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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第一部
29/232

#028「照れ隠し」【英里】

#028「照れ隠し」【英里】


 きっと太陽が眩しかったせいよ。幼馴染に惚れるなんて、絶対ありえないんだから。

 十月九日月曜日、体育の日。体育祭終了後、英里と小梅は、救護テントに置かれた簡易ベッドの端に並んで座っていると、二人の前に、吉川が姿を現した。

「最終種目、クラス対抗、男女混合スウェーデンリレーは、アンカーの活躍で、見事我が二組がトップとなり、一組を逆転して優勝いたしました」

 おどけた様子で敬礼し、結果を報告する吉川。

「英里ちゃんに付き添いながら、放送は聞いてたよ。最後までデッドヒートだったね、吉川くん」

「あの一年生放送部長は、なかなか白熱した解説だったわ」

 最後に、放送部員の勧誘をしなければ良かったんだけど。悪い意味で、大橋照美の名前は、かごめ中学の歴史に刻まれたことでしょう。

「実際、最後まで勝敗が分からない接戦だったんだって。四位ビリでスタートして、バトンミスのあいだに追い上げて三位。それから、さらに粘り強く追い上げて二位。んで、俺がサッカー部のエースに競り勝って一位」

「よく最後まで走れたね。徒競走の予選と本選にも出てたでしょう」

 そう。合計で八百メートル。まぁ、陸上部なら走れて当然よ。

「ありがとう、鶴岡。スウェーデンリレーの前に、フィンランド式の障害物競走もあったけどな」

「誰が奥さまよ」

「まぁまぁ、英里ちゃん。抑えて、抑えて」

 小梅は、立ち上がろうとする英里の両肩を押さえ、座らせたままにする。

「お姫さまにしては、重かったぜ。熱中症で倒れたのを抱っこして、ここまで大回りで走るのは、今回で一番骨が折れた。走り切ったところで、ゴールテープが無いのも辛いところだ」

 失礼ね。包帯でぐるぐる巻きにしてやるわよ。

「おつかれさま。今日一日で、更に日焼けしたんじゃない」

 本当。狐色を通り越して、おこげみたいに真っ黒。

「おぅ。朝から、半袖短パンで走り回ったからな。皮がめくれるんじゃないかな。最低限の種目にしか参加せず、炎天下でジャージを着込む誰かさんとは違う」

「ふん。紫外線は女子の天敵なの」

 英里は腕を組み、鼻を鳴らしつつ、斜め上に顔を向ける。

 でもまぁ、リレーは体育祭の花形だし、大活躍なのは間違いないわよね。認めるのは癪だけど。

「それは、そうだけど。ここは、素直に労をねぎらうべきじゃないかしら」

「仕方ないわね」

 英里は吉川のほうを向き、抑揚の無い声で早口に告げる。

「大変よく頑張りました。おつかれさま。これで満足した」

「感情がこもってないな。ハグしてくれてもいいんだぜ」

 両手を広げて待つ吉川に、英里はグーパンチをお見舞いする。

「調子に乗るな」

「ぐはっ。餡パンチか。ばいばい菌するしかないな、これは」

 吉川は大袈裟に顔を顰めて腹を押さえ、背中を丸めたまま、その場を後にする。

 泣き虫で、お調子者で、恋愛対象の遥か圏外だったはずなのに、いつの間に、こんなに男らしくなってたのかしら。近過ぎて、全然気付かなかった。ちょっとだけカッコイイと思ってしまったけど、面と向かっては恥ずかしくて言えないし、……最後の道化をマイナスにして、プラスは帳消しかな。


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