37.森の闇
空は黒く染まり、まばらに星々が輝いている。
もうかなり暗くなっちまったな……。
夜は足元も悪いし、注意しながら帰ろう。
しっかしスープ美味かったなぁ……
次はブラウと一緒にまた来たい。
明日ブラウを村人に紹介した後にでも行こうか。
魔法も教われるし、旨い料理が食べれてブラウもきっと喜ぶ。
「グァァァァ……」
俺がそう思いながら歩いていると、どこかからうめき声の様なものが聞こえてきた。
な、なんだ、この声は?
周りを見渡し、警戒しながら耳を済ます。
ドン、グチャ、ヌチャ、ドチャ。
その足音らしき物は、遠ざかったり近づいたりしていて、特に目的が有って動いているようには感じなかった。
しかし夜の暗さもあり、中々に怖い。
こんな場所さっさと立ち去っちまおう。
俺は再び歩きだそうとして前を向いた。
「グァァァァ……。」
……今度はかなり近いな。右手の方から聞こえる。
ちょっと気になるから調べてみるか。
俺は右の茂みに向かって、『観察』を使った。
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【『アンデッドグレーターベア』:E+ランク】
【未練の残る死を遂げた生物の成れの果て『アンデッド』】
【生前の強靭な肉体は微塵も残っておらず、腐肉を引きずり未練を背負いながら永久を漂う】
【アンデッドの腐りきった脳には既に思考能力はほとんど残されておらず、しかしその記憶の底にこびりついた未練の元を探しているため、常に肉体の痛みと焦燥に襲われている】
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こいつは……
俺がその茂みの近くを見ると、俺が前作ったグレーターベアの子供の為の墓があった。
恐らくこの『グレーターベア』は俺が殺したヤツと同じ固体だろう。
その証拠に胸に俺が空けた風穴がある。
間違いない。
そして残した未練というのは多分あの子供グレーターベアの事だ。
だから自分の元のテリトリーで、自分の子供がいたモモンの木の周りを彷徨いているのだ。
これは……殺してやるべきなのだろうな。
説明文からして苦しんでいる様だし、アイツの子供が死んだのも、状況的に仕方が無かったとはいえ半分は俺のせいだろう。
責任は取らなければならない。
俺は茂みを掻き分け、『アンデッドグレーターベア』のシルエットに近づいていく。
そして茂みを抜けると、だんだんソイツの姿がはっきりと見えてきた。
しかし、その姿は思ったいたよりも遥かに凄惨で残酷だった。
削げた耳、こぼれて落ちかけた黄色く濁った目玉、そしてもげた腕の傷口から覗くピンク色の腐肉。
まだまだあるが、俺の精神的衛生上よろしくないので、割愛させてもらう。
「うぷっ……。」
口に胃酸が込み上げてきた。
俺はそれを飲み込み、もう一度『アンデッドグレーターベア』を見据える。
俺が息の掛かりそうな程近くによっても、ボーッとしたままで、攻撃してくる気配はない。
……これはもうただの動く肉塊だ。
その黄色く濁った目はもう何の象も映していないし、頭に思考も無い。
しかしただ魂に『苦しい』という実感だけが残っている。
それはあまりに不憫だ。
俺は剣を抜いてそいつの首に『斬撃』を使用し、首をはねてやった。
生前は思いっきり突き立てても先端すら突き刺さらなかったのに、今回は簡単に刃が通った。
アンデッド化によるランクダウンのせいだろう。
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【経験値を30得ました】
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グレーターベアが倒れ、全く動かなくなった。
け、経験値もらったしもう本当に死んだよな……?
流石に二重アンデッド化は無いと信じたい。
俺は倒れたグレーターベアのに背を向け、再び歩きだした。
本当は埋めてやりたかったんだが、グレーターベアの体長は3メートル以上ある。
埋めるのは厳しいだろう。
しっかし何なんだよアンデッド化って……
もしかして今まで俺が殺してきた魔物は全員アンデッド化してんのか?
いや、説明文からして多分違う。
あのグレーターベアは自分の子供を残して死んだからアンデッド化したんだ。
普通はしないだろう。
それかC+クラスでさえEになってたからそもそも下級の魔物はアンデッド化できないとかもありそうだ。
そうこう考えてる内に、家が見えてきた。
さっきのハーネスの家とは違ってみすぼらしい内装だが、実家の様な安心感だ。
ほら……何て言うかさ、ハーネスの家がホテルだとしたらこっちは完全なパーソナルスペースっつうかさ……
語彙力不足で申し訳ないが、とにかく家が見えてきて安心した。
さっきリアルホラーに遭遇してずっとそわそわしてたからな。
これからはできるだけ夜の森は歩かない様にしよう。
何か良くないものを見る気がする。
「ただいまー」
俺はドアを開けた。
ブラウはもう寝てるかな?
「ケンイチさん……」
何故かブラウが短い足を折り曲げ、正座していた。
ど、どうしたんだ?
つか正座すんなよ……ドラえもんの正座みたいで違和感しかないぞ。
「どうした?」
「この度はっ!ケンイチさんの料理まで食べてしまって本当にすいませんでしたぁぁぁ!」
ブラウが藁の地面に頭を叩きつけた。
ボスッ、というマヌケな音が部屋に響く。
なんだ、そんなことか。
今俺はスープを飲んでとても機嫌が良いからな。
それについてはもう怒っていない。
「いや、もう怒っていない。」
「もうって……やっぱりさっきまでは怒ってたんですね……」
う……痛いところを……
「けどもう大丈夫だから。明日は村に行くんだからもう寝るぞ!」
「で、でも……」
「良いから寝るぞ!」
「でもケンイチさん……」
「お休みぃぃぃ!!!」
俺は藁にダイブした。
「は、はい!」
今日はあまり寝てなかったせいか、いつもより藁が気持ちいい。
お休みー




