表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第一部
14/232

#013「汝を愛す」【万里】

#013「汝を愛す」【万里】


「おいおい。部屋はノックしてから入ってくれよ、姉貴。大の男には、女子供に見られたくない秘密があるんだからさ」

 誠は口を尖らせ、非難めいた口調で万里に言った。

 卑猥な雑誌を開いて前屈みに自家発電してるところを、私に見られた経験があるくせに。いまさら隠し立てすること無いじゃない。

「中学生みたいなことを言わないの。だいたい、ノックしようにもドアが無いじゃない」

「だからって、いきなりシャーって開けるなよ。着替え中だったら、どうする」

 十歳までお風呂に入れてたのは、誰だと思ってるのよ。あの頃、私は高校生だったんだからね。

「どうもしないわよ。たとえ全裸だったとしても、ちっとも気にしないわ」

 万里はベッドサイドのテーブルに花束と荷物を置くと、その奥に置かれている二つの化粧箱と、花瓶に生けられた胡蝶蘭に視線を移した。

 しばらく、私が花束を持ってくる必要は無さそうね。

「ねぇ、誠。新聞社を辞めて、近々、小料理屋でも新装開店するつもりなの」

「悪くない話だけど、編集長を退職する予定は、今のところ無いな」

「あら、残念ね」

 万里は、重ねて置かれた箱のうち、上の箱の蓋を開けた。

 このマークは、銀座の高級果物店のものね。今は、何の果物が旬だったかしら。

「まぁ、立派なマスクメロン」  

 甘い香りだこと。そろそろ食べ頃かしら。

「そこの花束もそうだけど、観音院のお嬢さんが、ダークスーツを着た筋肉質なボディーガードと一緒に見舞いに来てな。『未来のお義父さまに、ご挨拶とお見舞いに伺いましたの』だとさ」

 おや、まぁ。着々と外堀を埋めていってるわね。恋する乙女の行動力は、潤沢な資本があると桁違いね。プリンセスはクイーンになれるとして、プリンスはキングになれるかしらねぇ。

「下も同じなのかしら」

「いいや、そっちの箱にはピオーネが入ってる。二房あって、一房は食べたから、メロンと一緒に持って帰ってくれ」

 誠は昔から、メロンも西瓜も食べられないものね。舌が子供のままなんだから。

「それじゃあ、遠慮なくいただいて帰るわね」

 万里は手荷物を出し、空いた袋に二つの化粧箱を入れた。

「着替えとか小物類とか、前に欲しいって言ってたものは全部持ってきたつもりだから、あとで自分で確認してちょうだい。何かあったら、すぐ連絡してね」

「おぅ、了解」 

「そうそう。荷物の中にあるタッパーには、頂き物のバームクーヘンが入ってるから」

「わかった。助かるよ」

 万里は病室をぐるっと見回すと、袋と花束を持ってカーテンに手を掛けた。

「そんなところかしらね。それじゃあ、今日は急ぐから」

「ちょいちょい。あのブツも持って行ってくれ」

 誠は、親指で斜め後ろにある引き出しを差しながら、万里に言った。

「あぁ、アレね。そんな密輸品みたいに言わなくても」

 万里は引き出しを開けると、中のビニールを近くにあった白いレジ袋に入れ、口を縛って袋に入れた。

 帰ったら胡蝶蘭の花言葉を調べてみなきゃ。どんなメッセージが込められてるか気になるわ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ