


さっきので舌が慣れてやっと塩分以外の味に反応できるようになってきたお陰か、今度はじゃがいもが美味い!

ほくほくとした食感もさることながら、じゃがいもという素材の味もしっかりと引き出せている!

このじゃがいもで肉じゃがでも作ったらさぞや美味いだろう!

そして三口目……ついに本日のメイン、お肉が満を持しての登場だ!

先程のスープとじゃかいもによる序曲も肉による盛大なフィナーレを飾る為の前座に過ぎなかったのだよ!


「んふふ、美味いか?」


ハーネスが頬杖を突きながら聞いてくる。

答えは当然決まっている。


「ああ……最高の気分だ……。」


「ふふ、そりゃそうじゃ。そこらの料理とは年季が違うからのう!」


そして俺は、もっと最高な気分になるために、緊張で震える手を使いスプーンを持ち、口に肉を運搬する。

さあ肉よ!俺に見せてくれ!純粋な旨味のみで成立する真実の世界を!

俺は肉を噛み締める。

すると圧倒的な旨味がーー


……あれ?

俺は、続けてもちゃもちゃと肉を租借する。

うーん……正直、さっきのじゃがいもが120点だとしたら70点って感じだ。

十分美味い部類なのだが、何かが足りない。

しかしそれが何かは分からない、焦れったい感覚。


「ど、どうしたのじゃ?何か嫌いな物でも入ってたのか?」


ハーネス聞いてきた。

と……折角作ってくれた人の前で微妙な雰囲気を出すのは失礼だな。


「いや、とても美味い。」


俺がそう言うと、ハーネスは安心した表情で


「それなら良いのじゃが……」


と言った。

実際にとても上手かった。

さっきの肉に足りない要素はまた今度考えよう。

俺は残りのスープを全て飲み干し、暫くその余韻に浸った。

さて、外はもうかなり暗いし、もう帰るか。

明日はブラウを紹介しに村に行くしな。


「世話になった。それでは私はもう帰るとする。」


「え……?泊まっていかないのか?ほ、ほら、今日はもう暗いし……」


今日初対面の人の家に泊まれるか。


「今日は良い。」


「ふ、そうだろうな……お主も儂の様なババアの家には泊まりたくないだろうな。」


何でそうなった!?めんどくせぇコイツ!


「いや、そういうわけでは……」


「良いんじゃ……儂の様な気持ち悪い年増の混ざりエルフのチビの貧乳はこの狭い部屋の中で一生酸っぱい果物でもすすっておれば良いのじゃ……ぐすっ。」


そう言いながら、ハーネスは床に体育座りをし、のの字を書き始めた。

こ、こいつ……実はかなりめんどくさい奴何じゃないのか?

このまま無視して帰りたい所だが、それだと魔法を教えてはもらえないかもしれない。

とりあえずなんか言っとけ。


「ハーネスよ。」


「……何じゃ?」


「落ち込むことはない。」


「ふっ、安い励ましなどいらぬ。儂は……」


「ただ若いだけの女性より、ハーネスみたいな、なんというか……深い方がよっぽど素敵だと思うぞ?」


因みに俺はグラマス好き。


「なっ!お主という奴は……」


「可愛いよ、ハーネス(星空に語りかける様なイケボ)」


「な、なっ、なっ!」


ハーネスは顔を真っ赤にしてたじろいでいる。

ははは!エロゲで培った台詞の数々を食らうがいい!

自分でさえ言ってて死にたくなるぞ!

言われた当事者が耐えられると思うなよ!


「ハーネス……」


「け、けんいち?」


「ずっと私にスープ作ってくれよ?」


「あぅ……」


今だ!食らえ秘技!頭ポォンポォン!


「あ……」


「それでは、次は魔法を教わりに来る。」


「う、うん!あ、いや!分かった!」


俺はそう言い残して、部屋を出ていく。

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新作はじめました。 現代日本で騎士の怪物になってしまった男の物語です。 貌無し騎士は日本を守りたい!
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